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渋谷で17時(第15話)雨を聴く 🍕16:55【シロクマ文芸部】
雨を聴く。なぜ、そう思ったのか。未希はピザ屋の宅配用スクーターを運転しながら疑問に感じていた。昨夜、花散らしの雨が降っていたが、いまはやんでいる。もう雨は降っていない。それに、雨を聴くなんて日本語が変だ。雨音が聴こえるとか、雨に唄えばとかではないのか、と考えていた。
『ポタッ』
太股に水滴が垂れた。気づくと大量の冷や汗をかいていた。そうか、冷や汗を雨と勘違いしていたのかと今更ながら気づいた。やはり、気が焦っているようだった。
未希は『強炭酸』を持ってスクーターで飛ばしていた。30分ほど前、ハチ公前広場にピザと『強炭酸』を届けて欲しいと注文が入ったのだが、配達業者のユーザーミーツが間違えて『弱炭酸』を持っていってしまったのだ。
あの『弱炭酸』には…
未希はスクランブル交差点の手前でスクーターを停めようとしたが目の前に渋谷駅前交番があったため、そのまま左折して、ハチ公像の裏側あたりで停車した。
「ここは駐停車禁止ですよ」
近くにいたバスの案内係に注意されてしまった。「さっきも自転車を勝手に停めたヤツがいて、まったく…」とぶつぶつ呟いていた。
「ピザ屋の配達なんです。ハチ公前広場にいるお客様の注文を届けに来たんです」
「そう言われてもね…」
仕方なく、エンジンを止めてスクーターを手で押して歩道に上がり、なるべく邪魔にならないように宝くじ売り場の手前に停めた。
未希は『強炭酸』を持って、ハチ公前広場で忍者のコスプレイヤーを探した。注文書の備考欄に『忍者のコスプレをしています』と書いてあったからだ。
「いたっ!」
忍者戦隊シノブンジャーに声をかけた。
「申し訳ござません。ドリンクの注文を間違えました」
「ドリンク?」
「はい」
「ああ。片付けが終わったらピザを食べながら飲もうとしてたんだ」
「まだ飲んでいなかったんですね。セーフ。ああ、よかったぁ」
「これのことだよね?」
「それです。あれ?『強炭酸』だ」
「そうだよ。『強炭酸』だよ」
おかしい。注文を間違えて『弱炭酸』を配達したはずなのに。シノブンジャーは先ほどピザとドリンクを受け取ったのだが、と状況を詳しく説明してくれた。
初めにユーザーミーツがドリンクだけを届けにきた。ピザがないので人違いでは?と確認していたら、忍者ハッタリくんのコスプレイヤーがやってきて「それ俺のです」と言った。
同時に別のユーザーミーツがピザとドリンクを持ってきた。どうやら『忍者』間違いだったらしい。ピザとドリンクは先に持ってきたドリンクと同じ場所に置かれていて、シノブンジャーはピザと『強炭酸』を受け取ったとのことだった。
「えっ?受け取ったドリンクは『強炭酸』なんですか?」
「そうだよ。『強炭酸』を注文したからね」
「じゃあ『弱炭酸』は?」
「ハッタリくんが持っていったんじゃないかな」
そんなことってあるの?未希は絶望的になり、その場にしゃがみ込んで泣き出してしまった。
「どうしよう、どうしよう…」
近くを通りかかった警察官が未希の前で立ち止まり、シノブンジャーに声をかけた。
「どうされました?」
「いや、違うんです。この子が急に泣き出したんです」
今度は未希に声をかけた。
「どうされました?」
「どうしよう、どうしよう…」
「落ち着いて。何があったんですか?」
ショートショート?をつなげて連載中です。毎週金曜日に投稿予定です。
目次に各話のリンクを貼っていますので振り返りにどうぞ。
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