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就活前に読みたい人的資本の開示
大型連休後「4月に入社した新人がもう辞めた」といった話題がニュースで報じられています。新入社員が「超早期」に退職してしまうのは企業にとっても驚きであり、採用コストも考えると大きな損失です。
辞めていく新入社員にとっても、人生の経験とも言えますが、やはり時間ロスも大きいと思います。
この様なお互いのミスマッチによるロスをどうしたら避けられるか、企業側ではなく新人の立場から考えてみました。
自分の志向に合う企業と出会い、マッチするかどうかを見極めるためには、企業への理解が必要です。
自分が志望する企業のことはある程度、調べると思うのですが、1つの企業を調べたからと言って、それが良い企業かどうかは判断できるものではありません。
企業というものを理解するためには、まずいくつかの企業を調べてみて、それをベンチマーク(基準)として、自分が志望する企業がベンチマークと比較してどうかという様にして見ていくと、自分の志望する企業の特徴が分かりやすくなりますし、調べるポイントも分かってきます。
4月にも統合報告書のことについて書きましたが、就職活動を始める前に、まず統合報告書を1冊読み込んでみると企業の見方の基準が出来るのではないかと思います。
今回は、早期退職に繋がってしまう人と会社のミスマッチをテーマとしたいと思います。
私がぜひとも読んで欲しいのは、人的資本に関する開示の部分です。
統合報告書がない会社も上場企業であれば有価証券報告書は出しています。
志望する企業が統合報告書を出していなくても、2022年11月には金融庁が、有報の記載事項を改正し、2023年3月期から、人材育成方針や社内環境整備方針、女性管理職比率など、人的資本に関する情報開示を義務化しています。
日本は生産年齢人口が減少していくので、深刻な人手不足の時代となるため、人材にどの様な投資を行っているかは投資家から見ても重要なのですが、就職活動を行っている学生の皆さんからすると、就職後どの様な投資を行ってもらえるのかを知る事が出来る、大きな材料となるのです。
最近の意欲の溢れる学生は、「若いうちから活躍できる」「昭和のカルチャーが残る大企業より、若いベンチャー企業」という人が増えていました。
しかし、大企業も人的資本経営の重要さや、若手に活躍の機会を与える事の重要性に気付く会社が増え、カルチャー変革に熱心に取り組み事例も出て来ています。そのような会社は外に対しても取組みを熱心に説明しようとしています。
課題が書かれている企業が良い
どの様な企業でも、何らかの問題はあり課題はあります。その課題を認識している企業は改善が進みます。一方、しっかり出来ていますというだけで具体的な課題が示されていない会社は変わらない。あるいは変わったとしても変化は遅いと思った方がいいと思います。
学生のみなさんは、教科書に書いてあることを学ぶことに慣れているかもしれませんが、社会に出ると表面に書かれている事の裏を読みに行くことも大切になります。
少し例を見てみましょう
これは北國フィナンシャルの統合報告書です。
これを見ると、自分の職場を推奨できる人は8.4%にすぎず、なんと55%の人が批判的に捉えている。
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これは一見すると酷い数字ですね。
でも、これを酷いと捉えたらだめだと私は思います。こんなに都合の悪いことを開示する会社なんだ!
すごく前向きで真面目な会社だ!と私は思いました。
そして、内容を読んでいくと、2022年1月の調査ではこの数字がもっと酷く、推奨者は6.6%、批判的に見ている人は59%もいた。つまり、まだ数値は低いですが、改善の努力をしており、いろいろと悪戦苦闘しているわけです。
私は、日本企業は問題点が分かれば解決していけると思っています。一方、問題を認識していない、隠している、自慢話だけしている企業は改善出来ません。
欲しい人材を明確にしている会社
もちろん、悪いことを開示するだけが良い会社というわけではありません。
デンソーは必要とされる人材の重点項目を明確に示しています。
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世界の急速な電気自動車(EV)シフトという大きな市場の変化があり、事業ポートフォリオを変革するための「人財ポートフォリオ」を「経営のプロ」「領域のプロ」「多彩なプロ」の3つの切り口説明し明確なKPIを置いています。
このように目標が明確にあれば、入社後も自分がその企業が将来生み出そうとしている「価値」のなかで活躍できるかという視点から考えることが出来ますし、明確な成長を意識できるのではないでしょうか。
こういったものがあると、入社する段階でもミスマッチが起こりにくいですよね。
給与を詳細に示している会社もある
大胆にも、正社員の給与レンジとその推移を詳細に公開している会社もあります。
自分の時もそうでしたが、初任給と数年上の先輩の人の給与、生涯賃金に関する噂くらいしか知らない場合が多いのではないでしょうか。
でもカプコンの統合報告書では詳細な開示を行っており、積極的な賃上げの結果、年間給与600万円以下、特に400万〜600万円以下の正社員の割合が2019年3月期と比べると激減したことを数字で開示しています。従業員向けの株式報酬制度の導入も始めています。
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カプコンは、ワークエンゲージメント(仕事への熱意・活力など)の開示も積極的です。
従業員アンケート結果では、「今の会社で働くことは、自分の人生にとってプラスになっている」に「当てはまる」が85.6%、「仕事で必要なことであれば、 自分の役割を超えて仕事をしている」に「当てはまる」が76%。
なんだか、賃金だけでなく職場の雰囲気も良さそうですね。
ダイバーシティに関しても積極的に推進している事が分かります。この様に会社の状況が定量的に示してあると思っていたのと違うという可能性が減りますね。
グローバルでの違いをしっかり把握できている会社
グローバルで事業を展開している栗田工業の説明もとても充実しています。人材戦略でしっかりとした外部に開示できるKPIを持っていることに加えて、地域ごとに従業員エンゲージメントスコアを出しその違いを開示しています。
日本人のワークエンゲージメントの低さが取り上げられがちですが、この様に地域特性を踏まえて対応すると、単にスコアの低さを嘆くのではなく、しっかりした対応を取る事が出来そうです。
海外で仕事をしてみたいと思う方であれば、この様に海外の文化の違いなども含めて客観的に理解しようとしている会社は信頼できますね。
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開示から企業としてのクォリティの高さが分かる
例えば、双日の開示はとても充実しています。どの様な人材を必要としているのか、それに向かってどの様な目標を掲げ実現して行っているのかが明確です。
ダイバーシティや働き方に関しても具体的なイメージが出来そうですね。
外に向かってしっかりと開示できるという事は、内部でも十分な議論を行っているという事を示しています。この様な具体的で詳細な開示が出来る会社は、内部でも分かりやすい説明が出来ている可能性が高く、仕事の評価もな納得しやすいものになっている事が想像できます。
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この様な取組みを踏まえて、就職活動を先の企業を見て先輩たちの様子を見ると、これまでの見方と変わってくると思いませんか?
企業がありたい姿に対して、遂行能力や人材ポートフォリオなどの現状がどの様になっているのか。そのギャップを埋める作業を経営戦略として盛り込んでいるのか。
自分自身が会社から必要とされ、成長できる環境にあるという事は大変重要な事です。単に労働環境や条件だけでなく、入社後のミスマッチを避けるカギになるのではないでしょうか。
私は株式投資家として企業の人材戦略をたいへん重視しています。これは、企業の人材戦略は、今現在のビジネスだけでなく、企業が将来にわたって生み出す利益の源泉となるからです。
就職活動されるみなさんは、これから長く付き合うことになる可能性がある会社の人材戦略がどの様になっているのか、就活前にしっかり理解しておくとよいと思います。
そして、自分が志望する会社を理解するために、いくつか人材戦略に関する開示の良い企業のレポートを読んでみて、企業の人材戦略に関する相場観を身に付けると良いのではないでしょうか。
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