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とある青年との会話

みなさん、おはようございます。
kindle作家のTAKAYUKIでございます☆彡

過日。チンラを食べに行こうと事務所を出ると、以前に2,3回一緒に仕事をした青年が、スマートフォンを持ってウロウロしていた。

声をかけて行こうか、それともこのままスルーして行こうか、迷ったけれども僕は齢40過ぎの中年メタボ。さすがにスルーはあり得ないと思い、声をかけてみた。
「お疲れさん。誰からの連絡を待っているの?」
僕の問いかけにちょっと驚いた青年。だけど青年は持っていたスマートフォンを見ながら答えてくれた。

「じ、実は先日、採用面接を受けた会社から着信がありまして。折り返そうかどうか迷っていますぅ………」

なんとか最後まで聞き取ることができた。青年は瘦せ型で身長こそ高いけど、ガリガリだ。おそらく体重は60キロにも届かないだろう。

「代わりに電話しようか?」
「いえいえいえ」
青年は狼狽した。

「うそウソ。結果が分かったら教えてくれョ」


2週間後、お昼休みになったのでチンラを食べに行こうと事務所を出た。

「嗚呼…これをデジャヴだと、世間ではいうのだろうか」と、僕は目の前の光景を見てそう感じた。そして、背中に悪寒が走った。

あの青年が、またスマートフォンを持って、またウロウロしているのだ。マジでガチで2週間前と同じ状況。でもちょっとだけ僕は面白いと思った。だって前回よりもさらに青年の狼狽ぶりが酷くなっていたからだ。

ひっひっひっ。

僕は青年の後ろに回り込み、「おめでとう!」と大声で言った。

ビクッとなった青年が、ゆっくりと僕に向き直った。
「や、やめてくださいよ~」
そう言った青年は、スマートフォンに視線を落とした。
「飯でも食いに行くか?」
僕は言った直後に後悔した。なんで後先考えずに彼をチンラに誘ってしまったのかを。
でも…まあいいか。

すると青年はちょっとだけ笑ってくれた。
「あ、ありがとうございます。でも今日はお弁当を持ってきたので」
青年が首を垂れた。
「それならしょうがない。ところで君はいくつなの?」
「30の歳になります」
青年が即答した。
でも僕は『30の歳になります』という言葉遣いに違和感を覚えた。僕の嫌いな言い方、言い回しだ。

青年はスマートフォンをポケットにしまった。
「こないだの採用面接は不合格でした。そして直近で受けた採用面接もまた不合格でした」
青年がアスファルトをガン見した。
採用面接2連敗。30歳でこの現実は厳しいと思われる。

「仕事を辞める前提で行動しているってことか」
僕は独り言のように言った。
「実は僕、派遣社員で、今月末で契約期間が終了するのです」
青年がようやっと視線を上げた。

「そうなんだ。ところで何の採用面接を受けているの」
「全部事務系で、家から1時間で通える圏内をターゲットにしてます………」

「なるほどネ。いまは40代でも若いと言われる時代だから、30歳なら沢山の需要があるから大丈夫だョ。他にやりたい事があるの?………無いのであれば 、家から近い正社員の仕事を探した方が無難かもネ」
僕は老婆心ながらアドバイスをしてみた。

すると、青年がまた視線をアスファルトに落とした。
「正社員ってハードルが高いじゃないですかあ。だから僕が採用面接を受けている会社は全て派遣会社なんです」

僕は言葉に詰まってしまった。派遣社員? 今日では派遣社員の待遇を正社員と同等にするという知らせを聞いて久しい。にも関わらず、正社員の採用面接だとレベルが高いから、自らランクを落として派遣社員の採用面接を受け続けている日々。それも2週間で2社も不採用。

青年ョ………大丈夫か?

その時、僕のスマートフォンが鳴った。客先からの電話だ。
「悪い。また今度話しの続きを聞かせてくれ。お疲れさん」
青年が僕に一礼をした。僕はそのまま歩き出した。


10月1日になった。僕は朝からメールの確認をしていると、青年が退職したのを知った。

僕は彼の部署を訪れると、一番手前にいた女性社員に聞いてみた。
「嗚呼…あの子なら先日で退職されました。確か…アルバイトで喰いつなぐって言ってましたョ。まだ若いから頑張りなさいって、ハッパをかけておいたけどね。どうなることやらネ…」

女性社員が両肩をすくめておどけた。僕も同じリアクションを返すと、自分のデスクに戻った。

あの青年の顔を思い出してみる。

うーん。

青年にとっては他愛もない話しだったかも知れないけど、2週間で2度も彼に会う機会があったということは、なにかしら僕が彼にアドバイスをするよう、蒼天が仕組んだのかもしれない。

でもアドバイスって難しいよネ。

でもこれだけは言える。青年ョ、君の前途はとても明るいぞ!

うくくッ………。




【了】


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