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1969年の遊園地【うたすと2】

ふたりは一緒にいるだけで、なんでもわかりあえた。

彼は遊園地『しまとえん』で働いていた。子どもたちの笑顔を見るのが好きだからというのが理由だった。

しまとえんには色々な乗り物があるが、彼はとくに親子で一緒に楽しめるメリーゴーランドが好きだった。メリーゴーランドをしまとえんの象徴にしたいと考えていた。

そんなある日、フランスにある遊園地が閉園して、王者的存在のメリーゴーランドが廃棄されるというニュースが入ってきた。世界的にみても最古級のメリーゴーランドが廃棄されるなんてもったいない。

彼はそのメリーゴーランドをしまとえんに譲渡してもらえないだろうかと画策した。そして、譲渡を交渉するため、フランスに渡ることになった。

「絶対にあのメリーゴーランドをしまとえんに連れてくるよ」
「あなたがいなくなるのは寂しいわ」

「すぐに戻ってくるさ」
「ほんとに」

「Thing are simply ! It's exactly !」
「気に入っているのね、その歌」

「そうだ。君にこれを渡したかったんだ」
「ありがとう。あなただと思って大事にするわ」

彼から受け取ったのは『ブーケ・デュ・ミュゲ』というオルゴールだった。ミュゲとはフランス語でスズランのことで、花言葉は「再び幸せが訪れる」だった。

「日本に戻ったら、結婚しよう」

それが彼の最後の言葉になった。

(つづく)


(『2024年の遊園地』の話はこちら)



PJさんの企画に参加させていただきました。6人による楽曲を元に『小説』『俳句』『短歌』『詩』を応募する企画です。

今回は八神夜宵さんと大橋ちよさんの楽曲『Simply』を元にしました。



#うたすと2

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