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市場動向の確認と経済ニュースの注目点(7/21~7/27)
株式市場は想定外に大きな下げとなりました。円高がトランプトレードの反動が大きくなっていますが、来週は日米の金融政策も気になります。
今週も市場動向と気になった経済ニュースを解説します。
<マーケットチェック>
日経平均は7月11日に42,224円の史上最高値を更新した後、7月25日まで7日続落し、37,869円と4月26日以来の38,000円割れとなりました。7日続落は2021年10月以来で、1日で1,200円以上も下落したのは2016年6月24日以来ですので、久々に激しい相場でした。
もともと、7月前半の日経平均の急騰は、特に好材料もなく、米国株高に伴う外国人投資家の先物主導の買戻しで多くの投資家が半信半疑でしたが、足元は円高もあり、想定以上の急落となりました。外国人投資家は7月第3週に4週ぶりに売り越し、先物合計では3月最終週以来の大幅売り越しでしたが、足もとは更に先物売りが拡大しているかもしれません。
米大統領選のニュースは、発信がセンセーショナルで市場もそれを極端に織り込み、またその反動が出るという形になりやすいと言えそうです。
相場の物色傾向は極端な動きがでてまたその揺り戻しが起きるという事を繰り返しそうですが、極端な動きに過剰反応しない様に気を付けたいと思います。
株価
まず米国の状況を見てみましょう。現在出ている経済データはソフトランディングを裏付ける様な内容となっています。一方、物価のデータは少し下がりにくくなってきているものもありますし、出て来ている決算にはどちらかというとネガティブに反応するものが多い印象です。ただ、決算などファンダメンタルズの変化がトリガーとなって相場が軟調になっているという印象も受けていません。
トランプトレードが起こっていたころは買いが買いを呼ぶ展開になりかけていましたが、今は逆にトレンドフォロワーたちの売りを呼びそうな雰囲気となっています。ヘッジファンドなどのショートもあるでしょうが、ロングオンリーの売りが下げを主導しているようです。
米国株が主導して世界的に株価が下落していると見ていますが、その悪影響を強く受けているのが日本株です。これは金融政策の支えが期待出来ないことが大きな要因だと考えます。
米国市場では、株が下がることは、利下げの催促となっており、その結果、ソフトランディングする可能性を高め、中小型等のラリーを生んで、指数としては下支え要因があるという状態になっています。
一方、日本株に関しては、日銀はなかなか7月利上げとは言いませんが、続々と出てくる観測報道によって、7月利上げ織り込みはマーケットの混乱の中でもむしろ高まり続けています。マーケットが下げても中央銀行の救済が見込みにくいという意味で日本株市場は世界的にはやや特殊な位置づけにあり、相対的に不利な状態にあると思います。
今週は先週の下げが急だったことや金曜日の米国市場の動きを見ると一旦反発しても良い所ですが、7月30、31日には、米国ではFOMC、日本では日銀の金融政策決定会合が開かれるますし、企業決算も本格化してくるので、こうしたイベントによる影響が大きそうです。
日銀は国債購入減額の詳細を決定する予定ですが、利上げについては見方が割れています。4-6月期の決算発表は、半導体関連株や内需株・中小型株の数字は注目したいと思います。株主総会を終えてコーポレートガバナンス改革に沿ったコーポレート・アクションの広がりに注目する向きもありますが、1Q決算は通常は会社業績予想の上方修正や株主還元発表が多い時期ではありません。
世界的なインフレ鎮静化に中小型株は恩恵を受けやすいので、物色的には大きなローテーションが起こる可能性はあります。ただ、米国大統領選の動向も見極める必要も改めて出て来ていますので、しばらく神経質な展開をイメージしておく必要があるのかもしれません。
金利
日米ともに政策決定会合の内容もそうですが、当局からのメッセージやマーケットの反応に注意したいと思います。特に日銀はリークなのではないかと思われるニュースも散見されるので市場の折り込み具合が難しいと思いますが、議論は概ね下記のような形かなと理解しています。
1.日銀内で「賃金上昇を重視する人」と「消費データを重視する人」に分かれている。データ的には賃金上昇がみられる一方で、足元の消費データは弱々しいので、もう少しデータ観察するかどうかで意見が分かれている。
2.「政府」と「日銀」では、政府内でも意見は割れているものの、政府の主流派は円安を問題視しており、日銀に利上げさせたいと考えている。一方、日銀は最近の弱々しい消費データを見て、ここで景気の腰を折っては元の木阿弥なので、「もう少しデータ見ても良いだろう」という見方がある。
3.日銀はマーケットコンセンサスにサプライズを与えたくないとという意識もあると考えられる。黒田総裁の時はサプライズが多かったわけですが、植田総裁はコニュニケーションをとりながら、市場にサプライズを与えない方針のように見えます。債券減額幅に関して市場を意識している様に利上げに関してもある程度コンセンサスを形成してから実施したいと考えている可能性もあります。現時点でもマーケットの7月利上げの織り込みは、多少進んでいるものの、不十分な状態なので、織り込みを徐々に進めていきたいと考えている可能性があります。
株式市場から見ていても、今回利上げを行って出尽くし感を演出するのか、利上げの方向性を示しながら状況を見極めていくのでどの様に反応するのかは見方が割れていると思います。
もちろん、どの方面から見ても将来的な利上げの可能性は意識したものになっていますので、それがいつになるかという違いのみが問題となっているわけです。
為替
ここでは継続して主張していますが、米国の政策金利は引き下げ方向、日銀が金融引き締め方向に動いていることは変わりないので、2022年以降の構図が金融政策的には一気に逆転していきそうです。これは為替だけの話ではありませんが、ここだけみると為替に関しては円安トレンドの反転。少なくとも円安の勢いが鈍りそうな状況です。また、為替に関しては明確な価格決定理論は存在しないと私は理解しており、その水準は不安定であると考えています。
<注目したニュース記事>
7/22日経 株式非公開の時代に備える
<要約>
海外の巨大投資ファンドのトップたちが続々と日本を訪れ、企業買収に意欲を示しています。特に東芝や日本KFCホールディングスのように、ファンドの資金を得て上場廃止となる企業が増えています。アメリカやヨーロッパのように、ファンド主導で株式非公開化の流れが強まると、日本の金融市場にも影響が出ると予想されます。
大手ファンドは日本で巨額買収へ
米大手プライベートエクイティ(PE)ファンドのカーライルのCEO、ハービー・シュワルツ氏は「日本での企業投資ファンドのリターンは驚異的だ」と述べ、日本KFCの株式公開買い付け(TOB)を決定しました。ブラックストーンやKKRなどの巨大PEファンドも円安を利用して日本での大型投資に動いています。
日本でも株式非公開化が進む
日本ではファンド資金による経営陣が参加する買収(MBO)が増えており、2023年度には18社がMBOを発表しました。これにより、企業の株式非公開化が進むと予想されます。非上場株の投資リターンは上場株に比べて高く、年金基金や大学ファンドはPEファンドに資金を投じています。
富裕層の動き
野村証券は個人投資家向けにカーライルのPEファンド商品を販売し、230億円を集めました。日本の富裕層も非公開市場への投資を強化しており、その資産は増加傾向にあります。
ブラックロックの戦略
世界最大の資産運用会社であるブラックロックは、英国の調査会社プレキンを約5200億円で買収し、未上場市場のデータベースを整備する計画です。これにより、プライベート市場の投資家を増やす狙いがあります。
日本の非公開市場の現状
日本の非公開市場はまだ小さく、インフラやデータベースも不十分です。ユニコーン企業が育たない要因の一つはここにあります。日経平均株価は史上最高値を超えていますが、新たな投資の潮流はプライベート市場にあるとされています。
<河北コメント>
8/21に発売になる私の著書でも、世界の資産運用で起こっている4つの変化として「低流動性が超過リターンの源泉」となるという事を説明しています。日本ではこのマーケットがまだ未成熟ですが、今後この分野が充実していくことが求められます。
ただ、知識がなく情報が不足しがちな個人が投資するのは難しい世界でもあるので、ベンチャー投資法人などのスキームを使ってプロの目で未公開企業を峻別、 小口分散可能な投資スキームが整備されることが必要です。
7/26日経 東南ア貿易、日本のシェア20年で半減
<要約>
ASEAN(東南アジア諸国連合)は7月25日、ラオスのビエンチャンで外相会議を開催し、日中韓米も参加する関連会議を27日まで実施します。日本は政府開発援助(ODA)を通じてASEANと信頼を築いてきましたが、過去20年で貿易シェアが半減し、経済的な影響力が低下しています。
日ASEAN外相会議
ASEAN外相会議に出席している上川外相は23日の記者会見で「地域や世界の平和と安定のために貢献する将来を目指す」と述べました。また、中国の海洋進出を念頭に、公海における航行の自由など国連海洋法条約の順守を呼びかける予定です。地域情勢としてミャンマー問題も議論される見込みです。
日本の経済的影響力の低下
2023年は日ASEANが正式な協力関係を結んでから50年の節目であり、12月に東京で特別首脳会議が開催され、「共創」を新たな目標として掲げました。しかし、日本のASEANにおける貿易シェアは2003年の13.6%から2023年には6.7%に減少しました。一方で、中国のシェアは7.3%から19.7%に増加しています。
ASEANの貿易額に占める日本のシェアの減少は、日本の経済的影響力の低下を意味しています。また、ASEAN有識者への調査では、日本を「信頼できる」と回答した人は58.9%と最も高かったものの、経済的な影響力では中国が最も高く、米国14.3%、日本3.7%という結果でした。
日本の投資と新分野への挑戦
ASEANの域内での直接投資額は2023年に過去最高となりましたが、日本からの投資は前年から4割減少し、米中に次ぐ3位にとどまりました。日本企業の新分野への投資が積極的でないことが指摘されており、特にタイでは中国の電気自動車(EV)の普及が進んでいます。
タイのセター首相は、日本企業に対して新分野への投資を促し、税制優遇措置などを講じています。ASEAN各国は電力需要の急増と環境対策に悩んでおり、脱炭素技術の導入や気候変動対策が今後の日ASEAN協力の柱となる可能性があります。
防衛装備品の提供と安全保障協力
日本は経済支援だけでなく、2023年度から同志国に防衛装備品などを無償で提供する「政府安全保障能力強化支援(OSA)」を創設しました。フィリピンのように日米との安保協力を深める国もありますが、ASEAN加盟国間では「米中対立に巻き込まれたくない」という意見も根強いです。日本は安保を前面に出すだけでなく、経済力を高める努力も必要です。
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