見出し画像

ラジオNIKKEIに出演しました

本日、ラジオNIKKEIのマーケットプレス(9:10~9:30)に出演しました。米国雇用統計、ボラティリティと機関投資家の行動、国内政治、相場急変時の対応など多岐にわたってコメントしました。若干補足を加えた、簡単なメモを作成しました。

8月5日にかけての大荒れの後、株式相場は急速に戻りつつあります。

岸田アナウンサー


そうですね。あれほどの下げももちろん驚いたわけですが、その後の急速な戻しも驚かれた方が多かったのではないかと思います。日本株もそうですが米国株も高値に迫っています。

8月22~24日のジャクソンホール会議、8月28日のNVIDIA、前回ショック要因になった9月初めに発表されるISM製造業指数や雇用統計、9月10日にはハリス副大統領とトランプ元大統領のテレビ討論会など変動要素が多く、S&P500は9月下旬は過去5年連続下落しているなど、季節的には9月までは株式市場全体として不安定な動きが続く可能性が高いのに加えて、急落&急反発を含めて、株式市場のセンチメントの振れが読みづらい中で、急上昇してきたのは意外感がありました。相場の基調が強いと感じています。

米国については、ソフトランディングできそう、との見方が優勢になりつつありますが、本日(21日)、米労働統計局が発表予定の雇用者数の基準改定では、過去分が大幅下方修正されるとの見方があり、警戒されています。
サーム・ルールについては、7月にご自身の認識も伝わりましたが、河北様は米国の雇用については、どの情報を重視されますか?

岸田アナウンサー

米国の経済指標(政策金利を判断する材料となる雇用・物価統計)は、出るたびに一喜一憂している感じですが、ポイントは失業者が増えることで、お金なくなり、消費減退するというサイクルになるかどうかだと思っています。そして、現在は失業者の増加でお金が無くなり消費が減退するような状態にはなっていないという認識です。

失業率の議論は、それが解雇などによる失業率の増加なのか、移民の増加などによるミスマッチによる失業率の増加なのかが重要です。アンマッチであれば、それは時間の経過とともに解消するわけです。

サーム氏がサーム・ルールに当てはまっていると言っているとされていますが、彼自身が7月26日のニュースレターで、「サーム・ルールは現在、労働市場軟化について警鐘を鳴らすメッセージを的確に発しているものの、音量は大き過ぎる」として、労働力に新たに加わる人々の急増で労働市場軟化の度合いが「誇張されている可能性がある」との認識を示しています。

雇用統計は今回の過去分修正もそうですが、振れも大きくいくつかの統計を合わせ技で見ていく必要がありますが、現在の議論を踏まえると、それが本当に消費に影響していくかどうかを特に注視する必要があります。

付け加えると、今晩公表され雇用者数の伸びが下方修正されると話題になっている雇用統計は事業所調査で、サーム・ルールが意識された失業率のデータ(家計調査)は修正対象ではありません。

今の米国景気状況は、強くはないが崩れてはいないという状況という認識です。金利は雇用統計だけでなくインフレ率と合わせて考えなければならないわけですが、インフレ率も過熱はしていないが高止まっている状態なので、現状では慌てて大幅に政策金利を引き下げる状況にはないと考えています。市場がどの程度を織り込んでいるかが問題。

ジャクソンホールではそれほど大胆な発言は出ないのではないかと思っています。

前回のご出演時に、企業の経営者の発言も重視するとおっしゃっていらっしゃいました。
足元、米国では小売り企業の決算発表が相次ぎ、経営者が米国の消費について言及しています。
そうした発言から読み取れる米国の経済動向を、どうご覧になりますか?

岸田アナウンサー

ウォルマートのジョン・レイニー最高財務責任者(CFO)は玩具や家財など「一般商品」の売上高が11四半期ぶりに前年同期比でプラスに転じたと説明。米CNBCのインタビューでは「顧客の消費者心理が一段と悪化しているということはない」とも語っています。

食品など生活必需品だけではなく、高インフレ下で敬遠されがちな非必需品の販売も上向いているのは意外でマーケットはポジティブに反応しました。

ただ、米国の小売り決算を見ていると強弱マチマチなのではないでしょうか。

むしろ私が注目したのは、ダイフク下代博社長の発言で、「北米は昨年度悪かった商業関係や流通関係が回復し、大きな案件が出てきて好調だ。人件費の高騰などで自動化を進める必要が出ている」と言っています。

つまり、小売り流通なども設備投資は落ちておらず、米国企業は中期的に強気の見通しを持っている事が分かります。

小売りの決算は、足もとの話になりがちで、中期的な話ではないので注意が必要です。目先は減速するとしても深刻なものではなく季節調整も含んだあやであると見てよいのではないでしょうか。

雇用の悪化で消費が悪化しているというよりも、リベンジ消費の反動や、コロナ禍で高まった蓄えた貯蓄を使い切った影響が大きいのではないかと思います。つまり雇用の悪化から慌てて利下げする必要もないが、これまではいていた下駄がなくなるので、中立金利に引き下げても良いというのが現在の米国の姿ではないでしょうか。

先週発表された主体別売買動向で、河北様は事業法人の買い越しに注目されていましたね。

岸田アナウンサー

注目したいのは事業法人の5000億の買い越しです。事業法人は7月11日からの相場下落局面で着々と買入れを続けてきましたが、急落局面で買入ペースを上げ合計1.17兆円(7/12の週1800億、7/19の週1300億、7/26の週2000億、8/2の週1400億)の買い越しとなっています。

海外勢の1.3兆円と先物を大幅売り越し、信託が先物と現物を合わせて約4000億買い越しは想定通りでしたが、事業法人がかなりのインパクトで買っていることはポジティブです。この様な買いが入ると下落時のボラティリティを抑えることになります。

日本株は国内での積極的な買い主体が見当たらず、外国人の売買動向が相場の行方を左右する展開が続いていましたが、相場が下がると事業法人が大きく買ってくるとなると、需給の認識が変わる可能性があります。

河北様はご自身の「note」で詳しい相場分析や、機関投資家の動き方などについて解説されていますが、繰り返し出てくるのが、ボラティリティの考え方です。それは何故なのでしょうか?
また個人投資家がボラティリティにうまく対処していくには、どうすれば良いのでしょうか?

岸田アナウンサー

機関投資家の中には年金のように一定のアセットアロケーションを決めてそれに合わせてくる主体と、絶対値としてのリスク目標があって、資産のアロケーションを決めてくる主体があります。

年金のような主体は今回の下落局面でも見られたように、相場が下がれば買いに入り、上がれば売るといった形で常にボラティリティを下げる方向で動きますが、絶対リターンベースで考え、資産ウェイトを決めてくるような主体はボラティリティが上がるとリスク調整でウェイトを下げる形になります。そのためボラティリティはとても大事な指標となります。私はかつての日銀のETF買いもボラティリティを抑える効果があったと考えています。

加えて言うと、これは市場だけでなく個別企業にも当てはまります。一般的には難しいとされているのですが、ボラティリティを下げる方向でコントロールできれば必然的に資本コストが下がり、例えばPERなどの指標も上昇することになります。自社株買いはその金額だけが注目されがちですが、その買い方(下落局面のボラティリティを抑える)によっても、企業価値が変わってくるのと考えています。

相場下落局面で自社株買いを出来た会社とその様な支えがない会社では将来的にバリュエーション格差がつく可能性があると考えています。

ルール上ボラティリティをコントロールしなければならない機関投資家と異なり、個人投資家はボラティリティを味方につけた方がいい。基本的にはフルポジションで相場を貼るのではなく、私は常に戦略的な待機資金を用意する事を勧めていますが、ボラティリティが高い市場では、戦略的な待機資金を厚めに持ち、ここぞというところで買えるようにしている事がポイントです。

ヘッジファンドなどはボラティリティを利用しているというイメージがありましたが、ボラティリティでポジションを小さくしなければならないものもあるということでしょうか?

岸田アナウンサー

相場変動自体のボラティリティを利用するマクロヘッジファンドの投資行動と、各資産のポジションを調整する上でのボラティリティというのは異なります。

これはヘッジファンドだけでなく銀行などの金融機関もそうですが、何かが起こった時の最大損失額を計算する際にボラティリティを用いるので、ボラティリティの高い資産のリスク量は大きくなってしまいます。一般的にボラティリティが上がると、リスク量を一定に抑えるためにその資産のポジションを落とすことが必要になります。

日本では岸田首相が総裁選への不出馬を表明しました。
政治の不透明感が高まったように見えますが、日本株への影響をどうご覧になりますか?

岸田アナウンサー

首相が変わるわけですから、当然政治の不透明感は高まっているといえます。もちろん、総裁選があるわけですから、候補者毎の政策もしっかり見ていかなければならないのは事実です。

ただ、総裁選が終わればすぐに解散総選挙となるでしょうから、選挙=株高という思惑が高まると思います。実際の政策がどうなるかは別にして若手が総裁になった場合には改革への期待が高まるかもしれません。とりあえず目策はネガティブな反応は考えにくいのではないでしょうか。

また為替の方向性(ドル円)についてはどうお考えですか?

岸田アナウンサー

為替の事は分からないというのが大前提ですが、金融政策の方向性だけ見れば円高方向だと思います。また今回の動きの後で、あらたにキャリートレードを行う事は難しいのではないでしょうか。

ただ、内外金利差、購買力平価、労働生産性などを背景とした、ざっくりした構造的円安論は変わっておらず、円安に動き出せば、またそのような議論が展開されると考えています。

河北さんは4月にnoteの中で「相場急変時の対応」という記事を書かれています。その中ではITバブル崩壊とリーマンショックを例として挙げていますが、今回はどうでしょうか?

岸田アナウンサー

私は今回の相場下落とITバブルやリーマンショックでは大きく異なると思っています。

まず、金融システムの問題は起こっていませんし、バリュエーション面でも行き過ぎというほどではないと考えています。

ただ、記事でも書いていますが、相場の急変というのは読みづらく、ITバブルやリーマンショックで私が上手く立ち回れたのは偶然の要素が大きいです。

基本的にはポジションを管理し、相場急変時でも慌てず自分の運用スタンスを再検証しつつも、運用スタイルは維持する事が重要だと考えています。

本日、『世界標準の資産の増やし方』という著書を発行されましたね。
花輪陽子さんとの共著とのことですが、見どころをご紹介頂けますか?

岸田アナウンサー

株式投資家として稼ぐことを専門にやってきた私が、資産運用だけに頼らず、資産を護り育てることの重要さをお伝えする本で、FPとして世界の富裕層を良く知る花輪さんから様々な事例を挙げてもらい、ケーススタディーという形で資産形成の方法を説明しています。

個人投資家向けの投資本ではシンプルな方法を説明したものが多いですが、投資の原則を挙げながら基本となる考え方や、一般的に信じられている手法(長期分散積立)のリスクを説明しています。この様な原則を踏まえていれば、先月末から今月初めに起こったような株式相場の急落にも慌てず対応できたのではないでしょうか。

また、機関投資家としての経験を踏まえて、ファンドの見分け方なども書いていますが、この辺りは機関投資家から見ると不都合な真実でもあるので、他に説明したいる本はないのではないかと思います。


マーケットプレス 前場 ラジオNIKKEI第1 2024/8/21(水)9:10-9:30の20分間で話しています。1週間は、ご視聴いただけます♪

<メンバーシップ募集中です>

掲載されている記事は、個人の見解であり、執筆者が所属する企業の見解などを示すものではなく、証券投資や商品申込み等の勧誘目的で作成したものではありません。

記事の情報は信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その確実性を保証したものではありません。最終的な投資決定は、読者ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。

当コラムの閲覧は、読者の自己責任でなされるものであり、本情報に基づいて被ったいかなる損害についても一切責任を負いません。

なお、記事の内容は、予告なしに変更することがあります。

ここから先は

0字

スタンダードプラン

¥750 / 月
初月無料
このメンバーシップの詳細

いただいたサポートは主に資産運用や経済統計などの情報収集費用に使わせていただきます。