朝日は来ない 第1話
あらすじ
第二次世界大戦中の日本。古宇利島に生まれた隊士の息子の一郎と非国民香織は、ひょんなことからであった。2人は中を深め、互いを意識するようになった。幼心に互いに未来を誓いあい、共に生きて生きたいと願うが、戦争の火の粉が沖縄にも迫ってきた。2人は様々な苦難の中、互いの愛を確かめ合いながら共に生きる道を選んでいく。果たして2人は無事生きて日本で過ごすことが出来るのか
一郎 (叶) 物語の主人公。クールで知的な反面、恋に盲目がちで、一途さ故に手段を選ばない。
叶は一郎の来世の姿
香織(夢) 一郎の恋仲。肝が座っており、その風格は人時は目立つ存在。根は妄想気質な猪突猛進タイプ。が故に他者から行動がから回っているように見える
夢は香織の来世の姿
翔子(愛)一郎と香織の娘。作中では明るい元気っ子にみえる。しかしどんな突拍子もないことを言っても実現させてしまうように感じさせ、人々を引き付けてしまうカリスマ性を持っている。
愛は翔子の来世の姿
沙織 香織の祖母。破天荒で、歳を感じさせない。そのパワフルさから島の人々に恐れられている。
太郎 能天気で柔軟性が高い。昔ながらの硬い頑固親父的存在は亡き香織の父が払拭したせいでなくなった。常識から外れた行動をするが、消して風紀を乱さない
静 一郎の母。軍人の妻である自覚を持ち、落ち着いたものいいから、やまとなでしこを感じさせる。正義感が強く、思想が構築されている。
戸田 少年兵。気弱で消極的。しかし仲間の為なら勇気を振り絞った行動ができる。
教官 道徳知らずの堅苦しい男。しかし言われた仕事は確実にこなす
八百屋 町の住人。実は香織の事を嫌っている。
○沖縄の海・崖の上 昼
軍服を着た一郎(16)は、冷たく動かなくなった香織(16)をお姫様抱っこしながら、飛び入る。海の中で赤い糸が、香織と一郎の手からゆっくりと解ける
一郎 「海の中に沈んでいく……悲しいという感情と、今までの記憶が、泡と共に消えた 」
海の底に目を向ける一郎と、死んだ香織の声が海の中から響き渡る
香織 「一郎 」
一郎 「あぁ、今行くよ……香織 」
○沖縄 古宇利島の海岸
波の音とともに、砂浜にいる白いワンピースを着た香織の後姿。
○(回想)昭和時代1934年の沖縄県古宇利島・昼
街を走る一郎(3)は八百屋のおじさん(35)に呼び止められる
八百屋「大池一郎くん。今日も元気だねぇ、どこにいくんだい 」
一郎 「おじさんこんにちは!今日はお父様が帰ってくるからお迎えに行くの 」
八百屋「そうかい、あの辺は森が近いから気をつけていくんだよ 」
一郎「わかってるーー 」
○森
一郎、森の中に入る。森の小さな抜け道を通ると港が見える崖にでる。一郎、港を眺めていると木陰の方から足音が鳴り響いた
一郎「……! 誰かいる 」
一郎、恐る恐る木陰の方に歩いていく。木々の隙間から奥の細道に香織(3)が山菜をとっている
一郎「ねーー! 君も一緒に待とう? 」
一郎、香織の元に走り出す。香織、怯えた表情で、山菜を入れたカゴを落とす。一郎から逃げる
一郎「まってーー 」
一郎、香織を追いかける。
香織の手を掴む。香織、一郎を目を泳がせて見る。一郎、元気よく話しかけた
一郎「ねぇ! 君のお父様も、兵隊さんなの? 」
香織、首を傾げる。下を向きながら小さく頷いた
一郎「やっぱり!僕とおんなじ、兵隊さんのお父様なんだね! 」
一郎、香織が落としたカゴと山菜を集めて返す
一郎「君のお父様も、山菜が好きなの? 」
香織「うん……お父さん、山菜で作ったお餅が好きなの。だから毎年、この日にワラビを取りに行くんだ 」
一郎、香織の手を引き森の奥へと足を踏み入れた
香織「どこに行くの……? 」
一郎、指を刺す。ワラビが大量に生えており、動物達のなき声が聞こえる場所にいた
一郎「僕、昔船を探してたときに、この山菜がいっぱい生えている場所を見つけたんだ。それで、お母さんと一緒に持って帰って、お菓子屋さんにお餅を作ったんだ。だから、君にも教えたかったの。お父様に、いっぱいわらび餅、食べさせてあげて? 」
香織「ありがとう 」
一郎と香織、ワラビをカゴいっぱいにとる。
○森 昼
海の見える海岸に行き、2人で海を眺めている
香織「ねぇ……このお水、なぁに……? 」
一郎「海だよ!あの船に乗ってお父様達は帰ってくるんだよ 」
香織「どうして香織が兵隊さんの子どもだって思ったの……? 」
一郎「僕のお父様。この海の先で訓練をしているんだ。それで今日は海の向こうから帰ってくる日だから、山菜をとってたのを見て、僕とおんなじ。お父様を待ってたのかなって思ったんだ。島のみんなもそうしてるでしょ? 」
香織、下に俯き、カゴを見ると口を薄くひらいた
香織「香織ね、街のこと知らないの。街に出るなっておばぁに言われてるから…… 」
一郎「……でもどうして森にいるの?森にはお化けがいるからきちゃダメなんだよ? 」
香織「お父さんがワラビ餅が好きだから、山菜を取りに来たの。私、森からでちゃダメだから…… 」
一郎、海を見た
一郎「じゃぁ今日はお父様と一緒に帰って、一緒に山菜のお餅を作るといいよ。そうしたらお父様もきっと喜ぶよ? 」
香織「……うん 」
○古宇利島・一郎の家 夜
太郎(50)、静(36)、一郎食卓を囲む
一郎「それでね!今日かわいい女の子に出会ったの! 」
太郎「そうか、どんな子か気になるなぁ 」
静 「そのことはどこで出会ったの? 」
一郎「…… 」
静 「まさか森にまた1人で…… 」
太郎「いいじゃないか。この子も悪気があって行ってる訳ではないし 」
静 「でも…… 」
太郎「それにあんな老婆に子どもなんていやしないさ。気にすることじゃない 」
静 「あの男のことですから、信用できません 」
静、おひつを持って立ち去る
太郎「(ため息を吐く)たく、どうしてあそこまで頑なに嫌がるかね…… 」
一郎「ねぇお父様 」
太郎「ん? 」
一郎「どうして森に行っちゃいけないの? 」
太郎「…… 」
一郎「僕知ってるんだよ。森にお化けなんていないって。でも皆あの森に行くなっていうんだ。何も怖いものなんていないのに。どうして? 」
太郎「……なぁ一郎。おまえは賢い子だ。なんでも物事をよく理解できる。だからお前は自分の目で、心で感じたものを信じて生きてほしい 」
一郎「信じる……? 」
太郎「そうだ。お前なら多分わかると信じている。頼んだぞ 」
一郎「……わかった。お父様 」
○海岸・昼(春)
香織(5)と一郎(5)、誰もいない砂浜で、貝拾いをする
一郎は白い貝を持って、香織の元に向かう
一郎「ねぇみて!香織ちゃん。この貝殻、綺麗! 」
香織、一郎の手のひらを覗き込んだ
香織「うわぁすごく綺麗! 」
一郎「えへへ、でしょ? あっちで拾ったんだ〜 」
香織「本当に一郎くんは真っ白な貝を拾うのが上手だね! 」
一郎「うん! だって香織ちゃんに似合うから 」
香織「私? 」
一郎「うん! ほら 」
一郎、持っている貝殻を香織の髪にかざす
一郎「すっごく香織ちゃんに似合ってる 」
香織「……ありがとう一郎くん 」
一郎「うん! 」
香織、ポケットから赤い糸芭蕉を取り出した
一郎「なーに? その糸 」
香織「これはね〜糸芭蕉! 」
一郎「なにそれ? 」
香織「おばぁから貰ったの。おばあのおばあに教わって、おばあが初めて作った大切な糸なんだって〜! 」
一郎「へぇ〜 」
香織、琉球糸芭蕉を貝殻に巻き、首飾りを作る
香織「これをこうして巻いて…できた! はい、ネックレスだよ 」
一郎「すご〜い!可愛いね 」
香織、糸の両端を手で握る。貝のネックレスを一郎の首にかける
香織「はい! これ一郎くんにあげる 」
一郎「僕に? 」
香織「うん!これは香織と一郎くんが、ずっと一緒ってあかし!約束ね? 」
一郎「約束する! 俺大きくなったら、香織の旦那さんになる!ずっと守ってみせるよ 」
後ろから沙織(70)が香織を捕まえようと走ってくる
沙織「コラー!香織ー、坊主ー! 」
沙織を見た香織と一郎、笑いながら走って逃げる。
○一郎の家・夜
一郎、玄関の扉を開ける。静(28)、竈門の火元に竹筒で息を吹きかける。一郎、靴を揃え玄関に置く
一郎「ただいま〜! 」
静 「あら、お帰りなさい 」
静、エプロンを取り、一郎の前に腰をかけた
静 「あら?そのネックス…… 」
一郎「なんでもないよ! 」
静 「一郎。何度も言っているでしょ?もうあの子と遊ぶのはやめなさい 」
一郎「どうしていつもそればっかり……俺は、香織ちゃんの事すっごく好きだから、離れ離れになるの嫌だ! 」
静 「あの娘の父親。金城武は、戦争反対のデモを起こした非国民なのですよ 」
一郎「え…… 」
静 「今まであの人のためにと言ってこなかったのですが、あの娘は非国民の娘。だから街に降りられない反逆者なのです。非国民は貴方だって許せないはず 」
一郎「……で、でも……! 」
静 「分かったらもう二度と関わらない事。良いですね 」
一郎「…… 」
○海岸・昼
香織と一郎、2人で海岸を歩いているも、一郎が下を向き続けているのを、香織が気つく
香織「どーしたの?一郎くん 」
一郎「……香織ちゃん、非国民の娘……なの? 」
香織「へ? 」
一郎「俺、聞いたんだ。香織のお父様の事。戦争反対のデモを起こした非国民だって 」
香織「…… 」
一郎「違うよね……?だってあの日、お父さんのためにワラビを取りに行ってたし……戦争が嫌いなら、兵隊のお父さんがいるはずな…… 」
香織「……あーあ!バレちゃったなぁ 」
一郎「え? 」
香織「そーだよ。香織は非国民だよ。あの日にワラビを取りに行ったのは、頼まれただけだよー! 」
一郎「……嘘ついてたってこと……? 」
香織「そうだよ?ずっと一人でいるのがあきたから、嘘ついて一郎くんと遊んでただけ〜 」
一郎「じゃぁ僕とずっと一緒にいようって言ったことは?あの約束は? 」
香織「そう言ったら一郎くんが騙されてくれるかなって思っただけだよー。香織は一郎くんなんてこれっぽっちも好きじゃないもん 」
一郎「ひどいよ!香織ちゃん! 」
香織「なんとでも言えばー? 」
一郎、香織の元を立ち去る。
○一郎の家・昼
一郎、静の元に泣きながら歩いていく
静 「あら一郎。お帰りなさい 」
一郎「……ん…… 」
静 「あら、どーして泣いているの? 」
一郎「香織ちゃんがね、俺の事なんか好きじゃないって……あきたって…… 」
静 「あぁ……可哀想に…本当にあんな女と離れてよかったわね 」
一郎「……離れる……? 」
静、一郎を抱き締める
静 「もう二度と、あんな女の元へは行くのではないですよ。あなたを弄ぶだけの醜女なのですから 」
一郎、香織との思い出を思い返す。一郎、静を突き放す
一郎「醜女なんて言わないで!香織ちゃんは、そんな子なんかじゃない! 」
静 「ならどうしてあんな酷いことが言えるのですか 」
一郎「……わかんない……けど理由はあるはずだから……ちゃんと話してみたい 」
静 「……子供の心なんて移ろい変わりやすいもの。それも一時の気の迷いというものです…… 」
○森 昼(回想)
金城武(15)静(15)、沙織家の庭にて隣同士で話し合っている
武 「静、俺兵隊になって、戦場に行ってくる!んで!今の軍将達から地位をもぎとって、俺が日本軍の指揮をとってやる! 」
静 「馬鹿言ってないで、沙織お母さんのお手伝い少しはしたら? 」(からかう様に)
武 「うるせ! 」(笑いながら)
間を開ける
武 「俺さ、日本人が大好きだ。この島1つだってそう。互いに思いやり、助け合える。そんな国なかなかないと思うんだ 」
静 「それは世界を見てないから言えるのよ。世界の人々だってきっとそうよ 」
武「そりゃ俺には分からねぇ。俺はこの国しか知らないから。でも俺にとってこの国は宝だ。困った人がいれば村を上げて助ける。村から兵隊が生まれれば、村を上げてお祝いをする……こんな暖かい国だからこそ、1人でも多くの兵士を生きて戦場から帰らせたい。そう思うんだ 」
静 「武…… 」
武 「なぁ静……俺はこの15年間町に育ててもらった。守られ続けた。だから今度は俺がこの町を……この日本を守りたい。静と一緒に 」
静 「……しゃあないね、あんたひとりじゃ不安だから一緒にいてあげる 」
武「なんだよその上から目線、可愛くねぇやつ 」
静 「あんたに言われたくありませーーん 」
○雨の森 昼(回想)
金城武(25)静(25)、項垂れた武を追いかける
静 「武……!帰ってたんだね……おかえりなさい 」
武「…… 」
静「日露戦争大活躍だったみたいじゃん!凄かったねぇ。海軍だっけ?で手柄を友達に渡したんでしょ?あんたらしくて良いじゃん。その友達、大佐になったんでしょ?ほんとお人好しなんだから…… 」
武 「静…… 」
武、錆び付いた指輪を静投げる。静、手に取りみる
武 「これ、お前の旦那になりたいってやつから預かってた。いい縁談だ。大佐と結婚……幸せまっしぐらだろ? 」
静 「……こんなのいらない!私は昔、あんたの嫁になると誓った。だから他の人との縁談も断ってきたの。だから今度こそ一緒に…… 」
武 「あーあ!なんかそーゆーの飽きたんだよなぁ 」
静 「……え? 」
武 「子供の頃の約束とか、一々果たすのなんてだるいでしょ? 」
静 「……何言って 」
武 「わかんねぇかな?俺、東京で女見つけたから、お前とはねぇわ 」
静 「……嘘つき……!私の隣にいたいって言ったのは何だったの!? 」
武 「若気の至り。じゃーな、静 」
静 「待って……!待ちなさいよ武!! 」
○一郎家 昼
静、一郎を見て自分に重ねて
静 「どうせろくなことにはならないでしょう。だからここで身を引きなさい 」
一郎「やだ!! 」
静 「……どうしてそこまで…… 」
一郎「だって香織ちゃん!最後に顔も見せてくれなかった! 」
静 「……! 」
一郎「いつも笑顔で幸せそうに笑う香織ちゃんが大好きで……俺はそんな香織ちゃんと隣にいたいって思ったんだ……!香織ちゃんが声をふるわせて顔も見せないでさよならを言うなんて……きっと辛いことがあったんだと思う!俺はそれに納得がいかないまま離れ離れになりたくない! 」
静 「……わかりました。それなら話してきなさい……でも私は知りませんからね 」
一郎、家から出る。
○森の香織の家・昼
一郎は、香織の家まで走って来た。香織の家に入ろうとすると、大きな泣き声が聞こえる
香織「(大きな泣き声)」
一郎「か、香織ちゃん…? 」
一郎、物陰に隠れて話を聞いていた
沙織「あんたって子は、本当に馬鹿なんだか、不器用なんだか 」
香織「だって……!一郎くんが非国民と一緒にいたら、私達みたいにいじめられるんでしょ?一郎くんの家族だって、私のせいで嫌われちゃう…そんなの嫌なんだもん! 」
沙織「だから言ったじゃろ?最初から一緒におらん方がええと…… 」
香織「だって!好きなんだもん!ずっと一緒にいたかったんだもん……!」
一郎、香織の元に行く
一郎「香織ちゃん!」
沙織「んな!このバカモン!!いつもいつも来よってからに!来るなと言うとるじゃろ!! 」
一郎「嫌だ!俺、絶対帰らないもん! 」
沙織「お前もお前で本当に馬鹿じゃのぉ!お前達が一緒にいればいるほど、辛いだけなんじゃよ!非国民と居れば、他の大人達が良くは思わん!その結果、大人達から引きはがされる未来しかないのじゃよ。好きになれば好きになるほど離れるのが辛くなる。それを今日知ったじゃろ?ならもう今のうちに会わないようにしなさい! 」
一郎「嫌だ! 」
一郎は香織を抱きしめた
一郎「ぜったい離さないもん!何があっても、ずっと一緒に生きていくんだもん! 」
香織「い、一郎くん…!? 」
一郎「非国民なんて関係ないよ!だって香織ちゃんは、俺のお嫁さんになるんだもん! 」
沙織「まだ言うか!お前自分の母親から家を追い出されてもいいのか? 」
一郎「いいよ、家を出ていけって言われても皆から虐められても、香織ちゃんの手だけは離さないもん! 」
香織「(泣きながら)一郎……くん…… 」
沙織「はぁ……とんだバカふたりじゃ……わしゃ知らんぞ? 」
沙織、いの間からはける
香織「一郎くん、どーして?非国民は嫌いって言ってたじゃん 」
一郎「関係ないよ。俺は非国民なんて関係なく、香織ちゃんと一緒に居たい。香織ちゃんは?もう好きじゃない? 」
香織「私……私は……一郎くんが好き……!ずっと好きだよ!飽きたりなんかしてない!ずっと……ずっと……! 」
一郎「じゃあ……もうどこにもいなくなんないで?俺とずっと一緒にいよう 」
香織「……うん……! 」
○ 1941年、12月の雪の日。香織の家にて
一郎(13)、香織(12)の家に手見上げを持ってやってくる
香織「おはよ!一郎、お誕生日おめでとう!今日で13歳だね! 」
一郎「ありがとう。12歳の香織ちゃん(少しおちょくる様に)」
香織「あ!また毎年恒例の年下扱い! 」
一郎「だってしょうがないじゃん。俺の方が先に誕生日なんだし 」
香織「一週間違いでしょ!馬鹿にしないで! 」
一郎「はいはい、おちびの香織ちゃん。(からかう)」
香織「もー! 」
一郎と香織、家でのんびりとくつろいでいる。ラジオの音声をあげる
(声)「臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。大本営陸海軍部。十二月八日午前六時発表、帝国陸官軍は本八日未明、西太平洋において、アメリカ・イギリス軍と戦闘状態に入れり 」
一郎、青ざめる
一郎「まずいぞ……香織、すぐに家に帰る…… 」
香織「どうして?お誕生日会は?おばあ帰ってきちゃうよ? 」
一郎「いってる場合かよ!」
香織「ねぇどうしたの?なにがあったの?」
一郎「香織、これは……戦争だ。」
香織「へ?」
一郎「戦争がやってくる…!」
一郎、家に向かって走る。
香織「一郎……!」
○一郎家 昼
扉を勢いよく開ける一郎。静(38)が歩いて目の前で正座する。
一郎「母さん!」
静 「一郎さん。どうしたの?」
一郎「(息を切らす)アメリカ、との、戦争が始まっ、ちゃうみたい……」
静、一瞬驚く。すぐ同情を隠し、凛々しく。
静 「だからどうしたというのですか」
一郎「え?」
静 「あなたも日本男児でしょう。覚悟くらい出来ているでしょ?」
一郎「どうしてそんな事を言うの?父さんが言ってたじゃないか戦争がやってくれば…」
静、一郎の頬を平手打ち。
静 「いい加減にしなさい!それ以上は言ってはなりません!」
一郎「なんでだよかぁさん!戦争が来れば、沖縄が真っ先に領土を奪われ、無残に人が殺される!沖縄人に逃げる場所なんてどこにもないんだよ!?」
静「その様な非国民的発言はつつしみなさい!日本が負けるとでもお思いで?」
一郎「……(言葉を詰まらせる)」
静「良いですか。陸軍大佐の息子であるあなたが、その様な発言をすればこの島に住む者が不安になるでしょう。それにねぇ、異国の民が日本の領土に入らない為に、今も皆。兵隊様がお国を守っているのです。それくらいわかるでしょ?」
一郎「でも母さんもしっている筈だ!日本がおされている事を…!」
静 「……(息を詰まらせる)」
一郎「父さんは俺たちにだけ現状を話してくれた。逃げる術も。母さんは父さんよりも、国を信じるの?」
静 「(沈黙の後)確かにあの人は、私達にだけ真実を教えてくれました。私だって不安で仕方ない。父さんの活躍を応援する反面、どこかで終戦を待ちわびております。でも、言葉にしてはならないのです……それを口にして、誰かが聞いていたら、どうするのですか?あなたの守りたい人を傷つけることになるのです。良いですか、なにがあっても、この事は私達の胸に秘めなさい。」
(沈黙)
一郎「…それじゃあ香織は?何も知らない香織は、どうなるのですか…?」
静、俯く。
一郎「生涯かけて香織を守る……それがずっと、俺の夢です……香織がこの事を知らず、戦争で死んでしまったら、俺は一生自分を許せない」
静 「一郎……」
一郎「母さん、香織には伝えてはならないのですか……?」
静、小さく頷く。
一郎「…ならせめて、香織を、俺の伴侶に迎えたいです」
静 「ずっと言ってましたものね」
一郎「はい。せめて自分の手で、守りたいのです。隣で、出兵したとしても、彼女のために国を守りたいのです」
静、箪笥から軍服を出して、渡す。
静 「これは、父さんが私の家に始めてきたときの軍服です。一級品物ですから、失礼はないでしょう。これを着て、香織さんの元を訪ねなさい」
一郎「すぐに結婚を申してもいいのですか?」
静 「あなたに残された時間はあまりありません。覚悟があるならいきなさい。私ができるのは、これくらいなのですから…」
一郎、母さんに頭を深々と下げ香織の元へ走る。
○海岸(ハートロックの見える)夕
一郎、貝殻を見てそわそわしながら香織を待つ。
香織「一郎…?」
一郎「香織……俺と、結婚したいと、今でも思ってくれてるか?」
(第2話)
(第3話)
https://note.com/kind_mango672/n/n6f73caf128b1
(第4話)
https://note.com/kind_mango672/n/n7bcbe3c32d95