てのひらのぬくもり
「おはようございまーす」
7月14日午前11時、職場の厨房にカワボが響き渡った。カワボとは可愛いボイスの略で、早い話が女子だ。
「はじめまして。7月から新入社員のフォローアップを担当することになりました、カワボ(仮名)です」
どう見てもまだ20代だが、実は本部社員。アルバイト時代も含めれば6~7年かそれ以上のキャリアを持つ、それなりに偉い人だ。
「今日は当方さんの様子を見に来ました」
その一言でドキッとした。カワボは私だけの為に来た。わざわざ本部から電車で45分もかけて私に会いに来てくれたのである(※捉え方の問題)。
「本当は8日の歓迎会で会う予定だったんですけど、当方さんがコロナに感染して来られなくなったって聞いたので」
「すみません参加できなくて」
「イヤ謝られてもw 体調不良は仕方ないことですから」
まさか新入社員歓迎会の席にカワボも居たとは。元々乗り気ではなかったが、そういうことなら感染せずに参加したかったと後悔。ただ、こうして女子と笑顔を交えて会話できるだけでも満足である。
気分が良くなったところで私は調理を続行、カワボがその様子を見ながら随時指摘やアドバイスを入れる。しかし、実は彼女、厳しかった。結構細かいところまで突いてくる。それでも私は嫌な気にはならなかった。彼女の言うことは常に正論であり、駄目な理由も丁寧に説明してくれるから腑に落ちる。加えて、ちゃんと出来た時は褒めてくれる。飴と鞭の使い分けが絶妙。
そして、嫌にならない理由がもう一つ。
(※変態注意報発令。直ちに避難して下さい)
「ホラ当方さん、あっちの鍋をかき混ぜて!」
カワボはその指示を、私の肩をポンポンと叩きながら言ってくれた。私に気付いてもらう為に肩を叩いただけなのだろうが、それでもドキドキしてしまう。16年も社会人をやっていれば分かるのだが、仕事中に女性の手が男性に触れることはほぼ無い(逆も然り)。それを躊躇なく行うカワボはかなり珍しいタイプである。その後も指示を出す度に肩や背中をポンポンしてくれた。異性に触られることに慣れていない私はときめくしか無かった。
***
肩くらいで何を大袈裟な……と思うかもしれない。実は肩だけでは無かったのである。4日後の7月18日、私ともう一人の男性新入社員の二人のみで研修を受けることになったのだが、その講師がカワボだった。まさかもう再会することになるとは。どれだけ私を気にかけてくれているのか(※違います)。
この日の研修内容は食材のパン粉付け。詳しくは書けないが、両手の細かい動きや力加減が重要となる。その際にカワボは、食材の押さえ方や手の形などを私の手を触りながら教えてくれたのである。それも何度も。
ほぼ握手会じゃん。
女子の手の温もりを感じたのは何年ぶりだろうか。ぶっちゃけこの日もカワボはかなり厳しかったのだが、その温もりだけで全てを素直に受け入れられる程にはときめいた。
――強制終了――
あとがき
芋子「今回は問題作でしたねえ……中学生の作文じゃないんだから」
小野「……ま、まあ、許してやれよ。学生時代も含めて38年間ろくに女子との触れ合いも無く生きて来た童貞にとっては、異性に触られるだけでもドキッとしてしまうものなんだよ」
芋子「男子の皆さんはこんな大人になっちゃダメですよ。学生である今のうちに女子としっかり接して下さいね」
小野「俺はジャンプ+で連載中の漫画『トマトイプーのリコピン』のブヒ郎君の話(+113話)を思い出したよ」
小野「で、コメント欄には読者からのこんなコメントがあった」
芋子「それ当方さんじゃないですか。閉鎖的な学生時代で女性と接する経験値を積めなかった人間って」
小野「そもそも高校を中退しているからね」
芋子「だ・か・ら、何度も言いますけど男子の皆さん、学生の今が最後のチャンスなんですよ。毎日学校に行けば普通に女子がたくさん居ること自体が貴重なんですからね! 今のうちに何かしらのアクションを起こさないとマジで将来詰みますよ!」
小野「当たり前じゃねえからな。当たり前じゃねえからなこの状況! いつか誰かが何とかしてくれる、そんなことねえからな!(©加藤浩次)」
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