第1話 拝借拝借(※4人台本)
登場人物4人
?(♂)→物語の重要人物。
悪党A(♂)→正義感が強く、他者を守りたい気持ちで動く真っ直ぐな性格
シイ(♂)※性別逆、もしくは同性も可
ユウ(♀)※性別逆、もしくは同性も可
→双子。どちらも子供らしく非常に天真爛漫だが、無慈悲。
?_正義の味方である以上、けして悪には加担しない。裁く理由は何処にある?地獄に落ちても問うのかい?無力な身体で喚く果て、並べた理論も命乞い。
?_わかるだろう?奴らは改心しないんだ。だから僕らが手を下す。
?_さぁ、幕引きだ。散り方はお任せあれ。相応しいものを拵えよう。
──だって僕らは、正義の味方だからね。
パターン1
悪党A
シイとユウ
A「ハァッ、ハ…ッ…ハッ!」
《森の中を躓きそうになりながら走るA》
A「は、ッ…なんで…ッ…なんなんだよ…!」
《いくら駆けても、どこからか響く双子の声》
シイ「走れど走れど変わらない」
ユウ「僕らはきみがよく見える」
A「ッ…!俺は…ッ、俺は…!」
シイ「覚えがないって?」
ユウ「悪い事をしたのに?」
A「は、ァ…ッ!どこにいるんだよ…ッ、一体なにが目的なんだよ!」
《Aは立ち止まり周囲を見渡し声を上げる》
シイ「僕らはただ裁くだけ」
ユウ「そこに理由は必要ない」
シイ「きみたちはいつもそうだね」
ユウ「自分は悪じゃないって思ってる」
《ふわりとAの前に双子が現れ、Aは剣を構える》
シイ「きみは国を救った英雄だ。魔王の元から姫を連れ戻し、国の平和を脅かす魔物を葬り、持ち帰った宝物で貧困にあえぐ民を救った。」
ユウ「だけど大元、大昔。国は言語の通じない魔物に、これは悪だとレッテルを貼った。そして、地獄のような地区へと追いやり結界で閉じ込めた。」
シイ「自分たちの理解が及ばぬ存在は悪。なかった事にしてしまおう。我々の平和な国を守るために。」
ユウ「安息の地を築くために。水も緑も鉱石も、全てを使って豊かにしよう。結果は穏やかで発展した、美しい国。」
シイ「魔物達は、わけも分からぬままに、凍てつく寒さと灼熱と、毒と渇きに苦しんだ。平和に暮らしていただけなのに。」
ユウ「順応するしかなかった。生きていく為には。暮らしていく為には。身を焼くような痛苦も、醜く変わる身体も、許容するしかなかった。」
シイ「だけどもある日、結界が破れた。永い永い月日を経て、脆く朽ちた先に出口が出来た。」
ユウ「縋るように手を伸ばして、地獄から漸く脱出した。」
シイ「その先で見たのは、瑞々しい緑と美しく豊富な水。楽しげに奏られる音楽に食料。」
ユウ「嗚呼、なんて素敵な楽園!」
A「ッだからって…!民衆を襲って、物を奪って!姫をさらって!そんな事が許されると思うのかよ!?奴らは魔物だ!ケダモノだ!まさか和解しろだなんて言うつもりか!?そんな根も葉もない作り話をして!」
《双子は楽しそうに笑って歌うような言葉を続ける》
シイ「彼らは許される側じゃない。」
ユウ「君たちは許す側じゃない。」
シイ「彼らは欲しかっただけ。自分達が知らない世界を。」
ユウ「彼らは飢えていただけ。奪われた先で渇望した物を。」
A「…はぁ…!?」
シイ「だけども彼らは適任だった。」
ユウ「そう、適任だった。」
シイ「英雄を作るには適任だった。」
ユウ「王は困った、悲しんだ。最愛の娘は攫れ、奪われた食料や富に民は苦しんだのだから。」
A「そう……そうだ!悲しませて苦しませて、傾国を招いて被害者ヅラか!?…姫が流した涙を、お前らが軽んじるのか!?…俺は…俺は!みんなを守る為に、ッ…二度と悲しませないために!この剣を握ったんだ!」
《双子は同時に、静かにAを指差す》
シイ「その剣は何人の血を吸ったの?」
ユウ「何人の生涯を終わらせたの?」
A「黙れ!!大切な人達を守りたいと思う気持ちが、お前らには分からないのか!」
シイ「きみたちは知らない、魔王の実の娘の話を。」
ユウ「魔王と呼ばれる存在が、一目会いたかった愛娘を。」
A「なに…?」
シイ「知らないんだ。」
ユウ「知るはずがない。」
シイ「何故、魔物たちを封印出来るほどの力を、太古の国が持っていたと思う?」
ユウ「どうして、結界は綻びたと思う?」
A「言いたい事はさっさと言え!お前たちの話し方は癪に障る!」
《磨かれた剣術によって振られる刃を遊ぶようにかわしながら、双子は再びくすくす笑う》
シイ「姫は魔王の血を引いていた。」
ユウ「初代の姫は魔王の娘だった。」
《話を聞いて剣の動きを止めるA》
A「な、にを…でたらめを…」
シイ「初代の王は知っていた、優れた魔力の血は国の繁栄に欠かせないものだと。」
ユウ「国には昔、神に愛された腕を持つ、卓越した力を使う魔術師がいた。」
シイ「だが初代王は、自分の地位が奪われる事を恐れた。」
ユウ「そんな折、魔物たちが現れた。魔術師は平和を望み、和解の為に魔物との意思疎通を試みて成功した。」
シイ「王はひとり笑った。邪魔者を排除できる絶好の機会だと。」
ユウ「そして、力を手にする機会だと。」
A「…ふざけるな!国の高貴な魔術が発展したのは、代々王族に流れる血によるものだ!貴様らはそれすらも愚弄するつもりか!?」
シイ「その血が最初に流れていたのはだぁれ?」
ユウ「ああ、可哀想な魔術師!魔物を従い、謀反を企む危険因子と糾弾されてからは早く!」
シイ「王の言葉は絶対だ!散々救われて来た恩知らずの民衆は、魔術師を寄ってたかって袋叩きの磔に!恐ろしい恐ろしい!魔物を操る魔術師は、炎によって燃やしてしまおう!」
ユウ「喉を潰され、激痛に悲鳴も上げられぬまま、意識が沈む直前に」
シイ「魔術師は、遺す娘の身を案じて己の事を忘れさせた。」
ユウ「そうして娘は王の手に。朽ちて動かぬ魔術師を、悪だと王にそそのかされて」
シイ「実の父を、魔物と共に封印した──」
A「……そんな…、…そんな!馬鹿な話があるはずがない!戯言で俺を騙そうとしたって──!」
ユウ「魔王は会いたかっただけ。自分の娘の面影を追って。」
シイ「魔術師は話したかっただけ。愛娘の、己の子孫と。」
ユウ「だけど、今語られるべきは違う話みたい。」
《真実味を帯びた話に剣を持つ手が震えるA》
A「……やめろ…」
シイ「姫となった愛娘の子孫は、真実を知って涙した。そして目の前で、」
A「やめろ…やめろ…!」
ユウ「──再会を果たした本当の家族の首は、英雄によって切られた。」
A「やめてくれーーー!!!」
《Aは剣を落とし耳を塞ぐ》
シイ「でも大丈夫。きみは英雄だから。」
ユウ「こうして、邪悪な魔王を倒した英雄は、心を壊して泣いている姫を無事に連れ帰り、王に讃えられ、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。」
A「やめろ…頼む…やめてくれ…すまない…すまない…!すまなかった…ッ」
《Aの頬に涙が伝う》
シイ「大丈夫。僕らにはきみがよく見える。」
ユウ「さぁ、僕らをよく見て。」
《Aの頬に双子が片手ずつ優しく添える》
A「ッ…?」
《刹那、双子の目が赤く光って、Aの身体が徐々に石化する》
A「ぐッ…あ…あ"あ"あ"ぁ"ぁぁああ"!!!!」
ユウ「英雄の石像は作らなきゃね。」
シイ「いつまでもいつまでも、きみは語り継がれるんだから。そうでしょう?」
A「がっ…あぁ"…ッ!痛い…ッ!いだぃいい!!苦し…ッ…い!!ァァアア"!!」
ユウ「ダメだよ、泣いたりしたら。英雄らしく、胸を張って誇らしく」
シイ「笑顔でみんなを守る英雄。それがきみなんだから。」
A「は、ァ…ッぐ…!あづ、い"ぃ…!助…け…」
《頭部まで石化し苦悶の顔で力尽きたAを見て、双子は手を握り合い可愛らしい顔を笑みに歪める》
ユウ「良かったね、素敵な石像が出来たよ。」
シイ「ちゃんと凛々しくしないとだめなのに。あとで直しておいてあげる。」
ユウ「大丈夫、意識はずっとずっと続く。それが僕らの力だから。」
シイ「痛みも冷たさも熱さも苦しみも、ずっとずっと続く。永い永い、年月の中で。」
ユウ「まぁ、僕らはあの国も魔王も、どうだっていいんだけどね。」
シイ「悪者退治が僕らの仕事、やりたい事。」
ユウ「大切な役目。」
シイ「そう、僕らにはよく見える。」
ユウ「きみの事が、よぉく見える。」
シイ・ユウ「ウフフ、フフフフッ…」
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