わたしのかばん
10年以上前、30歳の思い出を作りたいと模索していた僕は、「せっかくなら大きい事を成し遂げたい。そうだ、日本一高い山は新高山………違う、富士山だ。富士山を登頂して思い出を作ろうではないか!」と、居酒屋で盟友と盛り上がりった。
そして決行日の前日。僕はスポーツ用品店へ行った。色々と物色していく…。そんな中、やはり大切になってくるのが、『リュックサック』だ。
これだけは少し値が張っても良いと自らを説得。結果、1時間以上に渡りリュックサックをガン見しながら、時に定員さんを呼んでは実際に背負ってみたりを繰り返した。
結果、18000円のリュックサックを購入することに決まった。黒色とブルー色の合わさったリュックサック。ちょっと派手だけど、万が一遭難した場合でも活躍してくれると信じて………。
そして決行日当日の朝。僕はリュックサックに付属している全てのチャックを開けると、以下の物を入れていった。
タオル2枚、トレーナー、替えのTシャツ、靴下、猿股、カッパ上下、2リットルのペットボトルの水、ミックスナッツ、350mlの缶ビール3本、ボディーペーパー、目薬、歯ブラシセット、正露丸、赤チン、バンドエイド。
背負ったリュックサックは思いのほかズシンと重かった。登っているうちにこの重さが肩に食い込んでくることが予想されたので、結果的に高めのリュックサックを購入して正解だった。
盟友を乗せて富士5合目に到着。記念撮影を行ったあとで、僕らはリュックサックを背負って、アタック開始。
富士山登頂を目指します!
時に暴風に立ち向かい、時に大雨に打たれながら、何とか8合目の山小屋に到着。リュックサックを肩からおろした時、この世の全ての重荷をおろせたように感じて、かなり安堵したのを覚えています。おかげさまで肩が痛くなることはありませんでした。niceリュックサックです!
着替えを済ませると、リュックサックからカシューナッツと缶ビールを取り出し、盟友と乾杯。勿論、山小屋で缶ビールを飲んでいるのは僕らだけ。
だけどネ、8合目で飲んだ缶ビールは、生涯忘れられない美味さとなったのですョ。だからネ、あの時の山小屋のみなさん、ごめんなさい。
翌朝、残念ながらご来光は見られなかったけど、山頂付近でおよそ100年ぶりの金環日食を見る事に成功。これはきっと天からのご褒美だったと僕は思うのです。
うれぴー。
結果、無事に富士山を登頂できたのか否かは、拙著の『30歳、五里霧中』をお読み頂ければと思います。確信犯的に宣伝をしてしまい、相すみません。
軽くなったリュックサックを背負いつつ、寂しさを覚えながら下山して行きます。下山時は何事もなかったかのように晴天で、風もほぼ無風でした。
およそ3時間かけて無事に下山することが出来ました。そのまま盟友を乗せて温泉宿に投宿。お互い酒を飲みながら、20時には寝ていました。
その後、僕は登山やキャンプが趣味になりました。当然ながらあのリュックサックを背負って、どこまでも歩いて行きました。どこまでも………。
残念ながら3年ほど前に、リュックサックは破けてしまいました。リュックサックの写真もございません。ネットで検索するも、あのリュックサックは見つからずじまい。残念無念です。
僕の思い立った富士山登頂から始まり、ずっと影の立役者として僕と一緒に同行してくれたリュックサック。
君を背負ったあの感覚は、今でも僕の財産となって刻まれています。
ありがとう、リュックサック。
【了】