忘れられないある夫婦の馴れ初め
私は色んな人の夫婦の馴れ初めを聞くのが好きだ。
これまで何人もの聞いてきたけれど、その中で今でも忘れられないエピソードがある。
我が子がまだ保育園に通っていた頃、クリスマス会で子どもたちに手作りのプレゼントを作ろうと何人かのお母さんたちで集まって、羊毛でちくちく羊毛ボールをつくっていた時だった。
隣にいたお母さん友達に何気なく聞いた。
「ゆかさんたちは、どんな風に結婚することになったんですか?」
ゆかさんは、私より二つくらい年上で、見た目はかなり派手な感じのお母さんだった。それもそのはず。彼女はロックシンガーとして歌っていた過去があり、頭もピンクに染め、耳にもたくさんのピアスがぶら下がっていた。当然お化粧もバッチリ濃い目でアイメイクもすごい。
そんな見た目から、私は初対面の頃「友だちにはいなかったタイプや……」と少し怖気付いていた。
しかし、付き合ってみると見た目とは裏腹に(偏見)めちゃくちゃフレンドリーで優しくて、すぐに仲良くなった。
ゆかさんと旦那さんは確か、高校生の時からロックバンドをしていた仲間だったなぁ。そう思い返しながら、さっきの質問をした。
「あ、うち?うちはね、元々バンド仲間やったんやけど、付き合ってはなかったんよ。もちろん仲は良かったんだけどね、その時はみんなの中の一人だったんだ」
(ふむふむ。そこから、どう恋に発展したんだ?)
わくわくしながら、聞き耳を立てる。すると、彼女から意外な話が出てきた。
「私、19歳の時に子宮の癌になってさ。その時お医者さんにもう一生赤ちゃんも産めないし、余命数年って言われたんよね」
え!!!???
その場にいたみんなが驚きを隠せなかった。
「その時、本当にどん底に落ちて。家庭も複雑やったから、誰にも相談できなくて。唯一話せたのが今の夫だったんよ」
そんな壮絶な過去があったなんて。何も言えずにいると、ゆかさんは続きをさらっと言った。
「そしたらさ、そのとき大ちゃん(夫)、『じゃあ俺と結婚しよう』って言ったんよ」
…
……え???
え、え、え?
結婚?
だってそのとき付き合ってなかったんだよね?
赤ちゃん産めないって言われたんだよね?
数年しか生きられないかもって言われたんだよね?
そんなときに、「俺と結婚しよう」。
……気づいたら、涙が溢れていた。大ちゃん、かっこ良すぎる。何なんだ。
なんて優しい世界なんだろう。
「私もそのときに大ちゃんが大切な存在だってことに気づいたんだ。それから二人子どもも授かって、私今もこうして生きてるし。人生どうなるかわからんよねぇ」
あっけらかんと笑うゆかさん。その笑顔の裏には、その時の二人の覚悟と共に育んできた幸せがあるんだろうな。
大ちゃんは少し童顔で優しい雰囲気の方だ。今は、ロックバンドをしていた風には見えないが、会話の中でたまに「自分の意見をしっかり持ってて、熱い人だなぁ」と感じることがある。このエピソードを聞いてからは、なおさら大ちゃんに後光が差して見えてくる。
ゆかさんは、絵がとても上手で、一年に一回の保育園の文集作りでは子どもたちへ向けて鉛筆画を描いていた。とても鉛筆一本で描いたとは思えないような絵で、今でも脳裏に焼き付いている。今は、地域の教育委員会で教育委員として子どもたちのために活躍しているスーパーお母さんだ。
愛って、美しいな。
二人の話を聞くと、人が人を愛する気持ちって奇跡を起こせるんだと思えた。
宝物にしたいエピソードです。
最後まで読んで頂きありがとうございました✨