DO160 section-22 pin injection testの概要(前編)

1.背景

今回の投稿では、航空機レベルの証明要求の一つであるIEL(Infirect Effect of Lightning)から見た機器レベルの証明であるDO160 section 22の要求内容について概説します。DO160 section-22には、本記事で紹介するPin injection testだけでなくCable bundle testに関する証明手順も含まれますが、今回はPin injection testにフォーカスした内容にしたいと思います。DO160の各sectionはどれも難しい内容が含まれていますが、section 22も内容が深く、pin injectionだけに焦点を当てるにしても、2回に分ける必要があると考え、今回はPin injection testの前編として、前述した通り、航空機レベルで要求される証明要求から、機器レベルの証明で行う証明の活用範囲を明らかにするため、航空機の雷撃の証明に必須のATL,TCL,ETDLを概説するともに、その要求の一部をなすPIN INJECTION TESTのwaveform set and levelを概説します。DO160だけに焦点を当てると、最終的な目的である航空機レベルの証明、言い換えるとtype certificateやSTCにおいて、TSOの基準を満たす機器を航空機に搭載するだけなのに、一体何を証明証明しなければならないのかが理解できない場合があります。今回の記事ではpin injection testを題材にしながら、航空機レベルの証明と機器レベルの証明の役割分担について視野を広げていただければと思います。

2.DO160 revision GとH

DO160 section 22では、航空機レベルの証明の一部であるIndirect effect of lightning(IEL)に対応する機器レベルの証明手順が示されています。本記事の執筆時点で、そのrivisionは、DO160 rev-Gですが、2024年中にも、rev-Hへの改訂が予想されています。 本記事は、Rev Gに関する内容について記述しますが、Rev-Hに改定された場合でも基本的な内容は踏襲されると思いますが、より細分化した証明カテゴリの導入などますます複雑化していく内容になりそうです。これは、航空機レベルにおける機内配置の電子機器の誘導トランジェントをより意識した機器レベルの試験手順の導入が考えられているものと思われます。

3.航空機レベルの証明要求の確認


過去記事で紹介していますが、再掲します。
14 CFR Part 2X.  section 2X.1316
14 CFR  Part 23.  section 23.2510( amdt 64以降)

Airworthiness standardと呼ばれる規則レベルの要求は、上記の通りですが、ごの証明要求を解説するドキュメントは多数ありますので、詳細は過去記事を参照してください。特に小型機やeVTOL機などの証明が念頭にある場合は過去記事を参照してください。

4.誘導トランジェントの結合メカニズム

DO160 section 22では、前述にとおり、pin injectionとcable bundle testの2つの試験手順が示されています。航空機の機内に配置される電子機器は、機器単体で使用されることはなく、その機器に電源を供給する別の機器が必要となりますし、信号などを有線配線を用いて別の電子機器と連接して配置されるのが普通です。このような有線による配線がなされると同時に電子機器のそれぞれは、機体の外皮とボンディングされています。本記事では説明の為、機器Aと機器Bだけで構成されるシンプルなシステムが機内に配置され、それらが電源線や信号線で連接されていると仮定します。そして、機器Aも機器Bも適切に機体の外皮に接地されているとしましょう。この前提で、航空機が雷撃を受けた場合、機器Aと機器Bのインターフェース(コネクタの各Pin)にどれほどの電圧や電流が誘導されることになるのでしょうか?   通常の機器作動のための信号伝送の電圧レベル(数ボルト)や機器作動の電源電圧レベル(例えば28V)とは桁外れの誘導トランジェントが瞬間的とはいえ、機器Aと機器Bに誘導されます。このあたりの概念的な説明は過去記事の「機器レベルの証明が航空機レベルの証明を満たさない理由」において少し記載していますが、本記事では重複覚悟でもう少し書き加えると、機内に配置される電子機器に誘導される雷撃による誘導トランジェントには2種類が適合性証明において想定されていること強調しておきます。aperture couplingとstructure IR voltage couplingの2つです。機器レベルの証明であるDO160も、航空機レベルの証明手順(SAE ARP 5415/5416)も同様に、これらの結合モデルを意識した内容となっています。次に、それぞれの結合マカニズムを記載します。
-Aperture coupling-
航空機が自然雷に受ける雷撃標準波形は、細かいことを省略すれば、component-Aとcomponent-Hと呼ばれる電流波形(詳細はSAE ARP 5412参照)に大別されます。 component Aは、最大振幅200KAの大電流波形として定義され、component Hは、最大振幅10KAの波形です。ただし後者のそれは、前者に比べて高Peakに達するまでの時間が短い鋭い波形として定義されています。:これらの大電流波形が、機体の外板(例えば機首)にヒットした場合、その大電流のほぼ全ては外板を通じて機体の尾部から放出されます。つまりイメージと異なり、その大電流が分流して機内に配置された電子機器に誘導されることは想定されません。ただ、電子機器に接続される配線にシールド配線が用いられている場合は、その限りではありません。分流のことは横に置くとして、外板を流れる大電流は、その電流が流れる進行方向に対して右ネジの法則に従い強い磁界を発生し、その磁界は容赦なく機内に侵入することとなり、前述のシンプルシステムにも到達します。悪いことに、シンプルシステムは、機器A、有線配線、機器B、外皮により電流が流れるループ回路を形成していますので、雷撃により生成された磁界は、そのループを鎖交することで、。。ループ内に誘導機電力を生じます。この誘導機電力が機器Aと機器Bのインターフェースに分圧されますが、機器Aと機器Bのインピーダンスが抵インピーダンスであれば、電流モードとなります。電圧モードとなるか電流モードとなるかは、機器インピーダンスによるところもありますが、磁界はよく知られるように電流の大きさに比例しますので前述の機器AとBのインターフェースであるpinには、その磁束の時間変化に応じた電圧が誘導されるのは明らかです。つまり時間微分となる誘導起電力(又は電流)は、component Aやcomponent Hに対するresponceとも言えるので応答波形という言い方もします。では具体的にどの程度の誘導電圧/電流が機器AやBに誘導されるのかというと、一概に言うことはできません。なぜなら、配線の長さや配線高さなどループ面積に関する情報が機体の設計ごとに違ってくるからです。予測が難しい要因は他にもあり、例えば複数の配線を束ねてバンドル化しているようなケース、機器Aや機器Bのインピーダンスの大きさ、バンドルに含まれる信号線等のシールドのター未ネーションの種類、雷撃電流の流れる方向と機器が配置される位置関係など様々な要因があるからです。では、全く何もわかっていないのかといえばそうではなく、DO160では、誘導される波形と誘導されるトランジェントをセットにした試験カテゴリがいくつか準備されています。機器の製造者は、航空機に搭載される自社の製品の艤装をイメージしながら、定性的に波形セットとそれらのレベルを決定します。機器レベルの試験において決定した波形セット及びレベルをzETDL;Equipment Transient Dsign Levelと言います。波形セット及びレベルについては、もう一つ結合モデルについて-記載した後で説明します。
-structure IR voltage drop-
結合メカニズムのもう一つの要素であるStructure IR Voltage dropは、前述した機器Aと機器機器Bを例にすれば、それらはともに外板に接地されているので、雷撃を受けていない通常時では、基準電位は同電位です。しかし雷撃により外板に大電流が流れるとなるとどうなるでしょうか? 外板はアルミナムなどで作られるためかなりの低抵抗ですが、ゼロΩではありません。仮に2.5mΩ程度に見積もっても外板には250KAもの大電流が流れるますので、機器Aと機器Bの電位差は500Vにも達します。外板が軽量目的のために複合材を使用している場合は金属外板に比べてかなり抵抗が大きいので、適切な保護設計をしない限り2つの機器の電位差は、アルミナムの100倍から1000倍にも達してしまう可能性もあります。こうなると保護設計のなされていない外板に電子機器をボンディングさせることはデメリットにしかなりません。参考までに、雷撃保護設計のために複合材には表面に低抵抗となる処置がなされる設計が加えるのはそのためですが、複合材を外板を持つ航空機に適切な保護設計を行わない場合、IELの観点からも悲劇的な結果が考えられますが、もっと分かり易いDEL(Direct effect of Lightning)観点での試験において、外板そのものが火災に至ることや飛散してしまう可能性すら考えられます。

5.pin injection testに想定すべき波形セットとレベル

機器の開発者が行うべきは自社の開発する機器が、航空機の機内のどこに配置され、どのような配線で、どのような長さで、どのような配線と一緒に、どのような配線端末処理で、どのような装置に連接されるのかと、そして、どのような材質の航空機に配置されること想定するのかといった観点を考慮しておく必要があります。では、DO160 section 22で設定することが要求されるETDLのうち、Pin injectionに関するものについて具体的に説明します。
ETDLとは、Equipment Transient Design Levelのことですが、機器レベルの証明試験、例えばTSOの認証を獲得するために行う試験において、その認証試験において適用した試験波形のセットと試験レベルのことです。DO160 rev-G section 22の22.3項には試験カテゴリにtしぃての言及があり、B3G4L3が例として記載され、冒頭の2文字がPin injection testの試験カテゴリの例です。1文字目のBが、波形セットの種別を示し、A又はBのいずれかを選択することとなります。波形セットAとは、component aAの数ある応答波形のうち、Waveform3及びwaveform 4の電圧波形が誘導される可能性の高い機内に電子機器を配置する場合に行われる波形の組み合わせです。一般にWF3やWF4のような表記がなされます。より具体的にいえば、WF3及びWF4
の2つの応答波形で試験すべきは、金属性航空機の内部に電子機器が配置されることが予測される電子機器です。一方、WF3とWF5Aの組み合わせにより試験する波形セットは波形セットBということになり、こちらは複合材の航空機を想定した波形セットとなります。

2文字目の3、つまり、B3G4L3の2文字目の3の意味ですが、pin injection testの試験レベルを指します。具体的にはtable 22-2に記載されています。機器の製造者は、level1から5から、試験レベルを選ぶ権利を持っていますが、低い試験レベルで証明した場合には、航空機レベルの試験(ATLやTCL)において、試験にfailするかもしれませんし、無意味に高いレヴェルで証明する場合には、コストや重量に跳ね返ってきますので、適切なレベルを選ぶ必要があります。例えば、B3G4L3で機器レベルで証明された機器を、どこかの航空機に搭載するにすいても航空機レベルの艤装条件が加味されていないので航空機レベルの証明試験(統合システム試験と航空機レベル試験)において合格するかは保証できないのです。

6.ATL/TCL/ETDL

ETDLにtづいてはすでに説明しましたが、ATLやTCLとは何かということを機器を証明する側は知っておく必要があります。これら2つは、航空機レベルの証明に使うものですが、まずは簡単なATL,Actual Trandient Levelからの説明です。これは、型式証明の試験で、航空機そのものを使って行う試験で、実際に雷撃を模擬した波形を地上に駐機した航空機に与え、機内に配置された電子機器のインターフェースフェース(コネクタのピン)にどれだけの電圧なり、電流が誘導されるのかを調べるためのものです。例えば、ETDLで、B3で証明されていた機器を搭載してみて実際に試験してみたら、1500V(レベル4相当)が観測されてしまったということもありえます。ATLはTCLと比較すべきものですが 、ETDLと比較しても、ETDLで証明された電圧より低い電圧がATLでなければなりません。
次にTCLですが、これは雷撃のIELの証明試験で中核となる統合システム試験です。機器試験と似てはいますが、色々なサプライヤーが製造した電子機器を連接して行う試験です。この統合システム試験を行う場合、通常はATL測定を行うより早い段階で試験を行なわれますが、各サプライヤーが行ったETDLをベースにTCLに変換して試験を行います。変換といっても公式があるわけもなく、定性的な判断によりTCLを定めていきます。ETDL=TCLでない理由は、艤装条件が全く違うからです。機器試験のケーブル長は3.3mまでですが、実際の航空機の配線はもっと長いのかもしれません。機器レベルで実施した、特に配線の艤装条件と実際の航空機の配線艤装条件っをよく調べてTCLを決めます。一般にTCL>ETDLとはいえますが、あくまで一般論です。TCLの推定が甘い場合は、実際よりも低いレベルで統合システム試験を行いシステムの機能の挙動を評価しているぼで、後からATLを測定してみたら、もっと高いレベルが観測されてしまっている場合は、統合システム試験の評価は無効というケースもあり得ることになってしまいます。

7.pin injection testとcable bundle testの役割

最後に主題のpin injection testの概要を記載します。具体的な手順については、後日の後編でDO160の手順を記載しますが、この試験がどのようなものであるかを振り返ってみます。通常、例に挙げた電子機器システム、つまり機器Aと機器Bで連接されるシンプルシステムの場合、互いのインターフェースのコネクタのピンは、シンプルとはいえ、多数あります。例えば機器Aが証明対象機器であり、機器Bが連接対象機器である場合、連接機器Bも模擬して試験を行います。コネクタPinが複数ある場合は、通常はバンドル化されますが、電源線と信号線を分離して機内で艤装される場合は、機器試験での実際の航空機の艤装をまねておく方が無難です。こうした艤装条件は、航空機の設計者にとって別々ですが、それでも、標準的な艤装マナーに従うことが重要です。Pin試験は、前述した結合モデルの両方を考慮した波形セットと試験レベルで評価しますが、実際の航空機の艤装が機器レベルの試験を行う時に不確定なこともあり、本来であれば全PINにわたって誘導されるトランジェントをたった一つのPinに全エネルギーが集中してもPINが損傷を受けないことを要求される試験です。艤装条件の考慮は、この試験において重要ですが、連接相手の機器のインピーダンスを誤らずに模擬することは特に重要で、特に雷撃保護デバイスである保護ダイオードが連接先の艤装に組み込まれているか否かは重要な判断材料です。このあたりの詳細はRTCA DO357にも記述があります。またcable bundle testは、pin injection testとはことなり、バンドル全体を、つまり全pinを一様にストレスさせて電子機器の機能の健全性を評価する試験となっています。

 7.まとめ

DO160 section 22の実際の手順を紹介する前段階として、前編を記載しました。後編においては、DO160 section 22の手順を振り返りたいと思いますが、前編で説明しきれなかったcomponent AやHの応答波形であるWF1,WF2,WF3,WF4,WF5A,WF5B,WF3h,WF6hについても触れていきたいと思います。

免責
記事に内容は、十分に吟味していますが、この記事の内容によるいかなる事項についても一切の責任を負うものではありません。














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