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第103回 「世界史実践報告」(「歴史総合」研究チーム)

 第103回は世界史Bの実践報告です。歴史総合との接続を意識して行った授業実践を報告していただきました。現在の報告者の先生の関心テーマは、接続、自己知、主体的に学習に取り組む態度の評価ポイントです。自分に関する知を世界史の中でも考えていけたら、その生徒の主体的に学習に取り組む態度が養われていくし、そこをどうにか評価したいと考えておられるそうです。
 報告は第一次世界大戦の単元です。「国際秩序の変化や大衆化と私たち(歴総)」の学習を踏まえて世界史探究では各地域における民族自決に注目する、「私たち」と対峙される「他者」に注目する(歴総の大項目は「〇〇と私たち」が多い)、この2点を踏まえた実践をご報告いただきました。「第一次世界大戦を通して人々はどのような平和を求めたのか」を単元の問いとして設定し、大戦の影響によって主にヨーロッパとアジアの諸地域の人々がどんな平和を求めていたのか、求める平和の違いを考察していきます。その際に平和を分析する概念として用いたのが民族自決。不戦条約を着地点と考えていましたが、授業を進めていく中でガザ地域の報道が多くなりパレスチナ問題に注目が集まるようになったため西アジアの平和構築に切り替えて生徒がより関心をもてるよう変更されました。知識構成型ジグソー法を取り入れたり、一枚ポートフォリオを利用して授業を進める中で、生徒たちとは違う時代、違う地域を生きた他者にスポットを当てて平和構築を考えていきます。平和と民族自決を結び付けられている生徒もいて、手応えを感じられている一方で、意図したところまで届いていないと感じるところもあり、今後の課題として、帝国主義によって生じた第一次世界大戦の影響の現れ方の違いをよみとるために単元間のつながりも意識すること、受験もあるが、クラスメートと考ながら理解を深める機会を年間計画の中で十分に確保することを挙げていただきました。
 この実践報告は、別の研究会でも発表されており、そこで指摘されたことも紹介していただきました。単元のはじめに「平和」という言葉を使ってしまったので、生徒の理解が現代的な平和に支配され、当時の他者が求めた平和に迫れないのではないか。「第一次世界大戦を通して人々はどのようなことを望んだか」を単元の問いにして、最後に「では人々が求めた平和って何?」と問う方法もある。「平和=戦争がない」で終わるのは危険。また、もっと現代に近づくために最後の一コマにオスロ合意をもってきてもよかったのではないか。その方が報告者が意図したことがより達成できるのではないか。以上のような指摘だったそうです。

― 質疑応答 ―
・授業観の問題だとは思うが、「平和とは何か」の問いで授業が進む中で、様々な平和があるということがわかっていく単元構成だったので、この流れでよいのではないか。「戦争がない状態=平和」ではない、という指摘を踏まえて人間の安全保障が注目されるのはもっとあとの時代。それはグローバル化のところで扱えば良い
・指摘を受けて何が学びになったのか→「平和」という言葉を最初に出してしまったので、平和の状態を考えることに引っ張られてしまい、人間の安全保障までもっていかざるを得なかった。生徒の状態をみて追加で問いを提示するということろで、まだまだやれることがあると思った。
・OPPには懐疑的な意見をもっている。毎回、回収してチェックして・・・ではコスパが悪くないか?OPPを使ってみたメリットとデメリットを教えてほしい。→毎時間の設定した問いに対して生徒がどこまで迫れてるのか、理解できてるのかをみる上で、OPPはとても勉強になる。次の授業でどうアプローチするかを組み立てやすいところはメリット。デメリットはやはり膨大な時間をとられてしまうところ。ハンコだけで返すこともあれば、授業の意図やそれ以上の理解がみられれば、それに対して大量にコメントしてしまうこともある。
→OPPは生徒自身が自分の理解をメタ認知するためにある。生徒がストックすることに意味があって、先生はそのストックを振り返った最後だけをみるという方法でもよい。
→OPPをスプレットシートに入力する形にすると、回収や紛失に対応する手間が省けてコスパが少し上がったと思う。
・成績をつけるためには数値化する必要があると思うが、OPPをどう評価しているのか。→毎回のメインクエスチョンの記述は形成的評価としてみている。最後の単元の問いに対しての記述を評価。ABCで基準を設けて評価してから点数化する。
・自己知を世界史の中で促していくために意識していることはなにか。→アメリカ大陸発見で、先住民にキリスト教の素晴らしい教えを伝えるという建前のもと支配や差別が行われていたことを学び、現代と共通することや違いを考えていく。その中で、差別は許されないと理解しているはずの高校生が自分の立場で無意識にもってしまっている差別意識をあぶり出していけたらと考えている。
・狙いを「他者」への視点に定めることで、地域、宗教などによる平和を維持する難しさを考えることができたと思うが、それとは別に自己や現在につながる場面はあったのか?授業実践の時代の国際秩序の乱れは現在にも通じるところがある。平和の本当の難しさ、日本も無関係ではいられないなど、現在や自己とリンクさせた生徒はいたか?→今回報告した単元の中では西アジアが現在のパレスチナ問題やガザの状況とリンクすると考えていたが、生徒たちの記述を見て現在起きている問題と結びつけて考えることは難しいと感じた。だからこそ教科書の枠を飛び越えてオスロ合意までもっていった方がより現在と繋げて考えられるのではないか、という指摘があったのだと思う。狙ったところには届いていない。ただ、東アジアで日本がアジア地域と歩調をあわせず、欧米列強に追随したことを扱ったときに日韓日中関係にまで繋げて考える生徒がいたので、収穫があったと思っている。
・他者に注目することを世界史探究のポイントと捉えていたが、歴史総合でも過去を扱う限りは常に他者を扱うのではないか。世界史探求での他者の扱い方は歴史総合とどう違うのか。→世界史探究は古代から扱う。文明が誕生し、諸地域に広がるというところから学習するので、歴史総合よりもより自分の実生活ともっと違う時代のかけ離れた環境をイメージして他者を考えられることに違いがあると思っている。
・歴史は過去の理解のためにあるのか、現在の理解や問題解決のためにあるのか。→現在のほうが比重が大きいと思っている。過去を過去のまま理解すると語句の暗記に留まるのではないか。過去から現在を顧みないと意味がないのではないか。

― 以下議論(歴史総合から探究への接続で意識したこと、計画していることは何か。本実践で授業者が意識したこと(民族自決・他者)についてどう思うか) ―
・中学校の社会科教科書の記述(特に19世紀以降)と比較することで歴史総合から世界史探究への接続のヒントになる。
・歴史総合で社会の構造を考える力がつき、探究科目でも生徒たちはそれをベースに理解を深めている。例えば抑圧的な政策をとる国と寛容な政策の国ではどちらうまく統治できるか考えたるなど、社会の構造を理解して比較できたりする。教員は歴史総合で身につけた力が探究の具体的場面でしっかり使えていると評価してあげることも大事。
・人類の歴史で戦争がなかった期間はどれくらいか、ということを導入に授業をスタートする。平和だったとされる期間は危機の時代でもあった。それぐらい平和は脆弱なものということを伝える。
・接続は授業者の狙いによるところが大きい。現代的諸課題の解決を考える科目でありたい。平和の概念がわかりかけたら、それを土台に平和の構築に役立った過去の事例ばかりを世界史探究で扱い、これから先の平和をどう構築していくかを歴史総合、世界史探究で合わせて考えていく。
・第一次世界大戦のように歴史総合でも世界史探究でも重複して扱うものは、視点を変えてやる必要がある。一方でイスラーム教の誕生など歴史総合では深く扱わないものについては、世界史探究でも現代的な諸課題の解決を意識して授業展開しても良いのではないか。
・本来の歴史総合とか世界史探求というのは一体どんな科目なのか、何を子どもたちに教えればいいのかを考える。学習する生徒の多くは日本人だが、中には中国籍や韓国籍の生徒もいるかもしれない。そんなときに、東アジアの平和とはどんなものか、なぜ日清戦争や日露戦争、アヘン戦争が起こったか、それがベトナム戦争とどう関係するか、さらに現在の様々な問題とどう結びついているか、いろんな形で接続して学ぶことができるもの。
・OPPは手間暇かかるものだが、やっぱりそれを通すことによって子どもたちがどういうふうに学んでいるか、歴史をどのように学んでどこにつまずいてるかをみつけられる。それが大切。

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