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犯人はだれだ?

みなさん、おはようございます。
kindle作家のTAKAYUKIでございます☆彡

過日。軽井沢に住んでいた頃、朝起きて寝室の窓を開けると、「嗚呼…今日も秋晴れで何より。さあ原稿をたくさん書くぞ。えい、えい、オー」なんて気合を入れた後だった。

「臭い。煙い。朝から何を燃やしているんだ!」

すると道路を挟んだ向かいの一軒家の裏庭から、煙が天に向かって伸びていた。おそらくドラム缶や小さな焼却炉を活用して燃やしているのだろう。まあ田舎ではよくある光景なので、僕は特に気にすることはなかった。

数週間後、寝室のドアを開けると、またあの一軒家の裏庭から煙が立ち上っていた。時刻は6時過ぎ。
もう見慣れた光景になっていたので、僕はそのまま窓を閉めようと思ったその時、玄関から股引姿の主が姿を現したのである。齢70といったところか。

主はサンダルを履いて裏庭に向かって歩いている。それも足を引きずりながら歩いていて歩幅も狭い。認知症の疑いがあるかも知れないなんて思いながら、再度僕は窓を閉めようとしたところ、「禿。燃やすな!」と、だみ声が聞こえてきたのである。

これ、マジです。これ、ガチです。

僕も一瞬、ビクッとしたけど、裏庭に向かって歩いている主もビクッとなってこちらに向き直った。僕は瞬時に窓から離れた。何も悪いことはしてないけど。

20秒我慢して再び窓際に立った。主の姿は消えていた。おそらく声が聞こえたのは僕のアパートかも知れない。だって主がこちらに向き直ったのだから。

アパートは2階建ての10部屋。つまり寝室の窓から主の一軒家が見えるのは全部屋。誰でも寝室の窓を開ければ誰でも見えるのだ。僕は2階の角部屋で、主の家をほぼ真正面に見ることができる。

先ほどの声の感じからすると、どの部屋からだろうか。

「まあ、ちょっとした悪戯だろう。さあ原稿を書くゾ!」


すると翌日以降、朝6時を過ぎて寝室の窓を開けると、必ずだみ声が聞こえるようになったのである。

「禿。燃やしたら部屋に焦げた臭いが入ってくるだろうがッ」
「禿。不燃ごみを燃やすな!」
「禿。ルールを守れ!」
「爺さんになってまで世間に反抗すな。禿!」
「ヅラ買ってやるから、もう燃やすのはやめろ。禿!」

いつの間にか、僕はこのキャッチフレーズを聞きたい症候群にかかっていた。このだみ声男は、必ず主が裏庭に向かって歩いている時に声を発するのである。だから必ず主が股引姿でビクッとなって、毎回こちらに振り返ってガンを飛ばす姿が、これまた滑稽で哀愁があってたまらないのです。

すみません、毎朝僕はこの光景を見て大笑い。号泣しております。

本来はそれこそ市役所に連絡をしたり、このキャッチフレーズがもっと過激になれば警察に連絡という手段も講じるべきだとは思うのですが、そこまで悪質ではなく、かつキャッチフレーズなので一言で終いなので、どう行動して良いのかが分からないのですョ。

年が明けて大雪が降った。
その日以降、主の家から煙が立ち上ることはなかった。主の姿も見なくなった。それと同時にだみ声男の声も聞こえなくなった。

「これで万事解決じゃないか。めでたしめでたし」


3月になった。
朝起きた僕は寝室の窓を開けた。
「今日もいい天気。さあ原稿を書いて………ハックション」
そうです、スギ花粉が襲来したのであります。

僕は急いで窓をしめようとしたその時、「嗚呼…煙だ。懐かしい」と、声を上げてしまいました。主の裏庭から天に向かって煙が立ち上っているではありませんか。嗚呼…主は生きていたのだ!

僕はティッシュペーパーで洟をかみながら、その時を待った。


すると、玄関から主が登場した。股引姿ではなく、ダウンジャケットを着て、ジャージのズボンを履いている。主、元気そうでなによりです!

主が裏庭に向かって歩いて行く。両足を上げずにサンダルを引きずりながら、よちよちと歩いて行く。だみ声はまだ聞こえない。

主の姿が見えなくなった。だみ声男は越してしまったのだろうか。僕は安堵感とわずかな寂しさを覚えながら、窓を閉めかけた時だった。

「は、禿。また燃やしやがったな。7時に変更したのか、この野郎!」


久方ぶりに聞いただみ声。その懐かしいだみ声に、僕はしばらくの間、本当にマジでガチで腹を抱えて涙を流しながら大笑いしました。


みなさん、近隣の方とは仲良くしましょうネ☆彡




【了】


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