白ワンピの女の子【青ブラ文学部】
「おい、スズナ。どこへ行くんだよ」
「紀之くん、ほらバスが来た。乗るよ」
紀之はスズナから花火大会へ一緒に行こうと誘われていた。
今日、6年2組の体育の授業は水泳だった。自由時間に紀之と陽介は25mをクロールで競争した。プールサイドにいたスズナは勝った方を誘おうと密かに決めていた。スズナは学校の帰り道、競争に勝った紀之を待ち伏せして、花火大会に誘ったのだった。
夕方になり、紀之の家にやってきたスズナは、薄いピンクの浴衣を着て、大きなスーツケースを引いていた。紀之はスーツケースを見て不審に思いながらも、スズナの後をついていき、一緒にバスに乗ったのだった。
「そのスーツケース。何が入っているんだ」
「いいでしょ、別に」
「花火大会に行くんじゃないのかよ。もしかして、家出してきたのか?」
「家出じゃないわよ。カケオチ…」
「カケオチ?俺たち、死ぬの?」
「それはシンジュウ」
バスは無人駅に到着した。スズナは着替えてくるといって、トイレに向かった。しばらくすると、白いワンピース姿で紀之の前に現れた。
「ど、どうしたんだよ、その恰好」
「どお?16歳に見える?」
「なんだよ、それ」
「女の子はどこへ行っても、働けると思うの」
「…」
「歳をごまかして、16歳とか言って」
無人駅の待合室で二人は無言のまま、列車が到着するのを待ち続けていた。
(おわり)
山根あきらさんの企画に参加しています。
お題の「白ワンピの女の子」でミステリー風のショートショートを投稿しました。
下敷きにしたのは(ほとんど映画のワンシーンですが…)岩井俊二監督作品『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』です。アニメ版ではなく、実写のオリジナル版です。岩井俊二監督作品で一番好きな作品です。
岩井俊二監督の映像美もさることながら、『 REMEDIOS 』の曲もノスタルジックで美しいです。テーマ曲の『 Forever Friends 』は夏になると聞きたくなる曲です。