Autechre『Confield《コンフィールド》』
【はじめに】
エレクトロニカ/IDMの重鎮、Autechre。革新的な音楽をストイックに作り続ける姿はまるで職人のよう。
私がAutechreの虜になってしまったきっかけは、あるアルバムを聴いたからだ。それが、2001年にリリースされた6枚目のアルバム『Confield』である。
間違いなくAutechreの最高傑作であり完璧なアルバムだ。(と私は思うよ)
ポップ志向だった前作LP5とは打って変わって実験色の強い作品である。
凍てつくような冷ややかさ。理解しがたい革新性。
このアルバムの一体何が私の心を掴んで離さないのかを言語化し、自分の中で整理するためにこの文章を書いている。
【全曲の感想】
私はこのアルバムは3つの部に分けることができると考えた。それぞれの部は下のような印象を受ける。
・1部(トラック1〜トラック3):発生
・2部(トラック4〜トラック6):破壊
・3部(トラック7〜トラック9):収束
まずは部ごとに全ての曲に関する感想を書いていく。
〇1部:発生
この部はアルバムの方向性を伝える役割を果たしている。明らかにこれまでと異なる独特な音楽であることを理解させるとともに、ある程度簡素な造りであることによってこの作品の世界観に魅了させる。徐々にヒートアップしていき、3曲目で最高潮に達する。
1.VI Scose Poise
最高のオープニングトラック。金属球が飛び跳ねるような音が鳴り響く中、静かにメロディが奏でられていく。催眠のようで、暗く、なおかつ美しい。夜明け前の辺り一面が青い光に照らされた景色が思い浮かぶ。
2.Cfern
1ミリもノらせる気がない複雑なビートに緊張感の漂う不気味な旋律。尋常じゃないほどリズムが乱れるがランダムというわけではなく、絶妙に制御されている。Max/MSPによる自動生成と人間の手によるコントロールが見事に調和しているのだろうか。非常に耳に残るメロディが繰り返されるため、時々頭の中で延々と流れていることがある。
3.Pen Expers
1部はアルバムのハイライトでもあるこの曲で終わる。エモいという言葉はこの曲のためにある。ノイズまみれの荒れ狂う凶暴なビートに美しく穏やかなシンセが融合される。無機質な電子音でここまで心を揺さぶることができるとは思っていなかった。これを名曲と言わずして何と言うか。
〇2部:破壊
ここからさらにカオスで抽象的な音楽へと発散していく。現代音楽にも接近した既存の様式を破壊した混沌の世界に戸惑い、恐怖さえ覚える。
4.Sim Gishel
継続的なクリックノイズとうめき声のような奇妙な音が広がる曲。しかしリズムは乗りやすく、楽しげな雰囲気さえ感じられる。
5.Parhelic Triangle
生物の声にも聞こえる奇妙な音と不気味な鐘の音色が全体を覆っている。言いようのない不安感が広がっていく感覚になる曲。非常に恐ろしいが魅惑的でもある。
6.Bine
電子音で表現された地獄。もはやこれを音楽と呼べるのかわからない。恐らくConfieldで最も難解な曲だ。私もこの曲は長い間苦手だった。あまりにも狂っている。まともな拍を刻んでいないリズムと、たどたどしく音量すら一定でない気味の悪い音が鳴り続け、全てがぐちゃぐちゃ。そして唐突に終わる。地獄は熱いと思っていたが、実は冷たいのかもしれない。
〇3部:収束
この部では混乱が落ち着き、やがて消滅していく。
7.Eidetic Casein
2部で破壊し尽くされた混沌の世界を放浪しているかのよう。高熱を出しているときに身体がふわふわする感覚にも似ている。独特な気持ち悪さが在るが、アルバムの中では比較的キャッチーな曲だと思われる。
8.Uviol
とても有機的な曲。鼓動のようなビートとメランコリックなメロディが、穏やかな気持ちにさせる。神秘的だが、活力に満ちているようにも感じる。だんだんとグリッチーなノイズが合流し、最終曲への道をひらく。
9.Lentic Catachresis
おわり。ダークで壮大な旅の終わりを感じる最高のラスト。奇怪ながらも秩序的な音が次第に崩壊していき、最後には消滅する。
【総括】
・冷ややかで無機質で静謐。しかしエモーショナルで生命力に溢れている。
・捨て曲がなければ、無駄もない。1つの曲の中でも極限まで無駄が削ぎ落とされている。シンプルだが完全に作り込まれている。
・アルバムを通しての統一感が明確にある(冷たい、無秩序、恐怖、邪悪などの感覚)。
しかし曲はバリエーションに富んでいて、アルバムの流れ(前述した部構成のようなもの)を感じる。飽きさせない。
こういった要素が、このアルバムの魅力だと考えた
【おわりに】
読んでくれてありがとうございました。
最後にAutechreの片割れ、Sean Boothの言葉を引用して終わりたいと思います。