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【速報】フランスで何が起こっているの?
昨日、「市場動向の確認と経済ニュースの注目点」の中で懸念を述べていましたが、今日のマーケットが大きく下落しているので、少し解説を加えます。ちなみに私は欧州政治の専門家ではないので、詳しいことはご自分で調べてみてください。私は日本株マネージャーとして現時点で観察できている状況についてです。
欧州はパニックになっている印象で、フランスはCAC大きく下落、仏独の利回り格差も週間で過去最大の29bpsも拡大していますし、ユーロは対ドルで下落しました。足元では金融システムに対する懸念も発生している様で、MSCI France Financials indexは週間で-11.5%の下落となっています。
WSJの記事では2022年に英国でリズ・トラスが首相就任した際の混乱を想起させると解説しています。極右政党誕生による放漫財政によって市場の信頼を失う可能性が懸念されているわけです。
ちなみに2023年のフランスの財政赤字の対GDP比率は5.5%、公的債務残高の対GDP比率が110.6%と、政府見通しの同4.9%、同109.7%をやや上回っています。財政支援の縮小・打ち切りにより、歳出の対GDP比率は前年と比べて低下しましたが、エネルギー危機対応の家計・企業支援の一部が継続していることから、コロナ危機以前と比べて高止まりしています。
2023年の成長率は実質で+0.9%、名目で+6.2%と比較的底堅かったのですが、危機時対応で導入した減税措置が継続しているため、税収が伸び悩み、歳入の対GDP比率が2011年以来の低水準にとどまったことも財政に響いています。こうした要因は2024年以降も継続することに加え、政府の成長率見通しの想定が楽観的であるため(2024年の政府見通しは財政計画作成時に+1.4%、現在は+1.0%に下方修正、コンセンサス予想は+0.7%)、政府見通し対比で財政赤字の膨張が続く公算が大きいと考えられています。
EU加盟国には「GDP対比で財政赤字-3%以内、債務残高60%以内」のルールがあり、これが新型コロナ中に全面適用停止していたものを2024年から適用を再開することでフランスは厳しい状況になっています。このルールは本来よりも緩和的な内容で運用を再開されるのですが、それを踏まえてもフランスの状況は厳しかったということができると言えます。
そうなるとこれはフランスだけの問題ではなく当然、他の国も厳しい可能性があります。(ユーロ圏で最も公的債務残高のGDP比が高いのはギリシャで次がイタリア、フランスは3位です)
フランスの計画では2027年にはGDP対比で財政赤字が-3%以内になるとしていますが、これは経済成長の前提が甘すぎると考えられており、欧州委員会が是正手続き(過剰赤字手続き)の開始を勧告する可能性があると考えられています。
マクロン大統領は本来、教育費や国防費の拡大を公約としていたため、緊縮的な財政は彼の公約に反する内容ですが、このEU圏のルールを無視することができず、しぶしぶ歳出削減を進めています。
ユーロはこの様な硬直的なルールのために過去何度も危機に追い込まれています。
特にその影響が出たのは年金改革法案で、受給年齢を62から64歳に引き上げることを2023年に決定しました。この時には「単に働きたくない」というフランス人の国民感情と共に、議会で過半数を持っていないマクロン大統領は議会の採決を迂回するような手法(憲法49条3項)を取ったため、すさまじい抗議活動につながりました。
そんな状況下、マクロン大統領の支持率は大幅に低下するしていたのですが、タイミング悪くS&Pが「AA」から「AA-」にフランス国債は格下げ、これによりマクロン大統領は「財政緊縮し、支持率を更に低下させるか」、「財政緊縮を先送りし、さらなる格下げや、EUから財政規律違反を問われるか」の二択を迫られることになってしまったわけです。
過去のフランスの格下げ局面
2012~13年にフランス国債がAAAを失った際は、非居住者の国債保有割合がむしろ増加しました。当時は欧州債務危機の最中と利下げ余地が枯渇しつつある状況下で、域内の安全資産であるドイツ国債の利回り低下が進んだことで、フランス国債にも利回りを求める海外資金の一部が流入したためです。ただ、今回は債務危機の沈静化でコア国・周辺国間のスプレッドが縮小し、インフレ抑制を目指した利上げで各国の利回りが揃って上昇したので、格下げ時に同様の資金フローは期待できないと見られています。
これまで内閣不信任案は上の61議席を占める中道右派の共和党の反対によって成立してこなかった経緯がありますが、これが国債格下げによってマクロン大統領の批判側に回り、欧州議会選挙で大敗する場合、勢いを強めた野党によって内閣不信任案が可決する可能性が指摘されていました。
その様な状況下で行われた欧州議会選挙の結果、極右政党であるRNが大きく議席を伸ばし、マクロン大統領の倍の大差でRenaissanceを破る大勝となりました。これによりマクロン大統領の議会運営は非常に困難な状況となり、下院を解散し、6月30日に初回投票、7月7日に決戦投票を行うことになったわけです。
欧州選挙の結果をみれば、極右政党誕生は確実かのようにみえますが、フランスの下院選挙は2回投票制となっており、これが過去には極右・極左には不利に働いてきました。
内政に関係の深い、下院選挙には国民がより真剣に中道の政党を選ぶとも言われています。過去の例を踏まえれば極右政党はEU議会選挙の7割弱程度しか獲得することができないという見方もあります。
例えば2019年にはRNは欧州議会選で529万票を獲得しましたが、3年後の下院選挙では359万票に留まりました。今回のEU議会選挙では777万票を獲得していますが、上の計算をそのまま適用すると530万票弱になるの計算です。
2022年の選挙ではトップ政党は800万票、2017年は783万票あまりを獲得しています。それに比べると計算上はまだ下にあるという事です。
現在出ている議席数予想ではRNが200議席台前半~中盤に留まるとの予想が大勢を占めています。過半数は289議席ですので、極右政党が過半数というシナリオは何とか避けられそうです。ただ、議席の予想はかなり誤差が大きいようで、予断を許さない状況とは言えまし、そもそも与党連合が第2回投票に進めず、右派対左派の一騎打ちになる可能性もあり得るわけです。
仮に薄氷で政権に踏みとどまるシナリオの場合でもマクロン大統領が非常に困難な議会運営を迫られることは必至です。極右政党が首相を指名するか、その他連合で組閣するシナリオがありますが、そのどちらのシナリオの場合でもGDP対比での負債比率の減少は合意困難と予想されます。これによってドイツ国債対比でのスプレッドの拡大は縮小せず、ユーロ不安がくすぶることになりそうです。しばらくは、この問題に付き合わなければならないかもしれません。
ただ、この様な局面で株式市場で何が起こって来たのか、過去の遡って見ていただければ、今後数週間で私たちが取るべき戦略は見えて来るのではないでしょうか!
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