デザインの失敗は悪なのか
退職に際して、何かプレゼントをしたいから、予算1万くらいで欲しいものを教えてくれと上司から言われて、かなり驚いている。元々こっちが菓子折りなど用意しなければならないと、退職経験のある友人に聞こうと思っていたのに、逆にもらえる立場になるとは思っていなかった。私にとっては大きいものの、たかが3年勤めただけだというのに大袈裟な気がする。そして、それはそれとしてかなり困る。一体何を求めればいいのか。
もちろん欲しいものはたくさんあるが、日頃趣味を伏せている身としては趣味嗜好に極振りしてトラベラーズノートを求める訳にはいかないし、かといって退職後に部屋の掃除を兼ねて用意しようと思っていたゴミ箱のような物を求めるのはおそらく違う。いっそ現生で渡してくれれば無駄がないが、それはそれで風情がないということで却下だろうし、言えるような性分でもない。どうしたものか。
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先日購入を悩んでいたマジック:ザ・ギャザリング(mtg)のシークレットレイアーなる特殊なカードだが、一昨日注文し、昨日受け取った。映画『ラストマイル』を見て物流の暗い側面を知った身としては、注文して数日も経たずに届くというのは思うところがあるが、便利なのは便利なので何も言わずに受け取っている。なお、marvelのコラボカードではなく、marvelのカードを探している間に見つけた別のセットである。
最近のmtgは色々と騒ぎになることが多い。例えば、昨年頃からこっち新しいカードセットがほぼ毎月発売され、月刊mtgなどと周りでは言われていた。国産カードゲーム大手の遊戯王などよりはるかに早いペースでカードが来るのだから、結果として供給過多によりプレイヤーが疲弊するという中々ない事態が発生したのである。これについては、公式も認識していて、ペースを落とすということを行うと発表している。その割に先日公開された来年度のカード販売予定は1,5ヶ月に1商品くらいのペースな気がするが。
このハイペース販売によって発生したと思われるのが、強すぎるカードの作成である。カードゲームにおいて、強すぎるカードは大会などで使用を禁止されるのだが、今回問題になったのは発売されたばかりのカードが禁止になったことである。公式から文章も公開されたが、要するにカードのバランス調整を失敗したとのことで、TRPGのゲームマスターとしてエネミーを作ることもある私にとっても身につまされる話ではあるが、それとこれはレベルが違う。公式大会では賞金をかけて争う以上、そのようなことがおいそれと起きてはならない。プロとして、生活をかけて戦っている人もいるのだ。
結局のところ、我々プレイヤーが続々と発売されるカードを追い切れずに疲弊していたように、公式もあまりにも多い新商品を全て管理できず、チェックの網をすり抜けてバグのようなカードが誕生してしまったということである。これをさして、公式はカードデザインが下手になったのではないかとか色々言われている。しかし、私はこれに意義を立てたい。なお、以下はあくまで私個人の考え、感想であることを付記しておく。
mtgは世界最初のトレーディングカードゲームと言われており、それでありながら現在もサポートが手厚く、前述の通り、プレイヤーが疲弊するくらいには新商品を作り続けている。それだけのサポートをし、商品を販売するのは需要があるからである。では、何故その需要があるかといえば、ひとえにmtgが面白いからという結論に達する。
では、何故面白いか。私が思うのは、戦略性である。mtgは、他のカードゲームに比べてできることが多い。詳細は省くが、相手の勝利を禁止したり、逆に自分の敗北を禁止したりといった、ゲームの勝敗という原則に介入することができるカードも存在する。カードをコピーしたり、両面に効果が書かれているカードがあったり、他のカードゲームではできないようなことができるカードゲームなのだ。
いまでこそ前述の勝利禁止、敗北禁止は一般的になったし、なんならそこまで強くないという評価を下されているが、初登場した時の衝撃は凄まじいものだっただろう。そういった、カードゲームとしての当たり前を破壊して、新しいギミックを作っていたmtgだが、当然ながら失敗もある。新しいこと、前例のないことをやろうとすれば、失敗するのは当たり前である。実際、公式から直々に強すぎたとか、弱すぎたとかの理由で失敗作と断じているカードも存在する。
そういったカードはない方がいい。それは間違いない。しかし、それでは新しいカードは、革新的なギミックは生まれない。30年以上の歴史を持ってなお、今もプレイヤーに愛されているのは、失敗を恐れず、失敗してもなおこれまでにない新しいものを作り続けようとする心意気があるからではないだろうか。これだけ長くやっていれば、カードの効果、ギミックにネタ切れが発生してもおかしくない。しかし、そういったことはなく、今まで、そしてこれからも新しいカードは発売されていく。カードデザインの失敗は、慢心することなくさらなる面白さを追求した結果なのだ。
私の周りにもデザインの失敗を指して、公式の悪口を言う者がいるし、私も言ったことがある。デザインに失敗したカードは、それらはないに越したことはないからだ。しかし、それらの存在は翻って、今なお新しいゲームを作ろうとした公式の努力の証明なのだ。それらを持って、私は公式を評価している。結果はさておき、日々新しいカードゲームを作ろうという企業努力は、認められるべきだと思うからだ。
最初に書いた通り、これは私の意見である。基本的に私はカジュアルプレイヤーであるし、大会に出ることもほとんどない。禁止カードの発表がされても、どちらかと言えば環境に変化があるからと楽しんでいるような身である。カードが大量に発売されるのだって、供給がないよりはあった方がいいと、どちらかと言えば好ましいと内心思っていたりもした。日々新しいカードを見れるのは楽しいと。そう言った遊びで楽しんでいる立場だから言えることであって、mtgで生活をたてるプロプレイヤーからすれば、こういったデザインの失敗による禁止カードの制定は許しがたいものだろう。それは当然である。しかし、失敗だけでなく、挑んだ努力を指して評価することも、大事なのではないかと思うのである。
それはさておき、もちろん一人のプレイヤーとして、強すぎるカードは消えろと、そうも思うのである。オーコはくたばれ。