第十四話

 夏至のお祭りがどんどん近付いて来て、セタール先生のバイオリンのおけいこも一日中になったある日。いつかのように父様がおけいこ中のボク達を訪ねてきた。

「励んでいるか?」

「父様!」

「これはこれは国王陛下、ご機嫌麗しゅう。何用ですかな」

「我が子二人の様子を見に、な。練習は進んでいるか?」

「もっちろん! 今日も聞いていく?」

「これ! ネイ殿下、陛下に対してどう言う口の聞き方ですか!」

「良い良い、励んでいるようで何より。練習中すまないが、少し休憩にせんか?」

「おやつの時間ですか?」

「でもおやつの時間はまだ早いよね? さっきばあやと一緒にマナーのお勉強したばかりだし」

「この後の予定に城下町の視察が入っていてな、二人はまだ城下に出た事がなかっただろう。祭りも近付いて稽古も山場だとは思うが休憩がてらに、一緒に行ってみないか」

「行く!」

「行きたいです!」

「お供致しましょう」

「決まりだな」

 長めのおけいこは終わり。大臣のアサラトと、護衛にサクソルンも一緒。父様達と一緒にお城の外の大きな馬車に乗り込んで出発進行。

「父様、視察って何をするの?」

 ネイ兄様と二人で父様の隣に座って、ガタゴト揺れる初めての馬車に大はしゃぎ。お城の外には何をしに行くのかな。

「視察、と言うよりは打ち合わせだな」

「うちあわせ?」

「陛下は確か夏至の祭りの準備の為に毎年商人のギルドを訪ねていらっしゃいましたね」

 向かいに座るセタール先生がボク達を眺めながらそう言った。

「商人さんって、お店やさんのこと? ギルドって何をするところなんですか?」

「わかりやすく説明致しますと、お城の侍女長であるアジェン殿や騎士団長であるサクソルン殿がギルドにあたります。沢山の店や商人達の一番上で彼らの商売を守る為に決まり事を作ったり、その決まり事を守らない商人を取り締まったりする所です」

「夏至の祭りには沢山の花が必要になる。毎年買い付けや運搬に商人達の手を借りているからな、今年もよろしく頼むと挨拶に行くわけだ」

 夏至のお祭り。ボクは出たことないけれど、ナーストロイのボクが日記に書いてた。たくさんのお花を用意して大好きな人に渡すお祭りなんだってばあやが教えてくれたらしい。今日はそのお祭りの準備のためのお出かけ。だから父様の仕事を手伝うアサラトもいっしょなんだ。

 お城の兵隊さんたちに見送られて、どれくらい経ったかな。馬車は城下町の中でも大きい建物の前で止まった。ここが商人ギルドって所みたい。入口のドアの前でおじさんがボクたちを出迎えてくれた。

「ようこそおいでくださいました、国王陛下、アサラト様。それと……ええと」

「御機嫌よう、リック殿。事前の報せ無く人数が増えて申し訳ないが今日は私の息子と、その教育係が見学に。伯爵家のセタール殿と我が子のネイとリュートだ」

「こんにちは!」

「こ、こんにちは」

「ネイ、リュート。こちらはリック殿、商人ギルドの長を務めていらっしゃる方だ。お前達が使うペンや城の中で使う道具等も全てリック殿が用意してくださる品なのだぞ」

「ネイ王子に、リュート王子ですか。はじめまして、リックと申します」

「はじめまして! ネイです!」

「リュートです。はじめまして」

 商人ギルドの一番偉い人のリックさん。父様よりは年が上みたい。ボクたちとは少ししゃべり方? がちがう。どうちがうのか説明はむずかしいけれど、とりあえずボクたちとはちがうことだけわかる。

「はじめまして、伯爵家のセタールと申します。失礼ですが、リック殿はナーストロイ南部のお生まれで?」

「ええ、ええ。王都に来てもう十五年は経ちますが生まれの訛りがどうも抜け切らぬようで。伯爵殿は博識でいらっしゃるご様子ですなぁ」

「私の家内が南部の育ちでして」

「はあ、左様で」

 セタール先生とリックさんは何のお話をしてるんだろう。ネイ兄様ならわかるかな。

「兄様、セタール先生とリックさんは何のお話をしてるんですか?」

「さあ。おれにもわかんない、むずかしい話してるね」

 大人のお話はむずかしい。そういえばほいくえんの先生たちもボクにはよくわからない、たいくつであくびが出そうなお話をたくさんしてた。父様の今日のお仕事はそんなたいくつなお話をすることなんだって。

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