【講演録】ガザ人道危機から1年

以前から僅少ながら支援をしているNPO団体のオンラインセミナーを受講しました。講義録として拙筆ではありますが、以下に記します。

「ガザ人道危機1年、何が変わり、何が変わっていないのか」

パレスチナ子どものキャンペーン主催オンラインセミナー 2024年10月12日
パネラー:手島正之(パレスチナ子どものキャンペーン)
     鈴木啓之(東京 大学特任准教授)
     荻上チキ(評論家、ラジオパーソナリティ)

世界のどの紛争よりもひどい状況。生存可能な限界を超えている。】
 ・種子島程の面積のガザ地区人口220万人の5人に1人、4万1300人以上が 
  死亡、負傷者9万5500人以上(確認されているだけで実際はこれ以上)
 ・関連死を含めると18万人が死亡という数値もある
 ・45万人以上が飢餓の最悪レベル
 ・子どもの9割(5万人以上)が深刻な食糧危機
 ・累計30万4千人の子どもが栄養失調
 ・ほとんどの人が1日1食
 ・56万人の下痢 97万人に呼吸器疾患 
 ・根絶したポリオが7月に発見
 ・死亡したジャーナリスト116人、国連職員228人(多くはパレスチナ人)
  で過去最悪
 
【戦線の拡大】
・レバノンへの地上侵攻(9/30~)
・イスラエルとイランの直接的応酬(4/1~19)
 → イスラエルに対してイラン史上初の直接攻撃

【イスラエル国内の動き】
 ・ネタニヤフ首相や政権与党への不満から支持率も落ちてきたが、代わり
  にネタニヤフ政権を支えている、宗教右派のユダヤの力が10議席の獲得
  を見込まれ、第三、第四政党へ躍り出る可能性大
 ・共感性が意図的、政治的に失わされている
  → イスラエル人がとりわけ悪人ということではなく、「攻撃行動研
    究」に照らし合わせてみると、(9.11のアメリカ人のように)ひと
    は反撃の物語に加担すると攻撃に転じる

【停戦を巡る駆け引き】
 ・停戦内容3段階  
 ・イランの首都テヘランでハマースの最高指導者ハニーヤ暗殺(7/31)
 ・変わらない「本質的課題」の占領
  7/19 国際司法裁判所(ICJ)は「イスラエルのパレスチナ占領政策は国
       際法に違反している」と勧告的意見を出す
  9/18 国連総会緊急特別会合で、イスラエルに1年以内の占領終結を求め
       る決議案を賛成多数で採択 賛成124ヶ国(日・仏含む)反対14ヶ国
 (米含む)棄権43ヶ国(独・伊・英・加含む) → G7で足並みそろわず 
  それ以前にも、今年1月には、イスラエルに対し、ガザでのジェノサイ
  ド防止の暫定命令が出されたが状況は一向に改善されず

【メディアの視点】
・イスラエルメディアではパレスチナの声が最小化
・2023年10月7日~30日の間に公開されたイスラエルのニュースは、犠牲を
 強調、報復や領土的野心を肯定、パレスチナ人はテロリスト、トラウマを
 イスラエル側のみ強調……など、感情的な報道により、不釣り合いな武力
 の正当化によって、「実存的な戦い」(勝つか負けるか)として再構築さ
 せている
・イスラエル内での紛争報道ニュースの消費はイスラエル人の精神を悪化
・紛争中のメディアの影響は限られており、政治指導者が報道を作る一方、
 報道の偏りは国により異なる
・SNSの普及は「市民ジャーナリズム」「分散型ジャーナリズム」「パブリ
 ックジャーナリズム」「参加型ジャーナリズム」「ストリートジャーナリ
 ズム」の試みを拡大
 → アルジャジーラやBBCなどのニュースも見ているが、現地のパレスチ
   ナ人の情報源はSNSが中心 
   難民キャンプのソーラーパネルでスマホの充電だけは確保という人が
   多いのは、自分たちの身の安全を守るために、ひとつの情報に偏らず  
   色々な情報を得るため(爆撃、物資援助など)
・ある研究からひとは接触すればするほど他者への好感度があがるという結
 果が出た
 → イスラエルの学生がパレスチナ人と模擬仮想接触に参加した実験で
   は、パレスチナ人に対する怒りと憎しみが減少
   しかし、一方で、イデオロギーの強い成員は、集団間接触を通じて、
   より意見を過激化させる
   そもそもの運命を共にする共通のゴールを設定するのが大事
 ↓
・つまり、接触の「あり方」の意識が大切
 ↑
・これは実際の接触以外、メディアを通じての接触についても言え、
 メディア論でいわれるところの、「接触効果」の「培養理論」
 → メディアに繰り返し接触することが人々の現実認識に与える影響のこ
   とで、この接触には、友だちの友だちという間接接触や、頭のなかで
   の拡張接触も含まれる
・メディア報道の「フレーミング」、つまり「枠付」によって、捉え方が方
 向付けされる
 → (例)とある文学賞受賞者を「女性ならではの感性で~」とするのか
     「10年間のキャリアの集大成で~」とするのか、はたまた「中上
      健次に影響を受けた文体で~」とするのかで、読み手の認識が
      変化
   (例)貧困についての報道で認知される責任の主体
      テーマ型フレームだと貧困への責任を政府に帰属
      エピソード型フレームだと当事者へとなり、身近に感じられる
      反面、副作用をおこしやすい
・日本のテレビCMに登場する外国人の8割が白人(実際はは白人はマイノリ
 ティであるが)
・ルワンダの虐殺では、ラジオ受信可能地域にいた人の方が虐殺に加担した
 人が多かった

【日本がなすべきこと】
・30年間とりくんできたオスロ合意がなかったことになってしまうほど大変
 な状況にあり、この1年で起きたことをとりかえせるのだろうか
 即時停戦が求められるのは言うまでもないが、だとしても、今後10年、20
 年、安定、平和という道へ、向かえるのだろうか
 それほどまでのことが起きているという現実がある
・まずは消極的平和状態(戦争、紛争の火種がつかぬようの整備)に、外部
 の日本は「延命処方的」に、命をつなぐということを継続させる
・長期的積極的平和のために、第三国(日本)医療・教育提供という形での
 政府支援が考えられる
・日本の中東支援や関心がこの1年で高まったというのは中東研究者や活動
 団体にとってはとても励ましになっている
 これを一過性のものにしないためにもリマインドさせる報道が重要
 → 人々は解決手段をもたないと冷笑主義に陥る傾向にあるので、NPOと
   ジャーナリズムの連携(倫理連携)で、具体的な支援が解決の一歩と
   なっていることを知らせると視聴者、読者の意識がかわる

【パレスチナ子どものキャンペーン支援実績の一部】
・毎日2万リットル(1000世帯)の飲料水、炊きだし500食の提供を継続
・心のケア 子ども3000人、大人1500人へ
・寺子屋(個人で立ち上がった人のサポートなど)活動 子ども2000人以上
・母子保健クリニック

最後に講演会内で紹介された書籍と映画を記します。
書籍『紛争と平和構築の社会心理学』D.バル・タル著 北大路書房
映画『私は憎まない

講演中に流れたパレスチナ人男性の現地スタッフからのメッセージ動画、
「いつまでこの状態が続いていくのか、世界のみなさん、いつまでこれを見続けているのですか?」の声が、視聴した後、私の中で何度も何度もこだましています。



 

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