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【ショートショート】真実の愛

彼女が失踪してもうすぐ2年になる。警察は、恋人である私をまだ容疑者から外していない。まあ、好きにすればいい。

社長令嬢だった彼女。それに比べ私は平凡な大学生。テレビや週刊誌が飛び付きたくなるのも頷ける。失踪がわかった当初は、毎日のようにメディアに晒された。

お金目当ての誘拐。快楽目的の殺人。メディアとは、本当に好き勝手にドラマをつくる。彼らに、いったい何がわかるというのか。

警察の捜査なんて杜撰なものだ。私のことを疑って取り調べをする暇があるなら、早く彼女を探してほしいものだ。


私は愛している。大きな瞳、きれいな黒髪、凛とした表情、信念を曲げない生き方。そのどれもを愛している。

捜索してるのかも怪しい警察など、すでに当てにしていない。私は誰に頼らずとも捜索を続けた。

朝から街に出てビラ配り。どんな情報でも集めた。まるで彼女が死んでるのを認めるようで嫌だったが、山の捜索もひとりでした。

最近はメディアもほとんど寄ってこない。たまに思い出したかのように週刊誌の記者が取材に来る程度だ。

私の写真が週刊誌に載るたびに、私は喜んだ。どんなカタチでも良い、目立てば良いのだ。

彼女の家族も、そんな私を認めてくれたようだ。ビラ配りや山狩りの人員、資金援助を買って出てくれた。

そうなると、お金目当ての犯行など、再び週刊誌が騒ぎ立てる。それでも良い、どんどん私を取材したらいい。目立てばそれで良い。

私は本当にお金はどうでもいい。じっさい、集まった資金は全て捜索に当てた。悲劇のヒロインでいい、私は捜索活動を続けた。






「見つかるはずないのにね。」





男は、鏡に映る自分に話しかける。いつ見ても君はキレイだ。大きな瞳、きれいな黒髪、凛とした表情。とても、とてもキレイだよ。


「悲劇のヒロイン。そんな君もステキだよ。次はどの週刊誌に載れるかな?おめかししなくっちゃ。楽しみだね。」



足元には、恋人だったものが転がっていた。

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