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声劇「リンゴとか、夕陽の色は赤色とか」公演台本


プロローグ

SE:信号、雑踏音

 都内、駅前でギターを構えている男。その前を見向きもせずに行き交人々。男は、ギターを弾き始める。ギターケースには1円もお金が入っていない。男の名前の書いてあるポップとCDがギターの横には置かれている

歌:スキマスイッチ 奏

佐藤「君が大人になってくその時間

  降り積もる間に僕も変わっていく

   たとえばそこにこんな歌があれば

   ふたりはいつもどんな時もつながっていける」

佐藤「ありがとうございました」


 佐藤は、ギターをケースにしまい、片付け始める。


林「もう歌わないんですか?」

佐藤「え?」

林「さっきまで歌っていましたよね?

  もう、歌わないんですか?」

佐藤「あぁ、今日は、もう」

林「じゃあ、明日も聞けますか?」

佐藤「え?」

林「明日も、ここにいます?」

佐藤「あーいや、見ての通り、誰も立ち止まらない、見向きもされないのに

   歌う意味ありますかね」

林「見えないです」

佐藤「え?」

林「見えないです」

佐藤「なにが?」

林「わたし、目が見えないんです」

佐藤「え?そうなんですか?そうは見えないですけど

   きれいな服で、メイクだってしてるし、ぱっと見は普通の女性だったので」

林「目が見えない人は、みじめな格好をしなければならないんですか」

佐藤「いえ、そうではないんですけど……すみません」

林「(笑う)よく、本当は見えてるんじゃないかって言われます

  でも、見えないものは見えないから」

佐藤「はあ」

林「それで、明日は?」

佐藤「え?」

林「明日もここで歌いますか?」

佐藤「……はい」

林「わかりました!じゃ、また」

佐藤「えっ、ちょっと……」


 深いため息をつき、家へと向かう佐藤



シーン1

SE:信号、雑踏

 都内、駅前でギターを構える佐藤。佐藤の前には昨日もいた林がいる。林は白杖を持っている。


ギター:最後の一音鳴らす


佐藤「ありがとうございました……」

林「(拍手)」

佐藤「本当に来てくれたんですね、ありがとうございます……」

林「わたしが頼みましたから」

佐藤「目、見えないんですよね?外出大変じゃないですか……

   俺の歌なんて、わざわざ聞きに来るものでもないですよ」

林「いいんです、聞きたかったから」

佐藤「なんで」

林「さぁ、何ででしょう」

佐藤「……」

林「なんか……好きなんですよね」

佐藤「え?」

林「苦しそうに聞こえて、立ち止まって聞き入ってしまいました

  また、聞きたいと思いました、歌の力ですかね?」

佐藤「さぁ、俺にはわからないです」

林「あっ、名前なんていうんですか?」

佐藤「……佐藤です」

林「さとうさん、文字で書いてくれませんか?」


 手のひらを佐藤の方に差し出す林。ここに指文字を頼んでいる。

M1


佐藤「普通の佐藤ですよ」

林「普通って、人によって違いません?それに、私には文字は見えませんから」

佐藤「だったら別に、知らなくても」

林「名前を分かりたいです。私の手のひらに指で名前、書いてくれないですか?」


 手を差し出す林。渋々林の手のひらに文字を書く佐藤。

 文字を書きながら


佐藤「佐、藤

   この二文字で佐藤です」

林「難しいですね、さとうって、そんな線たくさんあるんだ」

佐藤「え?」

林「漢字って言うんですよね?私にはあんまりわかんないですけど、

  きっときれいな文字なんですね?」

佐藤「日本語はきれいですよね」

林「はい、あ!さとうさん、

私は林 みかです」


M1:フェードアウト


 と佐藤の手のひらをとり、自分の名前の文字を書く。


林「木?が二つで、林らしいですね。み…か…は、ひらがなです」

佐藤「林さん」

林「はい、林です、また明日も歌いますか?」

佐藤「……いや、実はもう路上ライブはやめようと思ってるんです。

   林さん?には、申し訳ないけど……」

林「え?」

佐藤「俺の歌なんて、誰も聞かない」

林「私が聞いてます」

佐藤「あなただけだ。」

林「私だけじゃダメですか?」

佐藤「そういうことじゃないですけど、でも、路上ライブなんて

   お金も手に入らない。世の中、そんな甘くないんだ」

林「でも、佐藤さんは歌い続けてたんですよね?

  なのに急にやめるなんて」

佐藤「今諦めたら、何もかも無駄になる

   だから、いつかかなうと信じてました。でも、もう潮時です」

林「…諦めちゃダメです

  佐藤さんの歌は、誰かを救う歌になるはず

  私は、そうおもいます」

佐藤「そんな簡単にいうなよ……」

林「!」

佐藤「……あっすみません、今日はこれで」


佐藤足早にその場を去る。林、困惑した顔で立ち尽くす。

佐藤の家、夜。

SE:扉開閉音

古いぼろアパート


佐藤「(ため息)ただいま……あーもう

何むきになってんだよ…!

   明日、謝ろ…明日?明日も歌うのか?

   いや、別に歌わなくても…」


テレビをつける。テレビには、ニュースキャスターが有名人の紹介をしている。

SE:ブン、ニュース、CM


ニュースキャスター「昨日、将棋の竜王戦第三局が福岡県北九州市にて行われ、広田八冠は高橋七段との対局に臨みました。

今日の昼頃まで互角の戦いでしたが、午後5時30分96手までで高橋七段が投了しました。勝った広田八冠は竜王戦3連覇まで後一勝に……」

佐藤「広田八冠、同い年か…」


  テレビを消す。薄い布団に横たわる。


佐藤「同じ年なのに…嫌だね、年をとるってのは……

   才能なんて幻想だ、俺はそれでも、何かを望んでる

   はっ何言ってんだ、もう28だぞ、中二病みたいなこと1人で言ってんじゃねぇよ

   もう、寝よう」



シーン2

SE:雑踏

 都内、駅前。ギターケースを抱える佐藤。白杖をつく音。林、佐藤の歌が聞こえないため、今日はいないのかと素通りする。


佐藤「林さんっ」

林「わっ」

佐藤「すみません、あの、佐藤です」

林「あぁ、さとうさん…今日は歌ってないんですね」

佐藤「あ、はい」

林「これから歌うんですか?」

佐藤「いや、今日は歌わないです…

   あの、昨日、変なこといって、すみません

   それを言いたくて、じゃあ」

林「あはは、わざわざ、言うためにここで待っててくれたんですか

  …私こそごめんなさい。諦めるななんて、無神経でした。」

佐藤「いえ、この年まで音楽してきて、変にこじらせた自分のせいです」

林「そんなことないです、さとうさんの話聞かせてくれませんか?」

佐藤「俺の話?」

林「そう、さとうさんは歌手になるのが夢だったんですか?」

佐藤「あぁ、まぁはい、小さい頃から音楽が好きで、ずっと聞きあさってました。

   高校生の頃から、ギターをはじめて、周りの友達から褒められて、

俺は、将来、歌で生活できるって……でも、

そんなこと親に言えるわけなくてさ、近所のテキトウな大学に進学して、

軽音サークルに入部した」

林「それで?」

佐藤「それで、就職もしたくなくて、実家から出て、東京に家を借りた

   バイトしながら、路上ライブして、いつかは売れるって思ってきたけど

   もう、無理なんです」

林「……歌いましょう!」

佐藤「え?」

林「ギター持ってますよね?

  これですか、あっ違う」


 手探りで佐藤のギターを探しはじめる。林、佐藤の体に触れたりする。


佐藤「ちょっ、持ってます、持ってますから」

林「あぁはい」


 佐藤ギターを下ろす。


佐藤「はい、持ちます?」

林「いいんですか」

佐藤「別に減るもんじゃないし」


 林、ギターの弦をはじく


林「きれいな音」

佐藤 音頭「これは六弦、ミの音」

林「これは?」

佐藤「四弦、レ」

林「これで、曲になるって不思議」

佐藤「違うとこを押さえたら、音が変わる」

林「すごい!

  (歌:傷つかないための気づかないふりばかりだ)

  ほら、一緒に」

佐藤「え?」

林「しらないんですか?マカロニえんぴつのブルーベリーナイツ」

佐藤「聞いたことない」

林「いけるいける」

佐藤「はやりの曲は好きじゃないんだけどな」

林「じゃあ、佐藤さんの好きな曲とか」

佐藤「林さんも知ってそうな曲?

   (曲名)とか?」シドの~

林「知らないです」

佐藤「そうですよね、すみません

じゃあ、(ひまわりの約束)」

林「あぁ!しってます」

佐藤「じゃあ、少しだけ」



歌「そばにいたいよ

  君のためにできること」


 佐藤はさびの部分だけ弾き語る。


林「(拍手)わぁ!」

佐藤「どうも、ありがとうございます」

林「佐藤さんの歌、やっぱり好きです」

佐藤「やっぱり、物好きですね」

林「ふふ」

佐藤「最近見に来てくれますけど、こんな夜に出かけてて大丈夫なんですか?」

林「あー、心配はされますけど、一応成人してるし!大丈夫です!」

佐藤「実家暮らしですか?」

林「えぇ、親は心配性で、眼が見えないと一人暮らしもなかなか難しいですから」

佐藤「もう、22時ですね、送っていきましょうか」

林「あぁ!いやいや!大丈夫です!」

佐藤「じゃあ、駅まで」

林「ありがとうございます」

佐藤「いえ」


SE:雑踏


林「……佐藤さん」

佐藤「はい?」

林「いま、何が周りに見えますか?」

佐藤「いま?あー信号?」

林「信号、たしか赤と黄色と青!」

佐藤「眼が見えないのに色って分かるんですか?」

林「色という概念は、分かります」

佐藤「概念?」

林「例えば、りんごとか夕陽の色は赤色とか」

佐藤「へー」

林「他には何が見えますか?」

佐藤「左には、大きい建物、横断歩道を渡った先には、少し開けた広場みたいなのがあります」

林「へー、人もたくさんいますね」

佐藤「まぁ22時ですか

東京だとまだゴールデンタイムか」

林「そっか、みんな楽しそう」

佐藤「わかるんですか?」

林「歩いてる人の声で、

きっと街灯とか、お店のネオンの明かりがキラキラしてるんだろうなぁーって」

佐藤「そんなにきれいなものじゃないですよ」

林「えーじゃあ、さとうさんには、どう見えてるんですか」

佐藤「えっと…」

林「何でも良いから」

佐藤「たばこの吸い殻とか、空き缶が、地面に転がってます。

あとは地下鉄の階段が右側にあって、反対側は大きな道路がある。

少し目線をあげるだけで、蛍光灯の白い明かりのお店がたくさん並んでて、

ずっと見てたら眼が痛くなりそうなくらいまぶしいです。」

林「ふーん、他には」

佐藤「えー?他ですか」

林「いいから!」

佐藤「あ、ちょっとこっち、あーえっと、左にある横断歩道、線路下にあるんですけど、

  その外壁に、赤とか黄色とか派手な色で、絵が描いてあります。

何の絵かは分からないんですけど鳥とか、社とか、

いろんな絵がごちゃ混ぜになってる感じです

  なんかこの絵、うるさいなって」

林「絵なのに、うるさい?」

佐藤「色鮮やかで、線路下で暗いのに、まぶしくて、存在をアピールしてくる

   全員が主役みたいな絵なんです。この絵を通り過ぎる俺は脇役だろうなって」

林「そっかぁどんな絵なんだろう

きっと佐藤さんにしか見えないものもあるだろうなー

いいな」

佐藤「いや、そんなことないです」

林「そんなことあります!人それぞれ見えるものは違うから

  ね?」

佐藤「…はい」


SE:駅の音(改札、人の声、アナウンスなど)


林「あ、駅の音」

佐藤「あ、」

林「ありがとうございます、ここで」

佐藤「いえ、気をつけて帰ってくださいね」

林「はい、あの少しだけですけど、話せて楽しかったです。では、また」

佐藤「また」



シーン3

都内、駅前。ギターケースを抱える佐藤。

SE:雑踏


佐藤「点字か、眼が見えないってどんな感じなんだろ

   目をつむったまま歩くとか、怖いだろうな……

   あ、林さん」

林「さとうさん」

佐藤「今日も来てくれたんですね」

林「はい、でも、歌ってなかったから、今日はいないかと」

佐藤「あぁ、歌う気起きなくて…」

林「そうなんですね、そういう日もあります!」

佐藤「良ければ、お話ししませんか?」

林「いいんですか」

佐藤「え?」

林「歌手を私独り占めできるんだなーって」

佐藤「何言ってるんですか」

林「ふふ、いいじゃないですか、私はファンですから」

佐藤「それはそれは、ありがとうございます」

林「どういたしまして」


 笑う2人


佐藤「あの、眼が見えないってどんな感じなんですか?」

林「えーっと難しいですね…」

佐藤「真っ暗なんですか?」

林「うーん、暗いとか黒とか特に何もない

  何もないとしか、私は言えないです」

佐藤「何もない…怖くはない?」

林「うーん、私は、見えないのが普通だからなー、見えている方が怖いかも」

佐藤「へー、そんなかんじなんですね」

林「まぁ、苦労はしますよ。よくつまずきますし、この白杖で人を突っついたり、

  女性のスカートの中に、杖はいちゃったり、ね」

佐藤「そんなことあるんですか」

林「ありますよ、しかも結構頻繁に」

佐藤「俺には、わかんないな」

林「私にも、見える世界はわかんないです」

佐藤「すみません」

林「見えないけど楽しいですよ、映画とかも見に行けるし!」

佐藤「見れるんですか!」

林「音声ガイド付きで、面白いですよ」

佐藤「今度やってみます」

林「音が聞けて良かった、世の中のすごい音楽がたくさん聴けますから」

佐藤「林さんは、音楽が好きなんですか?」

林「はい、小さいときから、母が、眼で見る楽しみがないなら、音楽だけでも

楽しんでほしいって、たくさんの音楽に触れてきました」

佐藤「良いお母さんですね」

林「はい」

佐藤「好きな曲とかあるんですか?」

林「バッハの主よ、人の望みの喜びをとか」

佐藤「え、クラシック」

林「他にもありますよ、たーくさん、語り尽くせません」

佐藤「クラシック聞いたことないなー」

林「良いですよ、なんか落ち着くし」

佐藤「林さんはプラス思考ですよね、俺には、むりです」

林「希望を抱いてるだけです」

佐藤「希望…ね」

林「何だっけな、昔の偉い人が、未来が予言できない状態において、

未来を期待できるのは希望であるっていってて、確かにって思いません?」

佐藤「まぁ」

林「どんなに辛いときでも、生きていられるのは、

自分が抱く欲望とか希望つまり、望みがあるから、だったら、

同じ望みなら、明るい方が良いに決まってませんか?」

佐藤「俺が、10代の時、そんなこと思ったことなかった」

林「そうなんですか?」

佐藤「そう、ぜーんぜん。寝て、学校行って、食って、寝る。三大欲求しか、なかったな」

林「ふふ、そりゃまぁ、人間ですからね」

佐藤「いや、尊敬します。そんなこと考えたことなかった」

林「いやいや!!私ただの18歳ですよ!何も知らないです!世を知らぬガキですから

  そんな、がっかりしないでくださいよ」

佐藤「自分の平凡さが…」

林「いや、私、あれです。ギター弾けないし!佐藤さんは私の推しですからね!」

佐藤「こんな、おじさんの何が良いんだか、それに歌うのだってやめようとしてるのに」

林「佐藤さん、歌ってください。私が、猛烈にレビューしますから」

佐藤「えー」


M2


林MO「それから、佐藤さんは、嫌々歌ってくれました。私は、やっぱり佐藤さんの歌が好きで、この気持ちを佐藤さんに話したら、佐藤さんは、戸惑ったように笑ってた。この時間が今日も終わる。明日、また、聞けるように私は……」



佐藤「明日?」

林「明日も、歌ってくださいね」



M2:フェードアウト














シーン4

SE:雑踏

いつもの場所で佐藤は、歌っている。


歌:スピッツ楓

歌「ああ君の声を抱いて歩いて行く

  ああ僕のままでどこまで届くのだろう」



林「やっぱり、私佐藤さんの歌好きです」

佐藤「いや、えっとありがとうございます」

林「本当にやめちゃうんですか?」

佐藤「生活していけないし、俺には才能もなかった。

   誰かに影響与えることなんてできなかったから、俺はもうやめるよ」

林「そんなこと」

佐藤「そんなことないって言ってくれるけど、俺はそうは思えないんです。

   続けることが大切って、成功者は言うんですよ

   努力しろって、でも努力も才能だと俺は思うんです。それができない俺は、

何にもない凡人なんです。そんな俺が、シンガーソングライターになって

売れたいなんて高望みでした。もう、諦めないといけない年齢だ。」

林「佐藤さん、私の夢、聞いてくれませんか」

佐藤「夢?」

林「そう!佐藤さんの歌を聞いて、やっぱり、

夢を諦めたくなくなっちゃいました」

佐藤「どんな夢ですか?」

林「恥ずかしいですが、女優です」

佐藤「女優?」

林「そっ、昔から演技するのが夢だったんです。でも、目が見えないから諦めてきました

  佐藤さんの歌で、私、なんか、悔しくなって、なんで、

私が諦めないといけないんだって」

佐藤「諦めるのは、難しいよ

俺は、今まで続けてきたこと全部が無駄になる気がして

   やめれなかった、諦められなかった」

林「そんなことない、きっと何か意味があります」

佐藤「どうかな?」

林「私、目が見えなくて、ずっとなんで私だけって思ってました。

  1人で生きていくのすら難しいのに、夢なんて語れなかったんです。

  でも、目が見えないからできることもあるって、最近は思います」

佐藤「目が見えなくて辛くないですか」

林「こうやって白杖をついてると、(SE)町ゆく人が声をかけてくれます。

  手伝えることは?ってそのとき、私すごくうれしいんです。

  私は誰かの力なくしては生きていけないって気づきました」

佐藤「それと夢がどうつながるんですか?」

林「私がどれだけ渇望しても、目の前の世界は見えないんです

世界はどんな色で満ちてますか?「赤ってどんな色ですか?」

  それはわかんないけど、私にしか見えない世界もあると思います

だから私も、誰かの役に立てるんじゃないかなーって」

佐藤「・・・」

林「佐藤さんの歌が、私を変えたように

  私も誰かに、届けたいです。目が見えなくてもやれることはあるって」

佐藤「きれい事だ」

林「そうですね」

佐藤「きれい事、嫌いなんですよね」

林「自分を奮い立たせないと、負けちゃいそうなんで」

佐藤「俺はそんな風に思えない」

林「え?」

佐藤「いくら頑張ったって、ダメなときはダメだ」

林「それは、まだわからないじゃないですか!」

佐藤「自分を言い聞かせるために思ってもいないきれい事をいうあんたに!

あんたに分かるか?理解なんて、されたくないし、誰も理解してくれないんだ」

林「ちがう!さとうさんは、本当は理解されたいのに、物わかり良いふりして、

自分がやめる理由を探してるんです。」

佐藤「あぁ、そうだよ

いくら歌っても、誰に見向きもされない

   周囲の人間からは冷ややかな目線を送られる

   昔、大人に言われた『夢を持って』って、夢を追った結果が

   未だにファンはいない、飯も食えない。誰かのためになんてなれないんだ」

林「分からないですよ、佐藤さんに見えてる景色なんて

 私は、仲の良い友達の顔も、愛する家族の顔も見たことない

 贅沢なんですよ、私は世界が見たい。神様に賄賂を払ってでも、

目が見えるようになりたい!」

佐藤「じゃあ、なんで、そうおもうならなんで、自分の苦しむ方に進むんですか

   そっちに行ったって、何もないかもしれない」

林「いってみないとわからない」

佐藤「行かなくても分かる、無理だ!成功するのは一握りの限られた優れた人間だけだ」

林「・・・さとうさんは!優れた人間になりたくて歌を歌いましたか?

誰かのためになりたいって思ったんじゃないんですか」

佐藤「それは……エゴだ。俺は結局誰の役にも立てなかったんだから」

林「世界の大半はエゴです!だから、私はエゴを押し通します」

佐藤「やめてくれ」

林「なんで、ダメだって分かってたのに、今まで歌い続けたんですか」

佐藤「それは」

林「誰かに気づいてほしかったんじゃないですか?」

佐藤「違う!」

林「誰も、引き留めてはくれないですよ、もし、本当はやめたくないなら、人が見に来ないってだけの理由なら、やめないでほしい!」

佐藤「あんたの都合だろ」

林「そうですよ!佐藤さんの歌は、苦しそうで、誰かに見つけてくれって

叫んでるように聞こえました

  私はそんな佐藤さんの歌が好きです」

佐藤「黙れよ」

林「いやです、佐藤さんの紡ぐ音が好きです、私は一緒に世界に向かって叫びたいです」

佐藤「目の見えないあんたと一緒に?変人扱いされるだけだ!

   見えないくせに、わかったようなこというなよ

   あんたなんて、外に出てオーディション受けても受かるわけないだろ

   目が見えないやつの芝居なんか、だれもみたくねぇんだよ!」


 佐藤、顔を上げると泣きそうな林。しかし、林は泣かず、佐藤を見据える。まるでにらみつけているかのようである。


林「……もういいです、佐藤さんがそう思ってても、私は女優になりますから

  それでは」

佐藤「おい!……あーくそっ」





シーン5

シーン4と同日の深夜。佐藤の家。


SE:扉開閉


佐藤「あぁもう!」


 と、ギターや荷物を乱雑に置く。頭をくしゃくしゃとかく佐藤。布団に寝転がる。


佐藤「……最悪だな」


瞳を閉じる。しかし寝れずに


佐藤「俺、何言ってんだ

   何日か、一緒に話した奴に、受け流せば良かっただろ

   なのになんで、はぁぁ」


 寝付けない。


佐藤「あー!寝れない、くそっ」


 すると、佐藤の頭の中に、メロディが浮かぶ

M3


佐藤「(メロディを口ずさむ)ん?これ、

   これ、良いわ、さびはこんな感じで、あーあり」


 布団から出てギターを取り出しフレーズを弾く。


佐藤「歌詞は……赤青黄色?……同じ……世界

   あぁ、これだ、色、見えてる世界の色。それがどれほど汚くて、きれいか

   これが、最後」


 必死に歌を作る佐藤。


M4:

佐藤MO「長年やってきて、唯一ちゃんと歌を聴いてくれたお客さん、目の見えない林さんと喧嘩した。朝、バイト先で従業員がまだミュージシャン目指してるらしいよ、恥ずかしい

って俺のことを噂していた。

俺は、むしゃくしゃして、いつもの場所で歌を歌った。

でも、誰も聞かない、白い目で見られて、あぁ、俺は本当に向いていないと思った。そりゃ、たいした努力もしてない、ただ好きだから続けてたのに、もうやめたくなってしまった。なのに、心のどこかで、林さんなら、止めてくれると甘えていた。うだうだと、御託を並べ、やめるやめるという俺に林さんは夢の話をした。まぶしくて、辛くて、当たってしまった、10歳も離れた年下に……

むしゃくしゃしたまま、家にいると急にすごく良い曲が書ける気がした。それから俺は、何日も寝ず、ろくに飯も食わなかった。ずーっと家にこもって曲を作った。メロディライン、ハモり、ボーカル、ベースすべて、納得いくまで歌詞を書き直して、完成した曲『雨晴れ』

早速、俺はいつもの駅にギターを持って行った。道中、なんて言って謝ろうか、来てくれるのだろうか不安になりながら、頭の中で曲をくりかえした。きっときてくれると思ってたからだ。

その日、8時間待っても、林さんは来なかった。たまたまだと、次の日もその次の日もあの日と同じ場所で、ギターを背負って待ってた。それでも、いくら待っても林さんは来なかった。

俺は、2ヶ月を過ぎた頃から、諦め始めた。曲が完成したときの熱は冷め切って、馬鹿らしくなってしまった。もういいんだ、もう諦めろってことか……諦める理由をつくって、俺は、ギターを歌をやめた。

諦めた日から、死んだように眠って、生活が苦しくなったら、アルバイトをしていた。そんな生活が終わりを迎えたのは、1年後の春だ。歌手の夢に折り合いをつけて、社会復帰を目指した。大学は卒業してるし、十数年のブランクを気にしない職場を探した。経験を気にせずに雇ってくれそうな飲食店の正社員になることにした。高校生や大学生に囲まれ、週6日8時間働いて、金を稼いだ。高校生たちが、将来の夢の話をしている。

俺は言われたくない言葉をその子たちに投げかけた。『好きこそものの上手なれだよ諦めんなよ』って、何様だよって自分でも思った。でも、それでも、自分ができなかったことが、この子たちならって託したくなった。もう今年で35歳。もうおじさんじゃないか。今なら分かるあのとき言われた言葉は、大人たちの本心で、自分たちがかなえられなかったものをなすりつけているだけだと。

毎日同じことの繰り返しの日々、仕事前にニュースをたまたま見た。「盲目の女優」という見出しだ。

へーそんな珍しいこともあるんだな」


 テレビを見ている佐藤。(ニュース場面は動画作成するかも)


ニュースキャスター「盲目の女優として一躍有名になった林みかさんに本日は突撃インタビューいたします!」

佐藤「林みか?」

ニュースキャスター「林さんは、生まれたときから目が見えなかったんですよね?」

林「はい、2歳くらいまでは見えていたらしいのですが、私には目の見えた記憶がありません」

ニュースキャスター「そうなんですね、目が見えないってすごく大変なことだと思うんです。林さんは目の見えない中で、どのように台本などを読んでいるのか、気になる方も多いと思うので教えていただきますか?」

林「そうですよね、私はマネージャーや作品関係者の方に付き合ってもらって、朗読してもらうんです。」

ニュースキャスター「朗読?聞いて覚えてると言うことですか?」

林「私は文字が見えないので、音で覚えてます」

ニュースキャスター「わぁ!すごい、自分じゃ考えられないです、耳だけで覚えるのってすごい集中力使いそうです」

林「なれれば意外と大丈夫なもんですよ」

ニュースキャスター「そうなんですね、でもすごいです!では、次に女優を目指したいと思ったきっかけはなんですか?」

林「きっかけかぁ、小さい頃からラジオドラマとかを聞くのが好きで、お芝居をすることに憧れてきました。でも、皆さん知っての通り、私は目が見えないので、諦めようとしてたんです。18歳くらいだったかな、路上ライブしてる人がいて、そのとき聴いた歌がすごい背中を押してくれる感じがして、諦めちゃダメかもって思ったのがきっかけですね」

ニュースキャスター「そんなことがあったんですね」

林「はい、でも、その人の歌が聴けたのはほんの数回だけでしたが」

ニュースキャスター「何でですか?」

林「成り行きで言い争いになっちゃって、会えなくなったんです。

あーその人に言われて悔しかったからってのも女優を目指したきっかけかも」

ニュースキャスター「今その人に会えるってなったら会いたいですか?」

林「うーん、私は会いたいけど、きっと相手の方はあってくれない気がします」

ニュースキャスター「なるほど、では、最後に、何か番組を見ている皆さんにメッセージありますか?」

林「はい、えー、私は目が見えません、それでも、こうやって夢を追って皆さんの見るテレビに出演させていただいてます。私からいえるのは、どんな辛いこともいつか良い思い出になる。ならなくてもそのぶん強くなれます!みんなが、楽しめる作品をこれからも生み出していきますので、よろしくお願いします!」

ニュースキャスター「はい!以上、林みかさんでした」


 佐藤唖然とする


佐藤「林…みか……?えっ…あのときの」


 佐藤目から涙が流れる


佐藤「あれ?なんで、」


 佐藤、押し入れにしまったギターや歌詞の書いてあるノートを引っ張り出す

 一心不乱にいろんなものを取り出す


佐藤「どこやったんだ、これじゃない、これもちがう、あっこれだ!

『雨晴れ』あぁ、これだ。あの日作った最高傑作。そう思ってただけだけど

 あ、これギターの弦まだいけそうだ、弾けるかな

 確か」


 と終始、一心不乱に用意する


佐藤「溢れかえったゴミとカラス

   段ボールの毛布と見て見ぬ人たち

   派手な落書き、転がった空き缶

   あれもこれも全部汚いものばかりで

   でも」


佐藤歌「見上げた空がやけに青くてさ、嫌いになれなかったんだ

    赤青黄彩られた 同じ世界のはずなのに

    君に見える綺麗な世界は僕にはもう見えなくて

    赤青黄薄汚れた嫌いな世界のはずなのに

    虹がかからない空も雨が降っても

    夕陽がまぶしいときも

この世界は綺麗すぎて

言葉で伝えるには言葉が足りないから

この世界でも嫌いじゃないと思えた」



 歌い終わる佐藤は、醜く泣き崩れる



佐藤「こんな…歌…作ってたんだ

   俺、何してんだ

   ただ、ひねくれたくそ野郎だっただけだ……

   本当は、テレビに出てみたかった、いいやそんな大きくなくて良い

   5人の人に囲まれて路上ライブできれば十分だったはずだ

   あの時間も楽しかったんだ、なのに、俺は……

   いつから、こんな人間になった

   もう、戻れない

   もう、子供じゃないんだ

   ああ、もっとずっと歌い続けたかった」

Googleドライブ版
書木持 沙羅作
「リンゴとか、夕陽の色は赤色とか」
https://drive.google.com/file/d/1fpKUI-kvSUoIu7w8tCfiybxFbSoGTImD/view?usp=drive_link

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