ぬいペニの加害者になった所感
ぬいぐるみペニスショック。「女性が、それまで恋愛対象として見ていなかった男性に告白された時に抱く強い嫌悪感」だそうな。ひどい言葉と言う人は言うが、この現象の被害者からすれば知った事ではないだろう。
私がその加害者となったあらましを、端折って書き出せば次のような物になる。
三年前、ある女性を好きになった。一目惚れというもので、人生初の体験だったからだろう、私自身がその気持ちに気づくのに一年くらいかかった。
気づいてから、私は私のグレードの低さに愕然とした。その女性は仕事でも容姿でも性格でも、全てにおいて私の上を行くひとだった。どう考えても釣り合わない。
ここで一つの選択をした。私は自分を磨く方向ではなく、その女性を前向きに諦めるという方向に舵を切ったのだ。愚かだったかもしれないが、当時はそれしか選べなかった。
仕事上での付き合いはある相手だ。何か役に立てることはないか日々集中した。彼女の障害に成り得るものを予め取り除いた。彼女と同席する仕事場において、雰囲気を良いものにする為あらゆる知恵を絞り実行した。彼女の愚痴を聞き同意と共感を示した。
二年かけ、晴れて私は彼女のぬいぐるみとなった。
幸せな日々が続いた。LINEでのやり取りは常に良い雰囲気。その日の出来事、業務における雑感、その日何を食べたか、皆既月食について、など、など。彼女から贈られるそれら全てが私を幸せにした。
「そろそろ行けるか?」とでも思ったのか。クリスマスが近づいてきたからか。私はやってしまった。
二人きりになる機会を露骨に作り始めた。食事に誘った。会話の中に、自分が男であることを匂わせた。それら全て、相手の意思を確認しようともせずノンストップである。止められなかった。
上手く行っていない雰囲気だけは私にも読めた。そこでまた選択を誤った。
電話で告った。
絶対逆転不可能な状況からの告白。誰が見たって愚か極まる。それに気づいた私は更に悩乱し、独りよがり且つ下劣なトークを展開した。
全てが終わった後の、彼女の嫌悪感に満ちた声の色を、私は一生忘れない。
それでも彼女は気遣いの鬼である。大人である。私を傷つけないよう細心の配慮をしてくれた。やんわりと断るやり方は無数にある。
その後のLINEの内容、返信のタイミングなど、実に色々な方法でやんわりとしかし完全拒絶の意を示され、私は最後に謝罪の文章(これまた手前勝手で迷惑な、いわゆるロミオメール)を送りつけ、トークルームは完全停止した。
この出来事について私は深く考えた。原因は何だったのか。タイミング的な物・言葉の選び方などなど、細かな事はいくらでも思いついた。その上でざっくりとした結論に行き当たった。
ぬいペニ現象の原因は、男側の『思い上がり』にある。
客観的に見て釣り合わんものは釣り合わんのである。
更にこれは、より重要な事だと思うのだが、幸せな時間をくれた人に対する感謝の念を忘れなければ、彼女が男性の友人に「男」を求めていないことぐらい理解できるはずなのだ。彼女の細かな反応の中からそれを拾い出すだけの眼を失うのは、まさに思い上がりの成せる業であろう。
感謝の思いを日々新たにして相手を良く見れば、相手の求めている事求めていない事、それくらいは理解できる。それが人間同士の正しい関わり合いだろう。
さて今回、私は一つの学びを得て唯一つの恋愛を失ったが、やっかいな事に恋愛感情だけは消えない。そしてマズいことに、彼女とは今後も仕事で関わるのだ。
私に出来ることは、なるべく彼女の視界から外れる事だろう。かつてやった事のある、気づかれない範囲でのサポートもNGだ。気づかれたが最後、それは彼女に対する嫌がらせと同等になる。
そしてこのように書き出すことによって状況を整理できた私には、最良の手として転職と転居が視野に入った。実際、東京から逃げ出すにも良い機会かもしれない。
私のそれらの行動によって、彼女にとっての嫌悪感の源が一つ減るのだから、それは私の義務であり喜びでもある。
義務と喜びが一体化する、これは幸せというものだろう。この幸せに対する感謝を、今度こそ忘れないように生きていこうと思う。
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