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うつ病との格闘~サカナクション 山口一郎さんからの学び
過日、NHKの番組でうつ病から回復し、全国ツアーを復活させたミュージシャン(サカナクションの山口一郎さん)のドキュメンタリー放送がされていました。昨年5月のゴールデンウィーク辺りにも放送されていて、今回は、その後の半年間の様子が加わった内容でした。
私は「うつ病=心の風邪」と言うような言葉を聞いていて、時間と共に、症状がなくなり、ちょっと休めばすぐにでも元に戻ると錯覚していました。
また、「心の風邪」なら、少し休んで、いや、気合いで頑張れば何とかなる、気持ちで復活する・・・ぐらいに思っているところもありました。しかし、この「心の風邪」は、聞くところによると、製薬会社が抗うつ薬を販売するためにつくったプロパガンダとも言われています。
実際は、病気なので、心身ともにダメージが大きく、「自分の気持ち(がんばり)」で元に戻せるものではない」そうです。そして、今回のドキュメンタリーを見ていても、それほど「甘いものではない」と言うことがよく伝わってきました。
個人差はあるでしょうが、重たい症状に苦しみますし、その気分の落ち込みを周りの人に支えてもらえないと、さらにメンタル的に厳しくなることもよく分かりました。
また、大けがや皮膚に症状が出てくる病気とは違い、見た目には「普通」なことが多いので、周りにいる人に、そのつらさが伝わらない部分もあります。
私はうつ病になったことはありませんが、時に片頭痛(群発頭痛?)の発作に悩まされるときがあります。痛みによって起き上がれない、何も手につかない、とにかく横になって痛みをやり過ごすしかない状態になります。
しかし、その痛みはなかなか周りに伝わらないので、「ちょっと我慢すれば平気でしょ」「おおげさだなあ」等と受け止められると、本当に「理解されない」という孤独を感じます。それが、よけい、気持ちを落ち込ませたりもします。
うつ病の寛解率は90%。再発率は50%とも言われています。
多くの人が治りますが、逆に言うと、10人に1人は、なかなか治らない状態になるともいえます。
では、うつ病とは何か。うつ状態との違いは何でしょうか?
簡単に「病気」「健康」という言葉を使っていますが、その線引きははっきりしません。どこからが病気なのか?どういう状態が健康なのか?
病気と健康の間には、前段階があり、東洋医学では「未病」と言うそうです。
未病と病気の大きな違いは、未病は「可逆的」、病気は「不可逆的」であるということ。つまり、病気になると、なかなか元に戻らない、簡単に治らないということです。
逆に、「未病」段階であれば、無理せず、生活習慣を改善したり、しっかり休んだりすることで、「健康」状態にまでもって行けます。
では、うつ状態とうつ病の違いは何か?次のような説明がなされます。
うつ状態とは
ストレスで脳内の神経物質が異常をきたし、気分が落ち込む状態。
うつ病とは
日常生活が送れないほどに、深刻なうつ状態(が続くこと)。
脳の横側に「偏桃体」があります。
主に「情動に関連する部位」です。情動の中でも、恐怖や不安と言ったマイナスの情動と深く関わっています。そのため、うつ病などのメンタル疾患と関連が大きいと想定されています。
つまり、「偏桃体の興奮=不安・恐怖」と言う図式です。
偏桃体が興奮するということは不安や恐怖を感じているということです。
逆に言うと、平時の時はOFF状態です。
ひとたび、ストレスにさらされると、ONへ!!そして、このスイッチが続けてON状態となり、元に戻らなくなった状態がうつ病と考えられてもいます。
普段の生活で考えれば、火災などの警報器が24時間、ずっと鳴りっぱなしと例えられます。こんな状態が続けば、「脳がショートしてしまう」「壊れてしまう」というのは、容易に想像がつきます。
そして、うつ病を発症しているときは、常に不安が高まりますし、何でも悪い方向へ考え、ネガティブな思いにも囚われます。衝動性の高まりとともに、「自死」の可能性も高まり、注意が必要になります。
うつ病などのメンタル疾患になる前に大切なのが、病気の前段階である「未病」時に、生活習慣を改善したり、ストレスを軽減する方法を取り入れたりすることで、「偏桃体の興奮」を静める事です。
普段の生活でできる、そんな興奮を静めてくれる方法がいくつかあります。
1 「言葉の力」を活かす。
言葉は主に、額の下あたりにある「前頭前野」を活性化させます。その力によって、偏桃体の興奮を抑えることができます。
具体的には、「人に相談する(話をする)」「読書をする」「日記など、何か紙に書く」などです。
一つ目の「人に相談する(話をする)」について。
日本の自殺者の調査によると、およそ6割の人が誰にも相談しないで命を絶っているという結果が出ています。命にかかわるほどの人生最大の悩み。それを誰にも相談することなく一人で抱え込み、自分で最悪の結論を下してしまう。誰かに相談していたら、問題をすぐに解決できないまでも、命を絶つところまではいかなかったかもしれません。
相談できないことでネガティブな感情で心がいっぱいになり、悩みを深めてしまいます。そんな時に、人に話をすることで、気持ちをやわらげられます。
それは、自分の悩みを言語化して外に出すことで、一度、ネガティブな感情から距離をとれる~ガス抜きすることにつながるからです。また、人と話をするという行為自体が「癒し」にもつながります。弱音、愚痴、辛い気持ちを吐露することで、心にも少し余裕(スペース)が生まれます。
二つ目の「読書をする」について。
本を読む(解決法を調べる、知る)だけでストレスは軽減できます。それは、解決法を知ったということだけで、自分で何とかできる、何とかなるという気持ちのゆとりが出るからです。だから、たとえ、状況が改善されていなくても、まず本を読んで知るだけでも不安をなくすことはできます。
また、読書によって、言語情報が脳に入ってくると、偏桃体の興奮がおさえられ、ネガティブ感情が静まり、決断能力も高まることが観察されたという研究結果もあります。
別の研究では次のような結果もあったそうです。
イギリスのサセックス大学でのストレス解消研究についてです。
読書 68%
音楽視聴 61%
コーヒー 54%
散歩 42%
TVゲーム 21%
の順番でストレス軽減効果が見られたそうです。どうしてそうなるのかの仕組みははっきりとは分かりませんが、不安や悩みの事ばかりに意識がいっていたのが、読書によって「別の世界」に意識を向けられ、悩みを客観的に見たり、一度離れられたりするからかもしれません。
三つ目の「日記など、何か紙に書く」について。
人に相談できない時があります。そして、悩みをため込んでしまう。
そんな時、自分一人でできる対策の一つが「書き出すこと」です。
書くことで、頭の中にあったネガティブな感情を外に出せます。距離をとれます。また、書くことで、客観的に見ることができ、堂々巡りをして悩みで頭(心)がいっぱいの状態を防ぐことができます。これも、一種の「ガス抜き」と言えます。
そういえば、精神医学の世界では「日記療法」が、非常に効果が高い方法として取り入れられているそうです。日々、ストレスをが「0」になることはありませんが、日記を書くことによって、ストレスとうまく付き合う「心のしなやかさ」が生まれ、心が折れづらくなるからだと思います。
2 「トイレ掃除」を行う。
トイレ掃除に限りませんが、特に磨くなどの同じ動き、一定の動きを行う掃除です。自分の経験では、磨き掃除を続けていると、不安や心配事で一杯だった頭の中の「おしゃべり(妄想)」がだんだんと消えていきました。静かになっていきました。
そして、掃除をし終わると、きれいになった便器を見て、達成感や高揚感、清々しさを感じました。いわゆるマインドフルネスな状態になります。
ごしごしと磨くリズム運動によって、頭の中にセロトニンが分泌されます。
セロトニンは脳の指揮者とも言われ、他の脳内物質も整い、感情がコントロールされます。
自分の身の回りもきれいになりつつ、心も整う。
そして、不安を鎮めてくれる。一石二鳥です。
3 質のよい睡眠をとり、散歩をする
「睡眠時間を削る」ことは、メンタルにとって一番よくない生活習慣と言えます。
実際、睡眠時間が6時間以下の人は、それ以上の十分な睡眠時間をとっている人と比べて、うつ病が5,8倍、自殺が4,3倍となってリスクが跳ね上がるという調査結果があります。
私自身も、社会人になりたての頃は、それこそ「睡眠時間を削ってでも頑張る」ことを良しとしていました。
休む暇があるのなら、何か別の仕事を。
人と雑談するぐらいなら、その時間を仕事に。
そんな、「余裕のない」生き方、仕事をしていました。
しかし、それで成果が上がったかと言えば・・・下を向くしかありません。
人間は機械やロボットではないので、使えば、疲れますし、「故障」も出てきます。
どこかで休ませる、回復する時間をもたなければ、パフォーマンスは落ちていきます。結局、時間をかけた割に、あまり進まなかったり、質が落ちたりします。
そして、メンタル疾患を引き寄せてしまいます。
6時間以下では睡眠不足。7時間以上の睡眠が推奨され、8時間寝ることが理想とされています。
もちろん、個人差はあるのですが、睡眠不足がいろんな病気のリスクを引き起こすことは間違いありません。
また、散歩、特に朝散歩が「最強の健康法」とも言われています
運動不足解消とともに、特に合散歩すると次のような効果があるとされています。
・セロトニンの活性化(幸福感のアップ)
・体内時計のリセット(質の良い睡眠につながる)
・ビタミンDの活性化(免疫力向上、骨を丈夫にする)
現在の日本ではうつ病になる人が増えているそうです。
原因はさまざまですが、その背景に「ストレス」があるのは確かです。
また、「適度な」向上心をもつこと、あるいは、上手に今の自分に満足できるかどうかが大切になってきます。
学校教育の中でも、「向上心」はプラスの価値がおかれています。
努力して頑張ろう、よりよくしていこう、上を目指そうという気持ちで、「成長」ということを考えれば、大切な考え方だとは思います。
しかし、
向上心とは、別の見方をすると「不充足感をばねに生きる」ということにもなります。今の自分を否定して、もっとよりよく、まだまだできると、悪くすると今の自分を責め続けることになります。
また、自分の強み(自分の向き、不向き)を無視して、とにかく何でも努力すれば、できるようになる、できないのは自分の努力が足りないからだという考え方の背景にもなっています。
だから、「1ランク上の自分」に憑りつかれてしまうと、体や心が悲鳴を上げるまで痛んでも、なかなか休めなくなります。
疲れて休む自分をも否定したり、責めたりしていきます。様々な要因はありますが、ひょっとしたら「自殺者」が多い理由の一つかもしれません。
さらに、
達成感や意欲によって「疲れ」をごまかせもするので、心身が疲れてダメージを受けているのに、気持ちが「ハイ」になってしまって、そのまま、がんばりつづけることで、「過労死」「うつ病」につながってしまう要因にもなります。
山口一郎さんのコロナ禍中の活動~うつ病になる前の段階がそんな状態だったようです。
病気になる前の「未病」段階で、いち早く生活習慣を改善したり、休んだりすれば、もとの健康状態に戻れます。
無理をせず、ちょっとした生活の工夫を意識して行動することで、ストレスをうまく緩和していければいいなと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです