『新宿駅東口で勝ち残るための一言』
20240324
新宿や渋谷といった人が多い街は苦手だ。
本当に色々な人がいて、それはそれで面白いと思うのだけれど、怖い人も多いから、特段用事がない限り出向くことは無い。
ただ、新宿駅東口には、自分の中でギリギリ怖い人に分類されない人がいる。それは、駅前でめちゃくちゃナンパしている人たちだ。
まず、見ず知らずの人に積極的に話しかけられるその姿勢に敬意を表したい。たいていの場合、拒絶されているのにすぐに切り替えて、まためぼしい人がいないかあたりを見回すあの視線は潔さすら感じさせる。
あの人たち、昼間は何をしているのだろうとか、ナンパするようになったきっかけは、どんな理由からなのだろうと気になることも多いのだが、強靭なメンタルを持ち合わせていることは、疑いようがない。
もしも、自分がなんらかの怖い組織に捕まり、新宿駅東口でナンパを成功させないと新宿から抜け出せないとなった場合、僕はナンパせざるを得ない。
そんな状況に追い込まれたときのために、ナンパ師の一言目を考えておこうと思う。
ここで注意したいのは、おそらく、ナンパ師の一言目は、新聞の見出しとか小説の書き出しの最初の一文くらい重要なはずだということである。相手の気を少しでもひき、自分に興味を持たせることができなければ、その時点で試合は終了だろう。
いかに自分に注意をひきつけられるか、下を向いて歩くその相手に顔をあげてもらうか、勝負所はやはり一発目だ。
「今度、髪を僕と全く同じ色に染めませんか?」
「下北沢のライブハウスに友達と行く予定だったんですけど、友達これなくなっちゃって、よかったら一緒に行きませんか?」
「あ、その靴僕も持ってます!」
「突然すみません、僕肌荒れがひどくて、どこかいい皮膚科教えてもらえませんか?」
「あの、区役所行くのが怖いので、ついてきてもらえませんか?」
「東京のバスどうやって乗ればいいかわからなくて、僕が乗るバスが来るまで隣にいてもらえませんか?」
「もしかして左利きですか?」
「すみません実は今逃走中やってて、ハンターに追われていて逃げてるんです、僕を匿ってくれませんか?」
「熱いお茶を冷まそうとしてふうふうしようとしたのに、ついため息で冷ましちゃったことありますか?」
「0と1の間にある差と、1と2の間にある差ってなんか違う感じしませんか?」
「今度、皿うどんに合う最強のトッピングを一緒に考えませんか?」
「家を出たら、玄関の前に青い鳥の羽が一枚落ちていて、その羽が指し示す方向に向かって歩いてきたら、あなたに出会いました」
この言葉たちを鞄にしまって新宿駅東口に降り立ったとき、駅前がいつもと違った景色に見えたとしたら、自分を信じて行動してみたい。