2023年の東京ヤクルトスワローズについて

開幕から交流戦までの戦況

昨シーズンは日本一を逃したがリーグ2連覇を達成し、今シーズンも優勝争いを予想する声が多数ありこれを疑う者は少なかった。
シーズンが開幕するとチームは5連勝をしてファンの期待は高まった。しかし勝利の実態は僅少な得点を投手で守り抜く際どいものが大半を占めていた。チーム打率が1割台でチーム防御率が0点台という異常値を示していた。主力野手の村上選手、山田選手の打撃不振が顕著であった。
シーズン当初、ファンの中には投手成績が明らかに異常だから投手陣が例年並に戻るまでに貧打を解消できなければ今年は危ないと今シーズンの低迷を懸念する声もあった。その懸念はほぼ的中した。正確には貧打が解消されぬまま投手陣の状態が例年よりも悪化した。
4月22日から7連敗し、さらに5月16日から引き分けを挟み12連敗して一気に順位を落とした。
交流戦では6月1日に12連敗を止めて連勝が始まり6月からの反転攻勢をファンは期待した。しかし4連勝止まりでその後も苦戦して反転攻勢かなわず、6月18日終了時点で6連敗中でリーグ最下位である。
ファンはリーグ連覇したチームの極端な低迷に落胆を隠せない。なぜ、どうして。その原因を投手運用編と野手首脳陣編に分けて考察した。

投手運用編

高津監督の就任時からの投手運用はリリーフ投手であった自身の選手経験と投手コーチ時代の経験に基づいている。
長年の課題である弱い先発の強化を半ばあきめてリリーフ投手を増強して勝ちを拾う。これが高津監督の投手運用の要諦である。投手コーチであった2015年優勝後の「ブルペンで勝ちたかった」との発言からも推測できる。リーグ連覇の間に規定投球回をクリアした先発投手が小川投手だけで10勝以上の投手が不在という事実が先発投手の弱さを示している。
この投手運用はチームの勝率を短期間に上げる即効性はあるが劇薬といえる。薬には副作用がつきものだが、この劇薬は処方後にしばらくしてから弱い先発投手がより弱体化してリリーフ投手の負荷が高まり投手陣が崩壊するという恐ろしい副作用を伴う。この副作用を手っ取り早く緩和するにはドラフトを含めた即戦力の投手補強が唯一の処方箋といってよい。自前の先発投手を育成し強化するには年単位の時間と相応のノウハウが必要だからである。
劇薬の処方は目先の優勝を狙う戦略として効率的であり間違ってはいない。2015年のリーグ優勝は質量ともに充実したブルペンと3名の打撃タイトルホルダーがスタメンに並ぶ強力野手陣によるものであった。しかし優勝次年度は5位に翌年はダントツの6位となりチームは投手崩壊して低迷した。高津監督は投手コーチ又は二軍監督として優勝から低迷に至る過程に関与していたからこの劇薬の効果と副作用を熟知しているはずである。
高津監督の2年目シーズンの一昨年はこの副作用のリスクを取ってリーグ優勝、日本一になった。翌年以降に生じる副作用は高津監督にとって想定内である。
昨シーズンの後半には副作用の兆候が見え優勝を逸する危険があった。しかし村上選手を中心とした野手陣とリリーフ投手の奮闘によって劣勢を押し返してリーグ連覇を達成した。また、先発投手の頭数を増やして中10日前後でローテーションし弱い先発投手を弱いなりに機能させる運用策(ゆるふわローテ)も功を奏した。
しかしながら、今シーズンはマクガフ投手退団の穴埋めを期待した外国人投手の補強に失敗した。田口投手をクローザーに抜擢したが、ピンチに登板する火消し役であった田口投手の穴を埋めきれずリリーフ投手の増強ができなかった。昨年の先発要員であった原投手の故障や高梨投手の不調、即戦力新人の吉村投手の離脱など、先発投手としてピーターズ投手が加わったものの先発投手の頭数が足りず、ゆるふわローテが不可能になった。これに慣れてしまった先発投手は中6日で長いイニングを稼げない。リリーフ投手は奮闘するが例年よりも負担が増して救援防御率は悪化した。
このように、昨年から始まりつつあった副作用を緩和しようとした対策は失敗に終わる。それでも野手陣が例年並みに機能すれば極端な低迷はなかったはずである。しかし副作用を打ち消すことを期待された村上選手や山田選手の不調、塩見選手の故障離脱などにより副作用に全然対抗できずにチームの低迷が極端になった。

野手首脳陣編

昨年の村上選手の活躍は常識を超えていた。他の野手達は、自己の力量不足や失敗を村上選手がカバーしていたことを忘れて慢心し、あるいは、昨年ほどではなくても今年もなんとかしてくれると村上選手に依存した疑いがある。
監督コーチを含む首脳陣も村上選手に影響を受けた。高津監督は迷采配を村上選手が帳消しにしていたことを忘れて采配の改善や戦術の勉強を怠り準備研究に甘さが出た疑いがある。また、チーム戦術と打撃技術は密接に関連するにも関わらず打撃のことは専門外と明言し打撃面の技術理解を回避する傾向が変わっていないことも問題であった。
今年の春季キャンプでは選手の自主性に任せて個別練習が多く全体練習が少なくなったと仄聞する。それでは各野手の強化に甘さが出る一方、全体練習の削減により野手達にチーム戦術を徹底させることが難しい。WBC日本代表に選出された村上選手と山田選手はキャンプを途中で切り上げて代表合宿に合流しオープン戦には出場しなかった。
オープン戦は他球団がマークする選手に対してあえて得意な球種やコースに投球して気持ちよく打たせつつ研究成果を試してみるといった検証の場でもあると聞く。長岡選手や内山選手など昨年頭角を現した若手野手がオープン戦の手応えから今年もそこそこ打てると勘違いした疑いがある。オープン戦で打撃好調であった彼らの打撃成績はシーズンで著しく低下した。
シーズンが開幕すると村上選手は不調であり塩見選手もいない。相手投手が根拠を持って厳しく投球するチャンスで打てない。得点力が上がらないから勝てない。高津監督の迷采配は今年も健在であり裏目を引いても今年の村上選手は助けてくれない。主力野手の不調の原因を首脳陣が解明できているのか疑わしく、首脳陣はただ彼らの復調を願っているようにみえる。村上選手を4番サードに固定したままで様々な打順やスタメンを試してみるがどれも長続きしない。負けが込んでくるがシーズンの進行は待ってくれない。首脳陣は焦り迷走する。打順やスタメンをいじり回しているうちに各打者の状態にあったベストな布陣が分からなくなっているようにみえる。
一昨年は、各打者が喰らいついて投球数を稼ぐ、カウント別に狙い球を的確に絞る、粘って四球をもぎ取るなど、少ないチャンスを物にするチーム戦術が徹底されているようにみえた。しかし、昨年からはチーム戦術の徹底が甘く、選手頼みの雑な攻撃が目につくようになった。昨年の日本シリーズの主な敗因は打撃不振の村上選手や山田選手に固執し続け、彼らの打撃不振に対して首脳陣が無策であったことが明らかだった。高津監督の涙を見て今シーズンは日本シリーズの敗戦を教訓としてチーム戦術や采配の改善に期待したが悔し涙の理由はそれではなかったようだ。
シーズン当初よりもチーム打率はやや回復したが多くの野手は依然として打撃不振に苦しんでいる。空振りが多い。打球が弱い。浅いカウントから簡単に打ち上げる。長打不要の場面でも大振りが目立つ。これらは多くの野手に共通する。選手自身もさることながら、首脳陣の能力不足、無策がこの低迷をより深刻なものにしているのではないだろうか。

最後に

もともとこのチームは毎年優勝争いをするような安定したチームではない。浮き沈みが激しく優勝次年度にBクラスに転落することはこれまで何度も見てきた。しかしリーグ連覇から半年程度でここまでチームが変わってしまうことを見た経験がなかったので正直つらかった。
今年の交流戦でソフトバンクに軽く捻られたあとに、高津監督の投手コーチ時代から現在までの経緯とチームの戦況を少し冷静になって振り返ってみた。そうしたら連覇チームのメンバーが大幅に変わっていなくても今年の極端な低迷はそれほど異常なことではないと整理できた。
今シーズンはまだ終わっていないが手遅れの可能性が高い。いちヤクルトファンとして、シーズンの残り試合もこれからもこのチームを見守っていきたい。いつの日か急に強くなって優勝することをひそかに期待して。
(了)

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