やかんから出る湯気を見つめる
何かを見ると心が落ち着くものというのが、誰しもあるだろう。自分の中のそれは、「やかんから出る湯気を見ること」である。
静かにもくもくと湧いて出る湯気を、何も考えずにぼーっと見つめることが、何より心を落ち着かせる。
大学時代のカフェで働いている時に、このことに気づいた。
あるしんしんと降り続く雪の日、自分以外誰もいない店内で、いつお客さんが来てもいいように、コーヒーを淹れるためのお湯を常に沸かしておく。気温も低く雪で足元も悪い中、来るはずのないお客さんのためにお湯を沸かし続ける。火はごく弱火で、カタカタとやかんの蓋が小気味よく鳴っている。注ぎ口から静かに湧いて出る湯気。
その湯気を見ると、何でもない思考が浮かんでは消えていく。自分の呼吸がゆっくりになっていく。少しキッチンの台に体重をかけ、リラックスした体制になる。
浮かんでは消える思考もやがてなくなり、禅をしているかのような無の状態へと移り変わっていく。
このワンシーンがあってから、意識的に湯気に注目するようになった。湧いたお湯が入っているやかんをごく弱火のまま加熱し続ける。湯気が部屋に溶けていくように、自分のモヤモヤした思考もどこかに去っていく。
ぼーっとする時間は意識して取らなければ、常に頭は働いてしまう。少し頭を休めてみよう。
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