第十六話

 夏至のお祭りを来週に控えたある日のお昼過ぎ、父様に呼ばれてお仕事部屋のドアをノックする。

「父様、リュートです」

「どうぞ」

 今日も父様はたくさんの仕事に囲まれてる、お祭りが近いからその準備に追われてるみたい。母様だって、お針子メイド達と一緒にお祭りで使うお洋服の仕上げに忙しそう。アサラトは居ない、別のお部屋でお仕事かな。

「何のご用ですか」

「お前に手紙が来ていてな」

「ボクにお手紙?」

「商人ギルドのレベック殿からだ。中を改めさせて貰ったのだが……。リュート、お前レベック殿に何を頼んだと言うのだ。王都に着くにはもう少しかかりそうだと仰っているぞ。欲しいものがあるなら素直に父さんに言いなさい」

「ごめんなさい」

「それで、レベック殿には何を頼んだんだ?」

「えっと、クレヨン……です」

「もう少しかかりそう……ということはナーストロイにもクレヨンらしきものはあるのか」

 父様の手招きを合図に、父様のお膝の上に座る。お父さんと一緒に遊ぶ時のボクの定位置。

「お絵描きがしたくて、でもお父さんは絵具はまだダメって言ってたから、クレヨンならいいかなって……」

「なるほど、日本に居た頃から絵を描くことは好きだったものな。こちらに来ても描いているのか?」

「はい!」

「どんなものを描いた? この父に見せてくれないか。ちょうど休憩にしようとしていた所でな」

「あ、でも……」

 ボクの描いた絵はネイ兄様の部屋にある。ネイ兄様が絵を描いてる事は父様やじいやに内緒って約束したけど、ボクが描いた分だけ見せれば兄様との約束を守ったことになるかな。

「どうした?」

「ううん、何でもない。あのね、ボクの絵はネイ兄様のお部屋にあるの」

「ほう、それはまたどうして」

「ないしょです。父様、行こ!」

 父様と一緒にネイ兄様のお部屋へ。描いた絵を入れた宝箱も宝箱を開ける鍵もどこにあるかは知ってる、宝箱は兄様のお部屋の衣装タンスの中、鍵は勉強机の引き出しの中。

「中は見ちゃダメです! 父様はあっち向いてて!」

「はいはい」

 鍵を開けてボクの絵を取り出す。にほんのお父さんとお母さんや、ベルリラにサクソルン、城のお庭に住んでるねこさん。兄様と一緒に描いた絵がいっぱい。

「よく描けているではないか」

「えへへ、でしょでしょ!」

 兄様の宝箱の前、ボクの絵を父様と一緒に眺める。にほんにいた頃からお絵描きは大好き、この絵に色が塗れたらなぁ。兄様だって絵に色が塗れたらきっと喜んでくれる、早くクレヨンが届かないかな、そう思っていたら。

「リュート? 何してんの?」


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