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実質的支配者の判断

前回、お話ししましたように、令和4年1月31日から「実質的支配者リスト制度」というものがスタートしました。
前回は、実質的支配者とは何か?実質的支配者リスト制度はどのような趣旨で創設されたのかについてご説明いたしました。

今回は、これについてのもっと細かい部分について説明していこうと思います。

まず、法務省などのホームページで説明している実質的支配者というものの定義がやや難しいので、ここではかなりかみ砕いて説明してみます。

まず、前提として、実質的支配者とはその会社の議決権割合の51%以上を持っている人、いなければ26%以上を持っている人を指します。(基本的には1株1議決権のケースが多いです。議決権が多いほど株主総会で意見が通る確率が高くなります。)

【ケース①】
A株式会社  株主 鈴木四郎さん 80%
          加藤明子さん 20%
⇒この場合は、鈴木四郎さんが51%の議決権をもっているので、鈴木さんのみが実質的支配者となります。

【ケース②】
A株式会社  株主 鈴木四郎さん 50%
          加藤明子さん 50%
⇒この場合は、2人しかおらず、どちらも51%に満たないため、26%以上の株主が対象となるため、この会社の実質的支配者は鈴木四郎さんと加藤明子さんの2人になります。

【ケース③】
A株式会社  株主 鈴木四郎さん 27%
          加藤明子さん 23%
          松本博史さん 20%
          田中孝弘さん 20%
          後藤聡さん  10%
⇒この会社の場合は、51%以上の議決権を持つ人がおらず、26%以上を持つ株主が鈴木四郎さんだけのため、この会社の実質的支配者は鈴木四郎さん1人となります。

【ケース④】
A株式会社  株主 鈴木四郎さん 25%
          加藤明子さん 25%
          松本博史さん 25%
          田中孝弘さん 25%
⇒この会社の場合には、51%以上を持つ株主も26%以上持つ株主も1人もいないため、株主の中に実質的支配者はいないと判断します。
このような場合に実質的支配者となるのは、「出資・融資・取引その他の関係を通じて事業活動に支配的な影響を有する者」が該当します。それも該当者がいなければ、その会社の代表取締役がこれに該当します。つまり、【ケース④】の場合においては、A株式会社の代表取締役が実質的支配者となります。
※ただし、この【ケース④】のパターンは、実質的支配者リストの制度を利用することはできません。

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次に、「間接的に議決権を保有している」というケースについて説明しましょう。
株主は「人(自然人)」であるとは限りません。株主が会社ということもありえます。
例えば、A株式会社の株式をB株式会社が保有しているということもあるわけです。このような場合には、さらにB株式会社の株主が誰なのか?というところを人(自然人)に行きつくまで確認していくことになります。

【ケース⑤】
A株式会社  株主 B株式会社  27%
          鈴木四郎さん 23%
          加藤明子さん 20%
          松本博史さん 20%
          田中孝弘さん 10%
⇒この場合、A株式会社を実質的に支配している株主は、51%以上の議決権を持つ株主がいないため、26%以上を保有するB株式会社が該当します。さらに、このB株式会社を実質的に支配しているのは誰なのか?を見ていく必要があります。この場合の判断基準は、「51%以上のみ」となります。
つまり、B株式会社の株主の中で51%以上を有する株主がいれば、間接保有にあたりますが、51%の以上の議決権を持つ株主が1人もいない場合には、間接的にA株式会社を支配する人もいないため、A株式会社の実質的支配者はいないことになり、結果的に上記の【パターン④】の状態になるわけです。

【ケース⑥】
A株式会社  株主  D株式会社  20%
           鈴木四郎さん 20%
           加藤明子さん 10%
           松本博史さん 10%
           田中孝弘さん 10%
           伊藤洋子さん 10%
           高田美紀さん 10%
           武藤健司さん 10%
⇒この場合には、51%以上の議決権を保有する株主がおらず、26%以上の議決権を保有する株主もいません。そのため、原則的には実質的支配者はいないことになりますから、これについても上記【ケース④】の結論になるはずです。

しかし、D株式会社の株主が以下のような場合にはこの結論が違ってきます。
(D株式会社の株主)
鈴木四郎さん 55%
松田健三さん 45%

この場合には、鈴木四郎さんはD株式会社の51%以上の議決権を保有しているので、
A株式会社の議決権をD株式会社を通して間接的に保有することになります。
すなわち、
鈴木四郎さんが自然人として直接保有する議決権   20%
鈴木四郎さんがD株式会社として間接保有する議決権 20%

ということになり、鈴木四郎さんは直接保有分と間接保有分を合わせて合計40%を保有するため、結果的に第2の判断基準である26%以上をクリアすることになるため、A株式会社の実質的支配者は、鈴木四郎さんになるのです。
この例でポイントとなるのは、直接保有と間接保有を兼ねているようなケースでは、合わせ技が適用されるということになっているということです。
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やや、難しい面もありますが、法務省のホームページ等の解説からこれを読み解くのは相当な前提知識が必要となりますので、できる限りかみ砕いて説明してみました。参考になれば幸いです。
実質的支配者が誰になるのかがわかれば、あとは法務省のホームページから様式をダウンロードして作成し、必要書類をそろえて法務局に提出する流れとなります。
法務省:実質的支配者リスト制度の創設(令和4年1月31日運用開始) (moj.go.jp)

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