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好きからはじまる着物

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着物にかかわりはじめてからこれまでのあいだで、よかったことや困ったことの体験を綴りました。ふだんの生活の中に、着物を身近に感じる。着物っていいかもと感じる。着物をきっかけに交流の…
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#エッセイ

きっかけ

きっかけ

「せっかくだから口紅を付けましょうね。」

平成元年。秋風が朝の冷たさを届ける。近所の小さな美容室。赤い口紅。ヘアセットと着付けが終わると、いつもと違う、特別な日がはじまりました。

その日は、短大の学園祭。所属していた茶道サークルでは、キャンパス内でお茶会を開催することになっており。着物でおもてなしをするために、早朝からの支度となりました。

母の友人から借りた、小紋の着物を身にまとうと、暖かく

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雨模様

雨模様

平成四年の秋。友人代表スピーチを任されたあの日は、快晴でした。

ハレの日には、母が贈ってくれた加賀友禅の付け下げと、佐賀錦の帯と決めていました。付け下げの着物は、紅梅色に秋草、牡丹などが描かれているもの。その衿元には、マゼンタ色の伊達衿を入れて、つつじ色の帯揚げと帯締めでコーディネートしました。華やかに装い、緊張しながら、披露宴会場へ向かいました。

乾杯の準備が始まると、ドキドキが増してきまし

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送別

送別

契約満了のため、居心地のよかった職場を退職することになりました。二〇〇一年の秋でした。

送別の記念品に、職場の方から帯締めをいただきました。薄香色(うすこういろ)の冠組(ゆるぎぐみ)の組紐で、フォーマルでもふだん使いにもできるという、便利な帯締めでした。絹の柔らかさと光沢を感じる素敵なもので、手に取ると、当時を思い出します。

新橋駅近くの古めのオフィスビルで、デスクワークをしていました。メール

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押し花

押し花

着物は、式典に華やかさを添えます。式典こそ着る機会として、入学式や卒業式は、着物で参列しようと心に決めています。

2017年4月。息子の中学校入学式でした。

新一年生は165名。少し大きめの、真新しい制服が初々しい。全員が紺色のブレザーとグレーのスラックス。当時は男子校でした。付き添う保護者は、生徒数より多く、ほとんどの人がスーツ姿の中、着物のお母様方を数人見かけました。着席すると、黒っぽく埋

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声

あー、無かったことにしたい、カビとシミ。着物の惨状に。心の悲鳴が止まらない。

久しぶりにタンスから着物を取り出すと、大変なことになっていました。防虫剤と除湿剤の取り換えは、間に合っておらず。加えて、タンスを置いていた部屋は、日中過ごすことのない、荷物置き部屋。湿度が高かったのです。

六~七年前、勤務先は、合併などで組織変更が頻繁にありました。人の流動が激しいせいか、仕事はこれまでで一番忙しく、

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掘り出し物

掘り出し物

「着物って、どこで買ったらいいの?」。そう聞かれて、気軽に比較できるネット通販を思い浮かべます。気になる着物は……と、「更紗 更勝」で検索。すると、「メルカリ」がヒット。呉服店の新品ではなく、中古品が見つかりました。

三十年前、社会人二年目の頃。仲の良い呉服店の店員から勧められ、更紗染の着物を購入しました。

若葉色の地色、草花や動物柄が細かく敷き詰められ、色数も多い小紋に、心を奪われました。色

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