RYTHEMという女性デュオ……弱い心に寄り添ってくれた優しい音楽
昨今、J-POPは多種多様を極めている。
ミスチルやサザン等の30年以上歌い続けるレジェンドを始め、AKBや乃木坂、EXILE、ジャニーズ系のテレビで見ない日はないメジャー級、YOASOBI、ずとまよ等のネットで若年層に支持されるパターン、果ては声優、アニソンからボカロ系、VTuberまで、枚挙に暇がない。
しかし、ここまで多様化すると好みも十人十色になり、自分の好きな音楽が必ずしも他者に受け入れられるとは限らなくなる。こだわりの強い人ほど、全く興味のないジャンルの音楽は聴くことすら苦痛になるとも言われている。
そして私も10数年前、友人にRYTHEM(リズム)の曲を勧め、「自分には合わない」ときっぱり言われてしまった過去を持つ。
2003年の結成当時、RYTHEMの2人はまだ高校3年生だった。初期の楽曲は、大人になる前の純真無垢な心がそのまま楽曲に表れているかのような心地よさがあった。それは歌詞やメロディーのみならず、YUIとYUKAの歌声、特に2人の絶妙なハーモニーがそう感じさせた。
♪ハルモニア(2003)
デビュー曲『ハルモニア』は7万枚超という新人としては異例の売上枚数を記録した(オリコン最高29位)。EDに起用したアニメ『NARUTO』の効果も少なからずあったことは否定しないが、この曲を今でも覚えている、逆にRYTHEMと言えばこの曲しか知らない人も多いだろう。
この曲の歌詞を見ても分かる通り、初期は「自然」のワードを多用し、「夢」や「幻想的」な世界を紡ぐ楽曲が多い。そこに癒しのメロディーと2人のハーモニーが加わることで「優しい世界」が完成する。
♪一人旅シャラルラン(2004)
そんなファンタジー溢れる楽曲の中でも特に私が好きなのは『一人旅シャラルラン』である。2004年と言えば高校中退後の暗黒期を経てFランク大学に進学したばかりで、勉強に人間関係に絶望していた時期だった。そんな弱い心に優しく寄り添ってくれたのである。「励まされた」というよりは「寄り添ってくれた」の方が正しい。社会人になってからも落ち込む度に繰り返し聴いていた思い出の曲である。
その後は『ホウキ雲』でオリコン最高12位にまで上り詰めたり、アニメのみならずドラマや情報番組の主題歌にも幾度となく起用されるなど、世間がRYTHEMの音楽を欲している感覚は確実にあった。その一方で、前述の通り友人に勧めても反応は薄かった。心の弱い人には深く刺さる音楽も、それ以外の人にとっては必ずしもそうなるとは限らなかった。
♪桜唄 ♪蛍火(共に2007)
2007年、RYTHEMに転機が訪れる。春に『桜唄』、夏に『蛍火』のリリースである。「桜」「蛍」と自然ワードは健在なのだが、それまでのファンタジー路線とは一線を画し、歌詞に垣間見えるのは現実世界の「恋愛」。それも無理はない。高校生だった結成時から4年も経過しており、2人は大学生。楽曲に変化が訪れるのは必然だったのかもしれない。
♪Bitter & Sweet(2007)
同じ年の11月、『Bitter & Sweet』という曲を配信限定でリリースしているのだが、こちらはもう初期のテイストを完全にかき消した「リアルな恋愛」である。MVは役者を多数投入し初のドラマ仕立てにするなどこれまでとは気合いの入れ方が違うのだが、結果的に現実世界の歌であることを明確にしてしまった。というか、そもそもYUKAの実話を基にしている。
ただ、これは決して悪い変化ではない。ファンタジー路線からリアル恋愛路線に移り変わる“過渡期”にリリースした2007年のこの3曲は、個人的にRYTHEM全曲の中でもベスト4(もう1曲は『一人旅シャラルラン』)に入る名曲だと思う。世間的にも配信1位を獲得した『Bitter & Sweet』をきっかけに「同世代の女の子たちに聴いてもらえる」(YUIのTwitterより)ようになるなど、前向きな良い変化であると当時は感じていた。
♪アイシカタ(2008) ♪ツナイデテ(2009)
大学卒業間近にリリースした『アイシカタ』と、卒業後の『ツナイデテ』。この頃にはもう完全に“大人の曲”になっていた。前者は「ゆかへの想いを書いた楽曲」(YUI談)ということで本人としても思い入れの強さが違う。後者は「生きること、逝きること、壮大なテーマに挑みながら作りました」(2人談)。
RYTHEMのテイストの変化は、高校生から大学を経て大人になるまでのYUIとYUKAの“成長”がそのまま楽曲に表れていたということである。それをリアルタイムで追いかけられたのはとても貴重な経験だと思う。
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しかし、その一年後には無情にも“解散”が発表された。
2011年2月27日、RYTHEMは幕を閉じた。YUIとYUKAは“Neat's”、“yucat”と名を変え、各々のソロ活動が始まった。両者の音楽は方向性が違った。ただそれが「やりたい音楽」で、伸び伸びと歌っていることは確かに受け取れた。
しかし、未だに弱いままの私の心はどこかで“RYTHEMの音楽”を求めていた。ファンタジー路線もリアル恋愛路線も、いずれの曲も総じて私の心に寄り添ってくれたのは、YUIとYUKAの織り成す優しいハーモニーだけは8年間変わらなかったからなのだと、無情にも解散してから気付くのだった。
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再び異変が訪れたのは2018年だった。“Neat's”が本名の“新津由衣”名義となり、楽曲にも変化が表れ始めたのである。
♪月世界レター/新津由衣(2018)
♪『ねぇ見て、今夜は星が綺麗だ。』/新津由衣(2019)
「月」に「星」、その後も「アンドロメダ」「菜の花」と、RYTHEM時代を彷彿とさせる自然ワードを再び多用するようになった新津由衣。
一方の“yucat”は10年間、一貫してゴシック系、クール系を歌い続け、独自の世界を築き上げてきた。ファンタジー世界と言う意味ではRYTHEMに通ずるものも無いとは言えなかった。クール系のRYTHEMとでも言うべきか。
♪暴走マシーン/yucat(2012)
♪レプリカパプリカ/yucat(2016)
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それは奇跡だった。解散から10年、2021年5月21日。RYTHEMは再結成、再始動となった。各々のやりたい音楽を続けながらも、楽曲のどこかにRYTHEMの面影を残していた二人は、10年の時を経て再び交わったのである。
新たに開設されたYouTubeチャンネル『RYTHEMのハモり便』にて、1年以上かけてRYTHEM時代のほぼ全曲を生歌披露。蘇ったYUIとYUKAのハーモニー。それを待ちわびていた多くのファンが居ることを、1.7万人を超えるチャンネル登録者数が証明してくれた。
活動もYouTubeに留まらず、6月に配信ライブを終え、12月にはRYTHEM、新津由衣、yucatの3名義によるホールツアー、そして2023年5月21日にデビュー20周年記念ライブの開催も決定。ひいては新曲入りのベストアルバムのリリースも予定されている。解散してから10年後にここまで大きく動き出す音楽グループも珍しいのでは無いだろうか。
自分のまわりの人々には受け入れてもらえなかったが、世の中にはこんなにも沢山の人がRYTHEMを求めていた。10年の時を経てそれに気付けた。私は間違っていなかった。
再始動した現在も尚、彼女たちを知らない人はまだまだ多いだろう。弱い心に優しく寄り添ってくれるRYTHEMの音楽が永遠に語り継がれることを切に願い、ここに記事を残す。