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【男】カッコいい男の条件。
ウバといいます。
訪ねていただきありがとうございます。
カッコいい男の条件ってなんだろう?そんなことをたまに考えます。カッコいい男になりたいなんて思ってるくせに、そもそもカッコいい男の条件を知らないんだなと笑えます。
◇
入院していた部屋は4人部屋だった。私は廊下側のベッドで1ヶ月ほど過ごした。向かいのベッドは入れ替わりが激しく1〜3日ほどで患者が変わっていった。
カーテンを挟んだだけの隣のベッドには気管カニューレを挿入した患者さんが入院しており、おそらくは60代後半から70代前半だろうおじさんだった。
私が入院する前から居て、私が退院するまで一緒だったが話したことはほとんどない。私が退院する日にひとこと挨拶した程度だ。
彼は1日に数回の喀痰吸引を必要とする人だった。喀痰吸引とは気管カニューレ内に溜まった痰などを器具を用いて体外に吸い出す行為である。
喀痰吸引は苦痛を伴う行為であり、される側の負担は大きい。私も喀痰吸引の資格を持っているため目の前できつい思いをされる利用者を何人も見てきた。
毎日ベッドで彼が苦しむ音を聞いていた。少しだけ知識がある分、現場を想像できて余計に辛い気持ちになっていた。
吸引の音が止まり看護師が退出すると、いつも決まっておじさんも看護師に続いて何処かに出ていった。
その時なぜか私の方を向いてサムズアップしてキメ顔で出ていくのだ。まっすぐ伸ばされた腕は細く点滴用の注射針が固定されていたが、そのサムズアップは力強く見えた。
サムズアップは吸引のたびに私に向けられた。少しの会釈で対応していたが、しばらくすると私もサムズアップで返事するようになっていった。
「オレは大丈夫だぜ?お前も頑張れよな」と言われてるような気がした。身体は細く力なくともカッコつける事だけは忘れない。
そもそも入院しているのだ、元気なわけがない。それでも笑顔でいれること、弱い部分を見せないこと。それはとてもカッコいいことだと思った。
カッコいい男の条件ってのはじつは簡単なもので、ただカッコつけることなのだろう。見た目とかそんなのではなく、ただカッコつけることを忘れずどんな時にも笑顔でいる。それだけなのかもしれない。
退院の日、彼は変わらず吸引されたあと私にサムズアップをした。私はつい「あの、自分、今日で転院します。リハビリの病院です」と伝えた。
それを聞いた彼は微笑んで頷いたあとにまっすぐ力強いサムズアップを私に向けた。私は彼の親指にそっと背中を押された気がした。
言葉を持たない会話もあるのだ。
◇
私もいつかカッコいい男になりたい。子供が出来てからはより強く思うようになった。たまに忘れてしまうのだろうけど、私はカッコつけた男でありたい。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
答えはいつだってシンプルで簡単なことです。
それでは、佐世保の隅っこからウバでした。