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傷つきやすい若者たち(グレッグ・ルキアノフ)

ソクラテス: グレッグ・ルキアノフさん、本日はお越しいただきありがとうございます。私たちが今日取り上げるテーマは、「傷つきやすい若者たち」というものです。ルキアノフさんは、ジョナサン・ハイトと共著で『The Coddling of the American Mind』(日本語訳:『傷つきやすいアメリカの大学生たち』)を出版し、その中で、現代のアメリカのキャンパスや社会が若者たちに過保護な環境を提供していると論じています。ルキアノフさん、本日はお越しいただき、誠にありがとうございます。

グレッグ・ルキアノフ: ソクラテスさん、こちらこそお招きいただき、光栄です。「傷つきやすい若者たち」について、私たちが著書で取り上げた「アメリカン・マインドの甘やかし」の観点から、今日は深く掘り下げて議論できればと思っています。

ソクラテス: では、まず「アメリカン・マインドの甘やかし」とは具体的にどういうことなのか、その核心についてお聞かせください。

グレッグ・ルキアノフ: もちろんです。私たちの著書では、現代のアメリカ社会、特に大学のキャンパス内で顕著な3つの誤った思考パターンを指摘しています。第一に「脆弱性の仮定」、これは人々が自らを過度に脆弱な存在と見なし、挑戦や困難から逃れようとする考え方です。第二に「感情的決めつけ」、つまり自分の感情を客観的な証拠と混同してしまう傾向。そして第三に「味方か敵か」、世界を単純な善対悪の二項対立で見ることです。

ソクラテス: それぞれの思考パターンについて、もう少し詳しく教えていただけますか?

グレッグ・ルキアノフ: もちろんです。まず「脆弱性の仮定」とは、「困難な経験は人を弱くする」という信念で、例えば、大学生が特定の言葉やアイディアを聞くだけで心的外傷を受けると信じるようになった場合、それはこの思考パターンの一例です。このような信念は、彼らが新しい考え方や視点に触れる機会を避けるようになり、結果として知的成長やレジリエンス(回復力)の発達を妨げます。

次の「感情的決めつけ」は、「不快だからこれは悪い」といったように、自分の感情を客観的証拠として扱う習慣です。この思考パターンは、論理的な判断を曇らせ、誤解や対立を引き起こしやすくなります。

最後の「味方か敵か」は、すべてを完全に良いか悪いか、自分の側か敵の側かといった極端なカテゴリーで分類する傾向を言います。この思考は対話や相互理解を困難にし、社会的分断を深めます。

ソクラテス: あなたの言及したこれらの思考パターンが対話や相互理解を困難にし、社会的分断を深めるという点は、非常に興味深いです。しかし、一つ気になるのは、なぜ現代の若者たちはこのような思考パターンを持つようになったのでしょうか。その背景には何があると思われますか?

グレッグ・ルキアノフ: その質問は非常に重要ですね。ジョナサンと私の研究によると、若者たちがこれらの思考パターンを持つようになった背景にはいくつかの要因があります。特に、ソーシャルメディアの普及が大きな影響を与えています。若者たちはソーシャルメディア上で自分の人生を他人と比較し、その結果、不必要なストレスや劣等感を感じてしまうことがあります。

ソクラテス: なるほど、ソーシャルメディアがそうした影響を及ぼしているのですね。他にはどのような要因が考えられますか?

グレッグ・ルキアノフ: もう一つの大きな要因は過保護な育児スタイルです。多くの親が子どもをあらゆる種類の困難や失敗から守ろうとするあまり、子どもたちが自己効力感を育む機会を失っています。このような環境では、若者たちは自分の能力に自信を持つことが難しくなり、挑戦から逃れる傾向が強まります。

ソクラテス: 確かに、そのような保護の意図が逆効果になることもあり得るわけですね。他に注目すべき点はありますか?

グレッグ・ルキアノフ: はい、学生を守るためと称してとられる、学校の自己防衛的な方針も、こうした思考パターンの伸長に拍車をかけています。特定の言論や議論を「不快」だと捉え、それを理由に制限するような方針は、若者たちに、異なる考えを持つ人々と対話することの重要性や、意見の相違を乗り越えて共通の理解を築くスキルを学ぶ機会を奪っています。結果として、若者たちは異なる視点に触れることなく、自分の思考パターンや信念を強化するだけの環境に閉じ込められてしまうのです。これは、二分法の考え方や感情的決めつけを強化し、対立を生み出しやすくします。

ソクラテス: なるほど、教育環境が若者たちの思考パターンに与える影響も見逃せませんね。これらの要因を踏まえて、若者たちの思考パターンにどのように対処すればよいのでしょうか?

グレッグ・ルキアノフ: ジョナサンと私の提案する対策は、若者たちが健全な心理的発達を遂げるために非常に重要な要素を含んでいます。まず、私たちは「精神的な対抗力」を高めることの重要性を強調しています。これは、若者たちが困難やストレスに直面したとき、それらを乗り越えるための内的な強さを育むことを意味します。

この精神的な対抗力を育むために、私たちは「認知行動療法」(CBT)の技術を若者に教えることを推奨しています。CBTは、不合理な信念や思考パターンを識別し、それらをより合理的で建設的なものに置き換えることを目指すものです。このプロセスを通じて、若者たちは自らの「脆弱性の仮定」「感情的決めつけ」「味方か敵か」などの誤った思考パターンに向き合い、それを克服することができます。

また、私たちは大学や学校が「知的な寛容性」と「議論を通じた学び」を促進する文化を育むことが重要だと考えています。これには、学生たちが様々な視点に触れ、それらについてオープンな心で議論する機会を提供することが含まれます。このような環境は、若者たちが自らの信念を深く考察し、他者の視点を理解する能力を養うのに役立ちます。

最後に、私たちは親や教育者に対して、子どもたちが自立し、困難に直面することの価値を認識することを支援するよう促しています。子どもたちに安全な環境でリスクを取らせ、失敗から学ぶ機会を与えることが、彼らの成長と発達にとって不可欠です。

ソクラテス: 教育機関の役割と個人の努力が組み合わさることで、若者たちがこれらの課題に効果的に対処することができるようになるわけですね。しかし、社会全体として、このような思考パターンに対処するためには、どのようなアプローチが有効だと考えられますか?

グレッグ・ルキアノフ: 社会全体としては、若者たちが異なる意見に触れ、それらに対して開かれた心を持つことを奨励する文化を育むことが重要です。これには、メディア、政策立案者、そして一般市民がそれぞれの立場から貢献することが求められます。メディアは多様な視点を公平に扱い、対立をあおるのではなく、対話を促進する報道を心掛けるべきです。政策立案者は、教育や社会サービスを通じて、対話と批判的思考を促進するプログラムを支援し、拡大することができます。

ソクラテス: 社会全体で対話と批判的思考を促進することが、若者たちが健全な心理的発達を遂げるためには不可欠なのですね。最後に、ルキアノフさんとハイトさんが提唱する対策を実践することの最大の障壁は何だと思われますか?

グレッグ・ルキアノフ: 最大の障壁の一つは、現代社会における極度の分極化です。異なる意見への耐性が低下し、人々が自分たちの考えを強く固守する傾向が強まっています。このような環境では、対話を促進し、多様な視点を受け入れることが一層困難になります。それに対抗するためには、教育機関、メディア、そして社会全体が協力して、対話と理解を深める文化を積極的に育む必要があります。

ソクラテス: なるほど、分極化を超え、対話と理解を深めることの重要性が際立っていますね。ルキアノフさん、貴重なご意見をありがとうございました。若者たちが直面する心理的な課題に対処し、より豊かな人生を送るために、私たち全員ができることを改めて考える機会となりました。

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