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IT関係の説明会(4/4)

 恐ろしい話を聞いてしまった。伝え聞いたところによると、現職の上司は、毎日23時に上がり、7時に出勤するという生活をしているのだという。伝え聞いただけであり、そんな時間まで会社にはいないので実際どうかはわからないが、これは何かしらの法にふれているんじゃないだろうか。休日にも出勤しているというような話も聞いたし、恐れ慄くしかない。同時に、転職しなかった場合の将来の私の姿だと思うと、申し訳ないがこうななりたくないと思ってしまう。当人は特にストレスもたまらないと言っているそうだが、私には無理である。

 3日間に渡って書いてきた交流会についての記事も、今日が最後である。

 コミュニティのオリエンテーションが終わり、さあ帰ろうとしたところまでを書いた。そのまま席を立とうとしたのだが、邪魔をしてきた者がいた。隣にいた案内人である。

 「もう帰るの?」という案内人に対し、時間もいい頃合いですし、と返したところ、「じゃあ次の資産形成の話をする日だけ決めよう」と言ってきた。ここが勝負ところだったと言える。日程を決めてしまえば、行かないとなぁという気分になるが、それを避ける為に次回の日程は、決めようと言われても提示しないと決意して私はここにきたのだ。ひとまず、仕事が忙しくて予定がわからないのでこの場では決められないと答えた。

 先程からずっと思い通りにいかないことが相当頭にきていたのか、このあたりから案内人の口調が荒くなり、化けの皮が剥がれ始めた。「君にとって絶対に有用な話だからこれだけは聞いて欲しい」と言うものの、私を見る目は瞳孔が開いており、私の目から一切視線を逸らさず、こちらからするとガンギマリ状態なのである。こちらも負けじと視線を逸さなかったので、さながら視線で火花が散るような光景となった。

 資産形成には興味がない、と言ったのだが、それでも食い下がってくる。ましてや、その話をする場所は以前のタワーマンションであるという。今度こそガン詰めされると確信したので、この場で予定を決める訳には絶対いかなかった。

 全てを跳ね除けて帰ろうとする私に対して、今度は「明るい人間になりたいっていう気持ちは無くなったの?ここじゃないとそれを叶えられないよ?」と、最初に会った時に話した私のコンプレックスを解消できるのはここしかないというアピールをしてきた。とはいえ、確かにそれは私の改善したいという点であるが、それはここである必要はない。むしろそういえばそんなことも言ったなぁという程度であり、「ああ、それはもうどうでもいいです」とそっけなく返すだけになった。

 いよいよ切れるカードが無くなったからか、相当不機嫌そうな顔をしつつ、「じゃあ送るよ」とのことで、建物の外までついてくるという。そんなに嫌そうな顔をするなら送らなくていいのにと思いつつ、好きにすれば良いと拒否はしなかった。途中で先の運営をしていたバーテンダーの人に会ったので、別れの挨拶をした。やはりこの人は案内人よりもはるかに話しやすかったので、もしこの人が応対していたなら、もう少し結果は違ったのかもしれない。

 エレベーターで下に降りる途中も、
「LINEで次の話をする日程を改めて合わせよう」
「合えば、合わせましょう」
「合わせよう」
「合えば、ですが」
「合わせよう」
と、無限ループする有様である。もう不自然過ぎる。そこまで必死になっていては、怪しまれて当然というものである。

 建物を出て、ではこれでと別れようとしたのだが、なぜかついてきて、駅まで来ようとする。鬱陶しいことこの上ない。延々と話を聞くべきだということを繰り返してきて、暑さで本当に壊れたジュークボックスになってしまったのかと思った。

 しかし、その途中で「聞きたいことがあれば何でも答えるから」という発言があったので、これ幸いと聞きたいことを聞いてみることにした。

「どうしてそこまで必死なんですか?」
「君の為を思ってるからだよ」

 『君の為を思っている』という言葉ほど、自分のことしか考えていない言葉はない。

 ついでに件の資産形成について、どういうことをするのか、概略を聞いたのだが、それについてもはぐらかされた。「説明するには1時間半かかるけどいいの?」とのことである。それでも何をするのかくらいは言えるだろうと問い詰めた結果、海外の投資信託を買うと言われた。どこの投資信託かと聞くと、香港だという。ついでに投資の本場の国であり、これに比べたらNISAをやっている人は馬鹿だとも言っていた。

 おそらくだが、香港の投資信託とは、メティスと呼ばれる投資信託である。詳細はネットで調べると出てくるが、あまり良い評判を聞かないものである。なにより、運営会社の手数料を目当てに、ネットワークビジネスのコミュニティが会員に入るように迫るということをすることがあるのだという。

 つまりそういうことである。事前にネットでこのコミュニティは香港の投資信託に投資するよう誘導してくるというのを見ていたので、何度目かの詐欺を確信した。これ以上関わる理由はないので、横断歩道でしていた言い争いを切り上げて、帰ることにした。ようやく諦めたのか、追っては来なかったが、それでも最後は笑顔で手を振っていたのがとても不気味に見えた。

 その後は本屋に寄って時間を潰したのち、大事な用事をしに行った。『デッド・プール&ウルヴァリン』の鑑賞である。さすがデップー、安定の面白さである。間違いなく、ジョークのセンスはデップーの方が上である。

 映画館を出てスマホの電源を入れると、LINEで日程に空きができたら連絡をくださいというメッセージが届いていた。あれだけバチバチな状態になったというのに、いつもの文面と変わらない馴れ馴れしい文言を送れるのは称賛に値すると言える。対面のやり取りと違い、LINEでは書いたことが記録に残るので、有事の際に不利にならないよう決して暴言など書かないようにしているのだろう。相変わらず抜け目がない。もちろんこちらからメッセージなど送っていないが、一週間以上経った現在でも向こうから音沙汰がないので、見限ってくれたのだろう。てっきり何食わぬ顔で連絡してくるかと思っていたので、そこは意外である。

 そんな訳で、この推定マルチのコミュニティとのやり取りは終了した。無事逃げ切れたようでなによりである。後になって調べたところ、このコミュニティはいわゆる物無しマルチという奴で、情報商材などを売る系統であるという。それこそ投資関係の情報などが最たるところなので、なおのこと次の資産形成の話を聞きに行ってしまえばアウトだっただろう。海外の投資信託に投資させる為に、仲介料として6桁以上取るとあったので、おそらく新規勧誘者に関しては、そこで投資信託の契約をさせて初めてコミュニティに利益が出るのだろう。案内人が必死だったのもわかるというものである。そこまでやらなければ、タワーマンションのレンタル料だってバックできないのだから。とはいえ、もはや私には関係のないことである。

 今回に限らず、全体を通してこのコミュニティではセンスという言葉がよく飛び交っていた。先の通り、このコミュニティのゴールはエンジニアなので、自分でその業界に転職した私のことは何かとセンスが良いと言っていた。逆に、私が資産形成の話や、コミュニティのイベントに興味を持たない姿勢を取ると、「自分1人で考えて決めてしまっては損しかしない、話も聞かずに自分のできること、限界を自分で決めるのはナンセンスだ」と叱責された。大体そうであるが、こういう時にこういう組織が言ってくることは間違ってはいない。自分1人で決めるよりは、複数の視点で考えた方が、少なくとも視野は広がるというものである。

 だが、それは信頼できる人との間で行うべきことであって、詐欺を仕掛けてくる馴れ馴れしい集団とやるべきことではない。本性を隠して、優しく寄り添う振りをして、その実人から金を巻き上げようとするそのスタンスこそ、何よりもナンセンスと言えるだろう。

 今後もこういった組織バッティングすることはあるだろうが、変わらず騙されることだけはないように気をつけたい。こういう連中は案外どこにでもいる。これを見た方達も、決して騙されることのないようにお気をつけて頂きたい。

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