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キャッシュハングリーな銘柄
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6/19に元お笑いタレントで「億り人」となった個人投資家の井村俊哉氏と対談を行いました。正直に言って私たち機関投資家とは活躍の場が違うので、どんな話になるのかなと思っていましたが、とても優秀で勉強熱心で感動しました。彼は機関投資家の世界でも一流になるなと直感しました。とにかく考え方がシンプルで頭の回転が速い。全て自分のことばで話せているので、何かを見た時の判断が早く的確、不測の事態が起こってもすぐに軌道修正できる人だなと感じました。
花輪さんが対談の内容を軽くメモにまとめてくださっているので、気になる人はこちら!
さて、その中でキャッシュハングリーな会社について少し議論になりました。私は買わない銘柄を決めているという話の中で、例えば、キャッシュハングリーな会社は買わないという話をしました。
ちなみに、キャッシュハングリーな会社というのは売上利益のわりに設備投資が大きく、利益のわりにキャッシュフローが出てこない会社です。
それに対して、井村さんが「世の中がインフレになるとすると資本集約的で設備投資が大きい企業というのは競争力を高めるんじゃないですか?」とおっしゃったわけです。
実はこのキャッシュハングリーとインフレの話は投資の世界ではとても大事なところだと思います。たぶん機関投資家も感覚的には分かっても、投資哲学に紐づいているバリュエーションモデルは変え切れていないと思います。
井村さんのロジックは、このようなものです。
資本集約的なビジネスだと既にある固定資産が競争優位に働く
↓
インフレで設備投資コストが上がるので、保有している固定資産の価値は上がり「掘りが深くなる(参入障壁が上がることで、バフェットがよくこの言葉を使います)」
↓
投資負担が重いので新規参入が減る
↓
価格決定力増す
↓
マージン改善のループが回りやすくなる
さらにいうと、今は投資家が資本効率にうるさいので、利益が見込めない設備投資がやりにくいとなる。そうなるとなおのこと既に設備保有しているところが強くなる。
これはとても面白い視点です。
ちなみに、私の言うキャッシュハングリーな会社の問題点というのは、若いアナリストが間違いやすい所でとても教科書的なのですが、このようなものです。
設備投資が負担が大きいビジネスの会社の売上利益が伸びている(売上利益が伸びているのでとても魅力的に見える)
↓
売上増加が見込まれるので積極的な投資を行う
↓
利益は伸びているが、設備投資が大きいのでキャッシュはかつかつである。さらに売上増加に伴い、売掛金や製品在庫が増加する
↓
売上が伸びれば伸びるほど現金が減る
これって黒字倒産でよくあるパターンですよね。
キャッシュフロー計算書では「営業キャッシュフロー(営業CF)」「投資キャッシュフロー(投資CF)」「財務キャッシュフロー(財務CF)」が示されます。
事業活動で稼いだキャッシュ(営業CF)から、設備投資などによる支出(投資CF)を差し引いたものが、企業が自由に使えるキャッシュ(「フリーキャッシュフロー(フリーCF)」)となるわけですが、このフリーCFが伸びていない会社は、財務リスクが高い訳です。
こういった会社は、売上が何らかの形で落ち込んだり、資金回収が遅れたりするとすぐに行き詰まることになるため、私は出来るだけ投資を避け、アナリストにはPL(損益計算書)だけを見ずにCFを見ろよ!と言っているわけです。
なんだか、両者の意見ともそれっぽいなと思われるかもしれません。
インフレ下においても、キャッシュハングリーな会社が私の言うような問題点がある事は変わらないのですが、設備投資が大きい会社の優位性が高まる事は事実です。また、在庫の部分に関しても、値段が上がっていくものであれば早く売る必要はありません(在庫を恐れて生産を躊躇する事による機械リスクの方が大きい可能性もあります)。
コストは同じなので今日売るより明日売る方が利益率は高まるわけです。また、投資に対する利益率も、値段が下がっていく中では同じ売上高利益率を確保しても、利益の額はデフレ分だけ毎年低下します。そうなると、どおしてもROIC(投下資本利益率)を上げることは難しかったのです。これが、今日より明日の値段が高いという時代になると、同じ売上高利益率をであっても、利益の額はインフレ分だけ毎年増加します。そうなるとROICは簡単に上がります。現金の価値は毎年減価するわけですが、在庫に投資しているのであれば、利益率向上につながる可能性も出てくるわけです。そうなると
Working capital(運転資本:売掛金+在庫-買掛金で計算する通常のビジネスを回していくうえで必要な資金)の考え方も変わってきますよね!
これは、今後とても面白い投資テーマになってくると思います。
8/21発売予定の『世界標準の資産の増やし方: 豊かに生きるための投資の大原則』 (東洋経済新報社)の中でもインフレによって企業の利益率や投資行動がどの様に変わるかについて分かりやすく説明しています。
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