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2011年の遊園地【うたすと2】
紫陽花が青い花をつけ、アマリリスの淡い香りに包まれた遊園地『しまとえん』の園内を小糠雨が降るなか傘をさしながらふたりで歩いていた。その行く先には夜道に煌めくメリーゴーランドがあった。
「夜の遊園地もいいわね」
「とても幻想的だね」
開園以来初となる大規模なイルミネーションだった。震災に被災された方々を元気づけようとの思いも込めて実施されていた。
「メリーゴーランドがとってもきれい」
「しまとえんの象徴だからね。100年以上も前に作られたんだ」
「あれ?この前に来たときと違う曲が流れてる気がする」
「ブーケ・デュ・ミュゲっていう曲だよ」
「ブーケ…?」
「フランス語でスズランの花束って意味だよ」
「スズランと関係あるの?」
「今日は彼の命日なんだ」
「命日?」
「そうなんだ」
フランスで廃棄される予定だったメリーゴーランドをしまとえんに譲渡するため、交渉にあたっていた担当者がフランスで不慮の事故にあい、亡くなってしまった。
彼の功績をたたえ、婚約者が受け取っていた、彼からプレゼントされたオルゴールの曲を命日に流すことになっていた。
「そんな歴史があったのね」
「ああ、これからも。ずっと」
しまとえんで廻り続けるメリーゴーランドのように、ふたりの愛は永遠に続くものと思っていた…
(つづく)
PJさんの企画に参加させていただきました。6人による楽曲を元に『小説』『俳句』『短歌』『詩』を応募する企画です。
今回は青豆ノノさんとPJさんの楽曲『ブーケ・デュ・ミュゲ』を元にしました。
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