ミュージカル「Flashdance」を終えて

ちょうど3ヶ月前
合格通知を電話でもらった翌日から始まった稽古
新たな人、環境との出会い。怒涛の毎日
その結晶が舞台の上で放たれた

はじめに

このミュージカルに出演して、失ったものが二つある。
仕事と金。
仕事に関しては、ミュージカルが忙しくなったからやめさせられるというブラック企業だったから、むしろ感謝だが、失ったことには変わりない。
金は悲痛な問題だ。
出演費、衣装代、食費、移動費合計で10万は消えたのではないだろうか(怖くて計算もできていない)

ただし、それ以上に得たものの価値は大きかった。
それは「大学生が魅せる本気」である。
私が所属するSeiren Musical Project は国内最大規模のインカレミュージカルサークルだ。
国内最大とはいえ、所詮サークルであることには変わりない。
スポンサーもいなければ、学校から巨額の支援が出るわけでもない。
しかし、クオリティには妥協したくないので、協賛やチケット販売を促進することで、プロの指導陣を有料で雇ったりしているのだ。
そんな厳しい環境なので、スタッフワークもほとんどがサークルに属する大学生。
もちろん報酬は出ない。
かかっている手間、時間を考慮すれば時給1500円くらいもらってもおかしくない仕事だが、「ミュージカルが好きだから」「みんなでいい舞台を作り上げたいから」その一心だけで自らの仕事に没頭する。
その姿は、私が知っている大学生ではなかった。

きっかけ

私が本サークルに入ろうと思ったきっかけは、自らの押し殺していた思いに向き合う時がやってきたからである。
私は、見た目によらず、ミュージカルが大好きだ。
観劇後にはいつも「自分も出たい」という気持ちに苛まれていた。
ただ、忙しさを理由に挑戦することから逃げてきた。
しかし、やっと何でもできる休学を手に入れて、私は新たにSeiren Musical Project の扉を叩くことになる。
キャストとして舞台で輝ければ何でもよかった。

夏公演に応募した理由は、この熱が冷めないうちに挑戦しなくてはと思ったからである。冬公演でも良かったのだが、めんどくさくなって結局応募しなさそうと思ったのが、正直な気持ちである。
自分はとにかく熱しやすく冷めやすい。
これだと思った時に動かなくては結局年会費だけ払う幽霊部員になってしまう。金に傲慢なのでそれだけは避けたかった。

稽古期間

この期間に関して言えることは超単純。
前日深夜に送られてくる該当を確認して、もし該当があれば稽古に行く。(ほとんどの場合呼び出される)
なんか深夜に呼び出し食らう都合のいい女みたい(笑)とか思いつつも、終わりがあることを知っていたので何とか耐えられた。
呼び出されなかった日は、自主練部屋を借りて次いつ呼び出されてもいいパフォーマンスが発揮できるようにと準備するお姉さんたちもいた。
「せっかくの休みなのに」と思いつつ、これすらも幸せだと思える人が本当に舞台俳優向きなんだと自分に言い聞かせ、後半は私も自主練部屋に参加するようになっていた。

古屋期間

古屋こやKOYA? 業界用語?
まあ要は舞台入りってことを意味する。
私はこの期間にSeirenの本気を知ることになる。
キャストの着替えをサポートするために、着替えを指定の時間、指定の場所にセッティングする衣装チーム
舞台で使う制作物を適切な場所に配置して配布、回収する小道具チーム
舞台に組まれた大きなセットを適宜修正する大道具チーム
演出上必要なカーテンの開け閉めを0.1秒単位で行う演出部
会場での受付や誘導等を行う制作チーム
キャストのマイクが確実についていることを確認し、送り出すマイク補佐チーム
きっとここにはメンションしきれていないが、関わってくれたスタッフを数えると100名以上。
これはキャストの人数の3倍以上。
全員が舞台を成功させるために自分の仕事に誇りを持って、没頭しているのを肌で感じた5日間だった。

おわりに

「役つきじゃないと出演しない」そんなことを豪語していた過去の自分を殴りたい。
ミュージカルではキャスト(特に主役や役つき)が重要視されてしまいがちだが、みんながそれぞれの世界の主人公なのである。
キャストは、あくまでもメッセージをお客様に伝達するツールであり、そのメッセージは裏で働いてくれたたくさんの人によって作られた。
同じようなことを現在働いているスターバックスでも言われたことがある。
コーヒーの生産者や工場勤務、本社勤務の人はお客様と直接関わることはできない。だから、川下の仕事を担う私たちには全てを伝える責任があるのだと。

「小さな役なんてない。みんな等しくちっぽけなの」
これは劇中で亡くなるハンナが発した言葉だ。そして私のお気に入りのフレーズ。
役の大きさなど関係ない。
ちっぽけがたくさん集まることであんなにも大きな舞台を成功させることができたのだから、一人一人がちっぽけだっていいじゃないか。

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