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「銀色の約束 ~僕がちくわになる日~」
朗読台本描いてみました。
僕はトイプードルブリーダーの家で産まれた僕は新しい飼い主が見つかるまで名前はなかった。生まれつき脚が悪く、うまく歩くことができなかった。曲がっ脚は、走ることも跳ねることも許さず、他の犬たちのように自由に遊ぶことができなかった。僕は最後まで飼い主が決まらなかった。いつも窓辺に座り、外で遊ぶ犬たちを眺めながら、自分もあんな風に走り回れたら、新しい飼い主が見つかるのに、と夢を見る日々を送っていた。
しかし、現実は残酷だった。
公園で他の犬たちに会うたび、冷たい視線や無邪気な笑い声に心が傷ついた。周囲の人間も時折同情の目を向けるが、それがかえって僕の心を締め付けた。
ある夜、彼女は疲れ果てて、ひとり静かに涙を流しながら眠りについた。
夜が更け、月の光が優しく僕の体を包む頃、不思議な気配が漂ってきた。ふと、僕の前に銀色に輝くトイプードルが現れた。その毛並みは星明かりを浴びたように光を放ち、どこか神秘的な存在感を漂わせている。
「君の悲しみの声、遠くから聞こえてきたよ」
銀色のトイプードルは柔らかい声で語りかけた。その声は、不思議と心を温めるような響きを持っていた。
「君に、ひとつだけ特別な能力を与えることができる」
銀色のトイプードルは、静かに貴方にこの能力を贈ろう。
「これから君は、人間の言葉を理解することができます。」
銀色のトイプードルがそう告げた瞬間、僕の体を柔らかな銀色の光が包み込んだ。眩しさに目を閉じた次の瞬間、僕の耳には周りの音がいつもより鮮明に聞こえるようになっていた。
その時、ペットショップからのお迎えが来た。
ブリーダーのお家ではなかなか飼い主が見つからなかった為ペットショップに引き取られて行った。
小さなケージの中で寂しい毎日を過ごしていた。僕より後に入って来た犬達はどんどん先に買われて行く中、僕は後2ヶ月で一歳になってしまう💦
犬は2〜3ヶ月までがなつきやすいといわれいる中僕は8ヶ月と過ぎていた。値段も限界まで下げらた💦
ペットショップに引き取られてから、僕の日常は狭いケージの中で過ごすものだった。ブリーダーさんの家にいた頃も飼い主が見つからなかったけれど、ペットショップなら新しい家族が迎えに来てくれるかもしれないと、少しだけ期待していた。
けれど、現実は甘くなかった。
僕より後に店に来た犬たちは次々と「かわいい!」と声をかけられ、嬉しそうに新しい飼い主と一緒にお店を出ていった。でも、僕はいつもケージの中に残ったままだった。脚が悪いせいで上手く歩けない僕を見て、人間たちは決まってこう言った。
「あの子、脚が変じゃない?」
「かわいそうだけど、うちじゃ無理ね。」
「この子、病気なのかしら…?」
そんな言葉が聞こえるたびに、胸がぎゅっと痛くなった。僕だって、ちゃんと生きている。誰かに愛されたい。けれど、人間の目には僕の脚のことばかりが映るんだろう。
ある日、またお客さんが僕の前に立った。
40代くらいの夫婦で、優しそうな顔をしていた。二人はケージの前にかがんで僕を見つめた。
「この子、かわいい顔してるけど…脚が悪いみたいね。」
「そうだな。病院代とかもかかるだろうし、手間が増えるかもな…。」
僕は耳を伏せて、そっと顔を伏せた。こういうやりとりにはもう慣れていたけれど、それでも悲しかった。僕の脚のせいで、また家族が遠のいていく。
夫婦はしばらく僕を見ていたけれど、結局「ごめんね」と言って去っていった。僕はまた一人になった。ケージの中で体を小さく丸めながら、窓の外の空を見上げた。「僕にも家族ができる日は来るのかな…。」そんな不安が頭をよぎる。
店員さんがため息をつきながらつぶやく声が聞こえた。
「この子も、もう8ヶ月か…。犬は若い方が飼いやすいって言われるし、値段も限界まで下げたけど…。」
僕はその言葉にますます小さくなった。僕の価値は、こんなふうに値段で測られるものなんだろうか。脚が悪い僕は、本当に誰からも必要とされない存在なんだろうか…。
銀色のトイプードルがくれた「人間の言葉を理解する力」を恨み初めていた。知らなくて良い事まで知ってしまって悲しくなった。
「きっと、どこかに僕を迎えてくれる人がいるはず…」
そう信じたいけれど、目の前の現実は冷たかった。
ペットショップでの日々が過ぎる中、僕の心は次第に重くなっていった。何度もお客さんが僕の前を通り過ぎ、そのたびに「かわいそうだけど…」や「脚が悪い子は飼えないよね」といった言葉を聞くたびに、胸が締め付けられる思いだった。
ついに店員さんが小さくため息をつきながら言った言葉が、僕の耳に突き刺さった。
「この子ももう限界かな…。動物愛護団体に引き取ってもらうしかないかもしれない。」
動物愛護団体。どこかでその名前を聞いたことがある。そこでは、家族を見つけられなかった動物たちが、次のチャンスを待ちながら過ごす場所。でも、そこでもまた僕が選ばれる保証はない。もし誰にも迎えられなかったら…。そんな不安が僕の頭を埋め尽くしていた。
ある日の午後、いつも通りケージの中で体を丸めていた僕に、ふと優しい声がかかった。
「この子…?こんにちは。」
顔を上げると、若い女性が僕をじっと見つめていた。その隣には、少し年上の男性が立っている。二人は、まるで僕の心に触れるような優しい眼差しをしていた。
「脚が悪い子なんですね。でも…なんだかこの子、特別な何かを持っている気がする。」
女性がそう呟くと、男性も僕に目を向けた。
「確かに、脚は悪いけど…元気そうだし、目がとても優しいな。どうする?連れて帰る?」
僕は驚いて耳をピンと立てた。信じられなかった。二人とも、僕の脚のことを知りながら、僕に興味を持ってくれている。
女性は少し迷うような表情を浮かべたが、やがて静かに頷いた。「この子を迎えよう。私たちが幸せにしてあげようよ。」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんと熱くなった。夢にまで見た「家族」という言葉が、ようやく現実になる瞬間だった。
店員さんは驚いた顔をしていた。
「本当にこの子でいいんですか?脚も悪いし、病院代とかもかかると思いますが…。」
でも、女性は穏やかに微笑みながら答えた。「それでも、この子を家族にしたいんです。脚がどうであれ、この子も命ある存在ですから。」
その言葉に、僕の目から一筋の涙がこぼれそうになった。
新しい家に連れて行かれる車の中、僕は初めて安心というものを感じた。これからどんな未来が待っているのかは分からない。でも、優しい声と温かい手を持つ二人の隣で、僕はきっと幸せになれる気がした。
家族が僕を選んでくれた奇跡に感謝しながら、銀色のトイプードルがくれた力で静かに心の中で呟いた。
「ありがとう…ようやく、僕も幸せになれるんだね。」
新しい家での生活が始まったその日、僕は「ちくわ」という名前をもらった。最初にその名前を聞いたときは、正直ちょっと戸惑った。だって、食べ物の名前なんだもん。でも、何度もその名前で呼ばれるうちに、僕の胸に少しずつ温かい気持ちが広がっていった。
「ちくわ!ごはんだよ!」
「ちくわ、いい子だね~。」
その声が、僕の心を満たしていく。名前のセンスは正直言ってちょっと残念だけど、今ではすっかり気に入っている。だって、それは僕だけの名前で、僕を家族として迎えてくれた二人がくれたものだから。
その夜、家の中は静かで、柔らかい月明かりが窓から差し込んでいた。僕は新しいベッドの上で体を丸めながら、今日の出来事を思い返していた。ずっと夢見ていた家族ができたことが、まだ信じられなかった。
すると、不意に部屋の中が淡い銀色の光に包まれた。驚いて顔を上げると、あの銀色のトイプードルが目の前に立っていた。
「ちくわ、君の名前、いい名前だね。」
銀色のトイプードルは優しい声で言った。僕は少し恥ずかしくなりながらも、尻尾を振って答えた。「うん、最初は変だと思ったけど、今は大好きな名前だよ。」
銀色のトイプードルは静かに頷いた。
「君に与えた能力、もう必要ないね。これからは、言葉なんかなくても、君の心はちゃんと家族に伝わるよ。」
僕は少し驚いて問いかけた。「もう、能力を使えなくなるの?」
「そうだよ。でも大丈夫。君にはもう家族がいる。そして、君の目や仕草、存在そのものが、言葉以上にたくさんの気持ちを伝えられるはずだよ。」
銀色のトイプードルは優しい声でそう言うと、僕の頭にそっと鼻先を触れた。その瞬間、胸の奥がふわりと温かくなり、心が満たされていくのを感じた。
「これからの君の毎日は、きっと幸せで満たされるだろう。だからもう、私は必要ないよ。君なら大丈夫だ。」
銀色のトイプードルは、まるで穏やかな微笑みを浮かべているかのように見えた。
僕は少し寂しくなりながらも、静かに頷いた。「今までありがとう。君がいなかったら、きっと僕はここにいられなかった。」
「その感謝の気持ちを、これからは家族に向けて伝えていけばいい。君の未来は、君自身の力で築いていくものだから。」
銀色のトイプードルの体は、だんだんと淡い光に溶けるように消えていった。そして最後に、優しい声だけが耳に残った。
「幸せにね、ちくわ。」
朝日が差し込むころ、僕はふと目を覚ました。銀色のトイプードルの姿はどこにもないけれど、不思議と寂しさはなかった。代わりに胸の奥に残るのは、確かな温もりと、これからの人生への期待だった。
「ちくわ、おはよう!」
飼い主の優しい声が聞こえる。僕は元気よく尻尾を振り、彼女の足元へ駆け寄った。脚が少し不自由でも、そんなことはもう気にならない。だって、僕には名前を呼んでくれる家族がいる。名前を呼ばれるたびに、僕は生きている喜びを感じるんだ。
新しい名前、新しい家、新しい人生。僕の毎日は、これからもきっと温かい光に包まれて続いていく。僕は銀色のトイプードルに心の中でそっと言った。
「ありがとう。僕は、もう大丈夫だよ。」
そして僕は、新しい家族と共に歩み出す未来へ向けて、一歩を踏み出した。
その家族の家に写真立てがあった僕の前に居たグレーのトイプードルの写真だった、僕はそのトイプードルに会った事があった。
その子はあの時の銀色のトイプードルだった。これからも僕を見守っていてください。
終わり