前夜 『砂のように舞え』
土は、美しい緑を育む。
生きとし生けるもの全ての源となりて明日をつくる。
その柔らかい恵みに手を沈め、一掴み握って指を擦り合わせると、土は、はらはらと散る。いくらか黒ずんだ手は当然の如く洗い流される。
その夜、燃え尽きた魂は灰となる。
熱狂した人々は一人二人と去り、静まり返ったその地において風に吹かれて舞い上がる。
魔女を焼いたのだと、誇らしげに語り家路につく彼らをボクは遠巻きに眺める。彼らのうちの何人かは、ボクに気づいて眉を顰める。疎ましそうに視線を投げる一方で、微かに同情を滲ませる。
ただ一人、その男はボクに近づいてきて、ボクの背に手を添えた。その男は何も言わない。ボクが先に口を利くのを待っている。だからボクは言う。
「母さんは魔女なんかじゃない」
男は黙ってボクの背を撫でる。
そんな夢を、ボクはもう何度も見ている。