【その顔とその顔とその顔】③
備忘録 〜貴婦人編 その3〜
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花よりも彼女は石楠花そのものだった。
あらゆるものがハイエンドの巻
ハイエンドなんて、遠くをさまよってる言葉だと思ってた。本屋に行くと、左から右まで雑誌が並んでると大抵店の奥に行くほど高級なものを扱う雑誌になっていく。彼女はそんな奥まった高級雑誌の中に住んでるかのような人だった。
あの紙面の中で繰り広げられている世界に登場する素敵に見える人たちは性格も素敵なのだろうか。少なくとも薗坂さんは、性格も穏やかで優しく発する声も鈴のようだった。
私には仲良く楽しい友人たちはいるが、外見や住んでいる家やひとつも残らず完璧な人はいなかった。
こんなことを表現すると友人たちに申し訳ないのだけれど。でも、それは人間味ということで許して欲しい。
薗坂さんは、その完璧すぎるほど完璧な姿で、パリン、カラカラカラと今にも音が鳴りそうなほど繊細な薄い美しいガラスのコーティングをしているようにも見えた。例えて言えば私の友人たちは生身のまま生きているのに対して、薗坂さんはコーティングしてるように見えたということだ。
薗坂さんは私たちの共通の人たちとの集まりがあったりする日の前、よく電話してきた。だいたいは「具合が悪くて、集まりに行けるかわからない」と苦しそうに訴えるものだった。集まりがある日の前日から、必ず腹痛になる人だった。
そんな電話が来ると、私は、うまく話しておくからゆっくり休んで欲しいと伝えた。
しかし、彼女はたいがい、集まりにやってきた。
約束すると外すことはなかった。人望も厚いのだ。
こんな完璧な人、今まで会ったことあるだろうか。
私は疑いもなく、人として素晴らしいと思っていたが尊敬というところにまでは行かなかった。
彼女と話していると、本当にもと医者だったのか
不思議に思えるほどものを知らなかった。
医者も一年くらいでやめたと話していたが。
その、ものの知らなさが心の中で呆れてしまうこともあり、友人としても一目置く、というところまで残念ながら行かなかったのである。
そうなると、完璧とは言えないのだろうけれども、彼女の表面的な世界は誰が見ても完璧だった。
車は外車、海外旅行もハイエンドと言われるホテル、そういえば、かかる病院もすごく遠くまで行ったりしていた。たぶん、自分を囲むもの全てが一流のものであるように選んでいたのかもしれない。
そんな彼女は買い物が好きだったと思うのだが、
またその買い物が凄まじい。毎月毎月、ハイブランドショップでジュエリー、時計、バッグ、洋服を買うのだが、それ以外にも私みたいな普通人が購入するような洋服屋でもごっそりと買い物をする。
そう言えば洋服なんて一度も同じ服を着ているのを見たことがない。どうやって整理整頓してるんだろう。お金があるところには本当にたくさんお金があるのだと思うけれど、別世界のことに見えて、見ているのは楽しいが、私はそうしたいとは思わなかった。
彼女との付き合いも長くなってきたころ、
ある日彼女はこう話してきた。
「買い物した物をすっかり忘れていて、使わないまま捨てたりすることもあるの。」
「え、こんなの買ったっけって思ったりすることもあるの。」
10万円くらいだと買い物したことを忘れてしまうこともあり、その上捨てることもあるって、苦笑しながら教えてくれた。彼女はえへへ、と舌を出して夫は可愛いな、仕方ないと許すのだろうか。
でも、だんだん、私はこの人って、普通ではない、
完璧だけど、どこか変だし、なぜかとっても
可哀想な感じがするなと思い始めていた。
その4に続く。