第三話

 お夕飯を終えて、ベッドの中。真っ暗なお部屋にひとりきり。ここで起きるまではずっとお父さんと一緒に寝ていたから、暗い中にひとりぼっちはとても怖い。真っ暗は怖いから、誰かと一緒に寝たい。でも誰と? 一番最初に頭に浮かんだのは父様だった。にほんのお父さんじゃないけど、ナーストロイのボクのお父さん。王様だからボクと一緒に寝るなんてだめかな。でもやっぱりひとりはいやだ、お父さんと一緒がいい。父様の部屋はナーストロイのボクが覚えている。父様の部屋に行ってみよう、ベッドを抜け出して暗いお城の廊下へと出た。

 あかりは壁にかけられたろうそくの小さな火だけの暗い廊下、おうちやほいくえんとは全く違う。去年ほいくえんできもだめしをやった時よりも暗いかもしれない。明るいお昼に部屋の電気を消してカーテンを閉めて、暗いほいくえんの中を皆で探検するっていうきもだめし。いつも明るいほいくえんが暗いだけでも怖いのに、先生たちが思いっきりおどかしてくるから泣いちゃった子が多くて、ボクも我慢しようとしたけどだめだった。女の子たちと一緒に泣いて、怖いのが平気な男の子たちに笑われたくらい、ボクは怖がり。早く父様の部屋に着いて、元から長い廊下がさらに長く感じる。

 誰ともすれ違わないまま、父様の部屋の前まで来た。ドアの下のすきまからあかりは漏れていない。もう寝ちゃったかな、入っていいかな、だめかな。ドアの前でしゃがんでどうしようと考えていたら。

「リュート?」

「ぎゃっ……?!」

 背後からいきなりの声。怖かったきもだめしを思い出して怖いと思っていたところに声をかけられて、驚かないわけが無い。大きな悲鳴をあげかけた口を、無理やり手で塞がれる。

「ばか! 声が大きい!」

 振り返って声の主を確認してみれば、それは見知った顔。

「危な……。じいやとばあやに起きてるのがばれたら怒られるから静かにして。騒がないって約束するなら手を離してあげる、できる?」

 三番目のお兄様、ネイ兄様だ。こくこくと頷いて、解放してもらう。

「兄様、どうしてここに?」

「それはこっちのセリフ。こんな時間に父様の部屋の前にいるなんて、じいややサクソルンにおしりぺんぺんされても文句言えないよ」

 じいや、サクソルン。何となく顔を思い浮かべることができる人の名前。じいやは父様に仕える召使いたちの一番上に立つ人、サクソルンは昼間ボクを追いかけてきた兵隊さんの一番上、ナーストロイ騎士団の団長で、オフィクレイド兄様に剣術を教えているところを見たことがある。二人とも厳しい人でオフィクレイド兄様はじいやに、ネイ兄様はサクソルンによく怒られているみたい。ナーストロイのボクもじいやに怒られた覚えがある、じいやのおしりぺんぺんが痛いことも。

「それで、どうしたのさ。父様に何か用?」

「……暗いお部屋が怖いから、父様と一緒に寝たいなって……」

「多分まだお仕事なんじゃないかな。おれたち子供はもう寝る時間だけど、大人はまだ仕事の時間だから」

「あう……」

「……気になるなら見に行く? 父様の仕事部屋」

「いっ、行きたいです!」

「だから声が大きい! 父様の邪魔になるから静かにね」

 ネイ兄様と手を繋いであかりの少ない廊下を歩く。さっきは怖かった廊下も誰かと一緒なら怖くない。ネイ兄様に連れられてやってきた部屋のドアの前、あかりがほんの少しだけ漏れている。ここは父様の仕事部屋、父様はまだお仕事中みたい。父様の他にじいやと大臣のアサラトの声が聞こえる。

「ね、言ったでしょ。父様はまだお仕事だから一緒に寝るのは無理だよ。一人で寝るのが怖いならさ、おれと一緒に寝ようよ。ばあやの部屋に行くのもいいけど、ばあやは早起きだから早く起きなきゃいけないし。おれの部屋だったら起こしに来るのはベルリラだからちょっとくらい朝寝坊しても平気だよ」

「いいんですか?」

「代わりにちょっと付き合ってよ」

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