第五話
「兄様!」
「来たきた。こっちこっち」
ナーストロイに来て初めての朝ご飯の後、お城に住むねこさんにパンをあげるためにネイ兄様とお庭で待ち合わせ。兄様はお部屋から昨日のパンを持ってきて、ボクは厨房から牛乳をもらってきて。
「わあ、可愛い!」
「今年の春に産まれたばかりの子猫たちだよ。もうすぐ二ヶ月かな? みんな可愛いねぇ」
お城の人たちみんなで可愛がってるのかな、ボクたちが近寄っても怖がったりしない。それどころかちっちゃい足でボクたちの方に人懐っこく駆け寄ってくる。お母さんねこさんもボクたちをじっと見ているだけで何もしてこない。可愛いなぁ。ふわふわ毛並みのこねこさんたちに牛乳で柔らかくしたパンをあげる。朝ご飯の時間、おなかがすいているみたい。にゃむにゃむにゃあにゃあ、何かおはなししながらきょうだいみんなで仲良く食べている。ボクもこの子たちみたいに兄様たちと仲良くなれたらいいなぁ。
時間を忘れてふわふわのねこさんたちと遊んでいるとメイドのベルリラがネイ兄様を探しにやってきた。
「ネイ様ー! お勉強のお時間ですよー! セタール先生がお見えですー!」
「げ。もうそんな時間?」
「おべんきょう……。もしかして、遊びはおしまいですか……?」
「残念だけどそうなるねー」
「いやです! 兄様ともっと遊びたい!」
「うえぇ、私に言われても困りますよぅ」
せっかく兄様と遊んでたのに。ほいくえんの友達が先におうちに帰ることになって遊ぶのをやめなくちゃいけなくなった時みたい。もっといっしょに遊びたいのに遊べないなんてそんなのやだ。
「おれもお勉強はいやだけど、やらなくちゃなんだよねぇ」
「やだ! 兄様といっしょがいい!」
「じゃあ一緒にお勉強する? リュートも読み書きができるから多分大丈夫だと思うけど……セタール先生の授業、退屈なんだよねぇ。それでも我慢できる?」
「我慢します……。兄様といっしょがいいです……」
「ベルリラ、セタール先生にリュートも一緒がいいって言っておいてくれる?」
「はい! わかりました!」
兄様を探しに来た時と同じく、ぱたぱたと慌ただしく走っていったベルリラ。あわてんぼうでそそっかしいところのあるメイドさん、今朝もボクが部屋に居ないって大騒ぎしてばあやに怒られていた。実際は兄様のお部屋で一緒に寝ていただけだけど。
「どうしたの、今日のお前はやけにあまえんぼさんだね」
「さびしいのはやです」
兄様の部屋へと、手を引かれながら廊下を歩く。まだなんにもわからない場所でひとりぼっちはいやだ、一人になるのはもう少しこの世界を知ってからがいい。ナーストロイのボクの記憶があるにせよ、にほんのボクにとってははじめましての場所なんだから。だから今日は兄様といっしょの日。
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