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株価指標の基礎 PBRを考える


株式投資を行う上で、将来業績の見方が重要なのは皆さんもよく認識されていると思いますが、業績が完全に予想できたとしても、それだけではその企業の株価が割安か割高かは分かりません。

適正な株価を見つけるにはバリュエーション(企業の利益・資産などの企業価値評価)指標について理解する事が不可欠となります。

少し株式投資について勉強すると、すぐに株価純資産倍率(PBR)や株価収益率(PER)、配当利回り、などの指標について習うことになると思います。

計算式や使い方については、どこにでも書いてあるのですが、本当はその意味をしっかりと理解しておかなければ、正しく使う事は出来ません。これらの意味を理解する事はとても大切なので、1つ1つ説明して行きたいと思います。

今回は、東京証券取引所がPBR1倍割れの企業について、「さすがにそんな株価のまま何もしないのは経営について問題があるとして」改善要請を出したりしたことから、取り上げられることの多い、PBRについて考えます。


PBRの定義


日本証券業協会が作っている金融・証券用語集を見ると、
PBRは下記のように説明されています(少し要約して書いています)。

純資産から見た「株価の割安性」の指標

株価が直前の本決算期末の「1株当たり純資産」の何倍になっているかを示す。

純資産は、会社の資産のうち株主全体で保有している資産で、仮に会社が活動をやめて(解散して)資産を分けた場合に株主に分配される資産(金額)であるため「解散価値」とも呼ばれています

それを1株当たりで表したのが「1株当たりの純資産」です。

会社の資産と現在の株価との比較であり、PBRが小さいほど株価が割安であることを示します。

他のホームページも見てみましが、どれも純資産を解散価値としています。
つまり、PBR1倍以上であれば、ただちに事業を解散するのに比べると価値があり、PBRが1倍以下だと事業を続ける価値がないかのような説明がなされています。

PBR1倍を過度に強調するのは日本株市場だけ


私は、PBRの様な指標の定義をもう20年以上、調べていなかったので、これらの説明を読んで、正直に言ってかなり驚きました。おそらく海外の投資家も私と同様に驚くと思います。

たしかに私も、1990年代の初め頃PBRという指標を学んだ時には、PBR1倍は解散価格割れという様な事を学んだと思います。ただ、1990年代半ばにはMBAを取得して戻ってきた先輩に、PBR1倍を解散価格割れの意味で使ったところ呆れられ勉強し直したことを思い出しました。

PBR1倍が基準で、それより安いと割安、高いと割高という様な使い方はおそらく日本だけなのではないでしょうか。

結論から言うと、PBR1倍という数字にはあまり意味はなく、PBR1倍割れの会社を買ってすぐに解散しても儲かるとは限りません。

我々が普通に株価を評価する指標は、ゴーイングコンサーン(Going Concern)を前提としています。つまり、企業が将来にわたって持続的に事業を継続するという前提に基づいて考えられています

PBRも同様で、決してこの指標だけ、企業が解散した場合に割高か割安かといった判断に使われる指標というわけではありません

もしそうであればPBRにはPBR=1倍という指標しか意味がなくなり、またそうするにしては計算が粗すぎることになり、何ら意味のない指標になってしまいます。

純資産と解散価格は別物

純資産が解散価値ではないという事は感覚的にもすぐ理解できると思いますので、先に説明してしまいます。

まず、純資産は「資産-負債」ですから、バランスシートに載っている資産の価値が実際の価値を現わしていることが大前提です(会計的に正しくても経済価値として正しいとは限りません)。

元々はしっかり利益を出すために必要と考えて投資した資産でしょうが、今現在はすでに不採算で、将来も不採算であることが続くものであれば、その価格で売却できることはなさそうです。

また、資産に関してはしっかり減損していたとしても、事業を止めようと思うと、従業員に辞めていただく必要があります。その時は通常割増退職金が発生します。

つまり解散価値とは、その様なものを全て考えた上で、実際に解散した時の価値を計算するわけです。

解散した時の価値を計算するのに、これらの調整を行わず、純資産といったざっくりした数字を用いることは考えられません。したがって、純資産を解散価値は異なります。

ではPBRはどう使うのか

PBR=1倍は解散価格割れではないという事はよいとして、ではPBR1倍の意味やPBRの高い低いはどの様に考えるのかについて説明します。

株式投資のバリュエーションを考える時には、多少数字を使った方が簡単なので、四則計算だけは使いたいと思います。本当は数列や微積分を使うところもあるのですが、その辺りは今後も言葉で説明するので、数式自体ではなく、その意味するところを理解するようにしてください。

まずPBRをPERとROEに分解してみます。
PBRはPBR=PER×ROE と表すことが出来ます。
PERやROEはまたそのうち説明しますが、
簡単に言うとPERは成長性が高いほど高く、低いほど低くなります。
ROEは収益性の指標で、高いほど収益性が高く、低いほど収益性は低くなります。
つまり、収益性が高く、成長率も高い企業のPBRは高くなり、
収益性が低く、成長率も低い企業のPBRは低くなります

この時に、先程の解散価値という様な言葉が頭にあると、収益性の部分が赤字か黒字かという事なのかなと思われるかもしれませんが、これはそうではなく、株主資本コストを基準とします。

株主資本コストってなんだか難しくて意味が分からないですよね。。。
これは説明しだすとたいへんで、いろいろな議論が出て来るのですが、株主資本コストとは株式を投資する時に投資家が期待しているリターンと思ってください。

それって、いくらなのって思うと思いますが、平均すると、ざっくり8%かな?と日本では言われています。

ということは、PBR1倍÷ROE8%=PER12.5倍なので、ROEが8%でPERが12.5倍だとPBRが1倍になるわけです。

日本企業のPERは平均すると最近は15~16倍程度のことが多いですが、それでもPERが1桁の会社もあれば、50倍、100倍などという場合もあります。

PERは成長成長率との関係が強いので、ROEが10%でも成長性が低いとPBRは上がらないという関係になったりします。

ROEと成長性の関係についてもう少し説明します。
ROEが株主資本コストを上回っている場合、成長性は高ければ高いほど、PBRは高くなると考えられます。

ところが、ROEが株主資本コストを下回っている場合、成長性は高ければ高い程、PBRは低くなる可能性があります。これは、ROEが株主資本コストをした待っている状態は価値破壊とみなされるので、成長性が高ければ高い程価値破壊のペースが速まると考えるからです。こういう企業のPBRが1倍を割れている事は何ら不思議な事ではありません。

そういう視点で見ると売上・利益が伸びているのに全然株価が上がらない会社がありますよね。そういった会社はROEとの関係で見てみてください。そこに株価が上がらない秘密があります。

ここで、ROEは低く、売上だけがどんどん伸びているのにPBRは高いという企業があると疑問を持たれる方がいると思います。

これは高成長の新興企業などでよく見られます。

なぜこのようなことになるかというと、この様な企業は将来ROEが大幅に改善すると見ているからなのです。PBR、PER、ROEなどは一見すると今期予想や前期の実績から計算されますが、株価は将来のキャッシュフロー(利益でもいいです)から決まります。つまり、今は利益が出ていませんが、このまま売り上げが伸びていくと数年後には大きな利益が出ると想定される場合、将来のROEから割り引いていくと高いPBRが許容できるようになるわけです。

今日の説明は、初心者には少し難しく、逆に分かっている方には、少しは省略し過ぎているかもしれません。

ただ、
1.PBRは1倍だけが意味を持つ指標ではない
2.PBRは収益性と成長性とを合わせて考える指標である

という事をまずは理解してもらえると良いと思います。

また、業種の特性によっても平均的なPBRというものが存在します。これは同業界であれば将来の成長率などは大体同じになるという業界で使われます。

また、過去どのようなレンジでPBRが推移してきた株かという事も確認する場合があります。

使い方も含めてPBRに関してはこれからも様々な視点で議論するかもしれませんが、今回は先ずその基礎的な考え方を説明しました。

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