フリー台本「真冬のコインランドリー」(2人用)作:書木持 沙羅
登場人物
お姉さん
ひろくん
※太字はト書き
お姉さん「コインランドリー、洗剤と柔軟剤の匂い
ストーブがあって、暖かい
洗濯物が乾くまで、私は洗濯機を眺める。
ここにはいろんな人が来る。
洗濯物を干してなくて怒られた人、
天気が悪くて干せず、服をまとめて洗う人、
子供の靴を洗いに来る人。
汚れを洗い流しに来る人がたくさん
この匂いに包まれていると、終わらない夢の中みたい」
コインランドリーに薄着の女性(タンクトップにショートパンツ)が、
洗濯機を眺めている。そこに1人の男子大学生が洗濯物を持って入ってくる。
時刻は、0時を回りそうだ。
お姉さん「洗濯?」
ひろくん「えっ、はい」
お姉さん「私も、ねぇ話し相手になってよ」
ひろくん「え?」
お姉さん「洗濯終わるまででいいから」
ひろくん「はい」
お姉さん「大学生?」
ひろくん「はい、大学生です」
お姉さん「1年生でしょ」
ひろくん「……わかりますか?」
お姉さん「うん、なんか、若い」
ひろくん「なんですかそれ」
お姉さん「私、何歳だと思う?」
ひろくん「えっと…」
お姉さん「年上の女性から1番聞かれたくない質問、第1位!じゃない?」
ひろくん「まぁ、はい」
お姉さん「20代後半、それだけ教えてあげる」
ひろくん「年上ですね」
お姉さん「そうね」
ひろくん「寒くないですか?」
お姉さん「え?あぁ、ここは暖かいから
それに、服は今洗濯してるからないの」
ひろくん「へぇー」
お姉さん「寒そうに見える?」
ひろくん「はい、だって
タンクトップにショートパンツ
真冬じゃ考えられない格好ですよ」
お姉さん「でもほら、コインランドリーは、ストーブもあって、
乾燥機の熱もある。ちょうどいいの」
ひろくん「確かに、あったかいですね」
お姉さん「えぇ、ねぇ、大学生くん」
ひろくん「大学生くん?」
お姉さん「だって名前知らないし、知る必要もないけど」
ひろくん「ひろです」
お姉さん「ひろくん、私はそうだなぁお姉さんかな」
ひろくん「お姉さん?」
お姉さん「そ、そう呼んで」
ひろくん「お姉さん」
お姉さん「ひろくんは、恋人いる?」
ひろくん「いやいないです」
お姉さん「じゃあ、好きな人は」
ひろくん「いないです」
お姉さん「えー、大学生って遊び呆けてるものじゃないの?」
ひろくん「全員がそうではないですよ」
お姉さん「ふーん、つまんないの」
ひろくん「じゃあ、お姉さん、恋人は?」
お姉さん「えー、秘密」
ひろくん「人に聞いといて、お姉さんは言わないんですね」
お姉さん「女は秘密が多いの」
ひろくん「ふーん」
お姉さん「じゃあ、もしもの話」
ひろくん「もしも?」
お姉さん「そう、お姉さんに、彼氏がいました。
彼氏は顔がカッコよくて、とっても優しいです
いつもお姉さんを1番に考えてくれていました。
しかし、ある日彼氏に結婚相手がいることがわかりました。」
ひろくん「結婚相手?お姉さんは浮気相手だったってことですか?」
お姉さん「もしもの話だよ、そしたら、お姉さんはどうすると思う?」
ひろくん「え?怒る?泣く!それで、別れを切り出す」
お姉さん「(首を横にふる)お姉さんは、とっても彼氏が好きでした。
別れるなんて考えられないほどに、だから、彼氏に迫ります。
結婚相手と別れないと私が死ぬって」
ひろくん「え??」
お姉さん「首元に包丁突きつけて、そう叫ぶお姉さんに、
彼氏は落ち着くように宥め始めました。
しかしお姉さんの気持ちは落ち着きません。
ついに首元に包丁がつきそうになった時、
彼氏はお姉さんを抱きしめました。
ぎゅーと強く、
お姉さんは安堵したと同時に沸々と怒りが湧いてきたのです。
持っていて包丁が、彼氏の腹部に深く刺さります。
彼氏はヨロヨロと倒れてしまいました。
お姉さんは、倒れた彼の血をたくさん浴びて、
逃げるように家を出てきました。
おしまい」
ひろくん「……」
お姉さん「作り話だよー、お姉さんが人を殺してると思う?」
ひろくん「いや、思わないですけど…」
お姉さん「ひろくん、怖いんでしょ」
ひろくん「本当に殺してないですよね?」
お姉さん「ふふーん、殺してないよ
作り話って言ったでしょ?」
ひろくん「ですよね」
お姉さん「こんなドラマみたいなこと、あるわけないよ、あるわけない」
ひろくん「びっくりさせないでくださいよ、でも面白いですね、
そういうこともあるのかもなぁ」
お姉さん「そうね、あるかも」
ぴーぴー
洗濯が終わる音
ひろくん「あ、」
お姉さん「終わったね」
ひろくん「はい」
お姉さん「ありがと、ひろくん
夜は1人じゃ寂しくてさ」
ひろくん「いえ、僕も楽しかったです
またいつか」
お姉さん「いつか、ね」
ひろは、コインランドリーから出ていく。
女はまた洗濯機を眺めてる。
お姉さん「あの汚れは、落ちるのかな、コインランドリーで……」