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秋と本_16🍁【春ラジオ秋】【シロクマ文芸部】

( 前 話 / 登場人物と目次 )


(秋と本?)

ラジオのイベントが行われている日比谷公園の屋台で買った、特製檜坂シュークリームをテーブルに座って撮影していると、目の前に座った女性がビールを飲みながら、なにやらつぶやいていた。よくよく聞いてみると「あきれる…」とか「本当に…」と言っていた。今度は秋浩が手に持っているスマホの裏側を見ながら、なにやらつぶやいていたので、声をかけてみた。

「あのー。すみません。ちょっと、聞き取れませんでした」
「えっ?いえ、なんでもありません」

「そうですか」
「あれ、もしかして声が出てましたか?」

「ええ、レッズとか、オータムとか」
「すみません。独り言です。memo のフォロワーさんでオータムさんって方がいて、特徴が似ていたので…」

「メモ?」
「いや、その memo とはペンで紙に書くメモではなくて、ネットの memo でして。あの、わたし、memo に投稿してまして。今日の、レッチの、公開録音のことを memo に投稿しようと思ってまして。レッチに会うために岐阜から来たんです。今日でレッチのラジオが最後なんです。それなのに、それなのに、新幹線は遅れちゃうし、埼玉に行っちゃうし。もう、なにもかもがうまくいかなくて。あれ、すみません。わたし、なにを言ってるんだろう…」

女性の目元から涙があふれ出ていた。

「大丈夫、ですか?」
「はい、大丈夫です?あれ、大丈夫、じゃ、ないかも。グスッ、グスッ」

「あの、これ、使ってください」
「あ、ありがとうございます…」

秋浩はハンカチを差し出した。女性はハンカチを受け取ると目元を抑えた。しばらくして、女性が落ち着いてきたタイミングで声をかけてみた。

「間違っていたら申し訳ないのですが、もしかしてスプリングさんですか?」
「えっ、どうして?」

「いや、memo に投稿したり、山岡麗奈さんの大ファンのようでしたので。それに僕のことオータムだって…」
「はい、わたしの memo のユーザー名はスプリングです」

「そうでしたか。ネットの方とリアルで会うなんてすごいですね」
「えっ、どういうことですか?」

「僕はオータムこと、秋浩って言います」
「やっぱり!オータムさんだったんですね。わたし、春香っていいます」

「はじめまして」
「はじめまして」

(エピローグにつづく)



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目次に各話のリンクを貼っていますので振り返りにどうぞ。

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