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【美術鑑賞】ヴァロットン黒と白展

以前、三菱一号館美術館で「ヴァロットン黒と白」展(会期:2022年10月29日~2023年1月29日))の話をしたいと思います!

知らなかったんですが、三菱一号館美術館は、ヴァロットンの作品を約180点という世界有数のコレクション数を保有しており、かなり多くの作品がありました。

ヴァロットンという画家を知らなかったのですが、ナビ派で木版画として活躍しており、ポスターで有名なロートレックと同時代を生きました。ロートレックと共通の友人も多く、雑誌などの表紙を作成したりと共通点が多い人物です。

木版画は、小学校だか中学校だかの授業で作成したことがありますが、線を掘ったり、擦るときと掘るときは逆向きになるので、完成を想像しながら作成するのが難しいと記憶しています。ヴァロットンの作品を見ながら作成工程を考えると、「よくこんな空間把握ができるよな〜」、「この線を掘るのって難しいけどどうやってやったのだろう」と技術や構成力にただただ驚かされるばかりでした!

デザインも面白く、すごく楽しめる展示となっていました!

ところどころネコのプロジェクターがあり隠れたりジャンプしたりして遊んでいたり、少女が隠れて案内してくれたり、愛書票のフクロウが宿木に止まっていたり、次の展示に行くのに楽しめるようになっていて、そこにも注目してみたら凄い楽しめました。

ヴァロットンとは

●名前:フェリックス・ヴァロットン(1965-1925)
●出身:スイス・ローザンヌ
●芸術グループ:ナビ派
●主な技法:木版画

ヴァロットンは、スイス・ローザンヌ出身の画家です。スイス・ローザンヌは、フランス語圏の地域で、スイスと言われたら想像する通り、アルプスの山に囲まれ、綺麗な湖がある自然豊かな場所です。世界遺産もあり、日本の西洋美術館も手がけたル・コルビュジエの出身地であり、彼が両親のために設計した「レマン湖畔の小さな家」は、トラスト・コンチネンタルサイトという大陸を跨いだ世界遺産群として、西洋美術館とともに、2016年に世界遺産に登録されています。

話はそれましたが、ヴァロットンはこの自然豊かな場所で育ち、12〜14歳の頃から絵を描き始めます。17歳になりパリのアカデミー・ジュリアンに入学し、本格的に絵を描き始め、亡くなった60歳まで活躍していました。

彼の経歴の中で注目したのは、1891年にアンデパンダン展に初出展しているところです。アンデパンダン展は、1884年にサロンの審査に落選したスーラやシャニックを中心に誰でも出展できる無審査の展示会で、ヴァロットンが初めて木版画を作成し、出展しています。アンデパンダン展は、スーラやシャニックだけでなく、ルソーやピサロ、ゴッホ、セザンヌ、ゴーギャンなど僕が大好きな画家がたくさん参加しており、改めて、アンデパンダン展の凄さを思い知りました。

ヴァロットンが生きた時代

1865−1925年は、日本で言うと江戸時代末期の薩長同盟(1866年)暗いから大正時代の普通選挙法と治安維持法が制定されたある意味混乱期です。

美術面で言えば、浮世絵から高橋由一や黒田清輝、萬鉄五郎や岸田劉生など、近代化が進み、芸術面でも変化していきました。

西洋美術史では、写実主義から始まり、印象派などから始まり、象徴主義、新印象派、ポスト印象派と派生し、また、ロダンなど近代彫刻も生まれました。

特に、ヴァロットンが生きた時代、ジャポニズムが流行しており、作品群でも、にわか雨の作品が多く、浮世絵に影響を受けたモノだと私は思いました。

展示構成

会場案内図!

CHAPTER I「外国人のナビ」ヴァロットンー木版画制作のはじまり

タイトルの通り、木版画制作の始まりということで、はじめの木版画である自画像など、展示されていました。本当に木版画かと思うような色の強弱や線の細かさ、流れるような線は、圧巻と言わざるおえません!

最初は、自画像など人物が多かったですが、終わりの方ではスイスであろう山岳風景などがありました!黒と白だけなのに、太陽が輝き、なんとも言えない美しさを醸し出していました。また、雲の曲線や直線も綺麗で、どうしたらこうやって掘れるのか疑問になるような美しさでした。

「《1月1日》のための板木」という実際に使った板木が置いてありました。それを見ながら掘っているところを想像して黒いところを残して白いところを掘ることを考えると途方もない技術だし、こんなに綺麗に掘れるものかと超絶技巧に驚かされる。

CHAPTER II パリの観察者

表情が豊かな版画。
タイトルをもとに考える。

このchapterは撮影OKな場所です。

ここはブラックユーモアが多く、たとえば、『可愛い天使たち』というタイトルなのに連行されているヒゲをはやしたおじさんと警官を取り囲む子供たちがいて、タイトルとは裏腹にブルジョアの子供たちが無垢な攻撃というのでしょうか?可愛い天使なのに、連行されている髭を生やした貧しいおじさんを笑いながら見ている姿はなんとも言えない状況を作っています。

タイトルごとに複数の絵が流れる

上の写真はプロジェクターでたくさんの絵が流れます。左がタイトル「罪と罰」22枚流れ、右はタイトル「群集」で30枚流れます。見ていると間接的に死や社会への批判など風刺がぽくなっており、当時の社会情勢がわかる作品となっています。

CHAPTER Ⅲ ナビ派と同時代パリの芸術活動

ここでは同時代のパリの芸術家である、ボナール、ドニ、ロートレックの絵も展示されていました。特に、真ん中にあるガラスケースに画集の表紙などが置かれており、当時のものが見れるので興味をそそる展示となっていました。

CHAPTER Ⅳ アンティミテ:親密さと裏側の世界

この展示最大の見どころである「親密さと裏側の世界」です!

パンフレットや広告でも使われている男女をテーマにした<アンティミテ>版画集の10作品や6作品からの連作<楽器>「怠惰」など興味をひく作品ばかりです。

親密さと裏側の世界は、秘密の恋愛ですが、こんなに優美で魅力的で甘美な時間があるのかと思うほど、魅力的でなぜか優しい作品に見えました。いけないことやスリルなことこそ燃え上がると言いますが、人々の魅力が上がるいけない恋の作品は本当に美しかったです。

CHAPTER Ⅴ 空想と現実のはざま

ここでは、愛蔵票が展示されていました。当時富裕層が本をコレクションした時に、作家に愛蔵票というスタンプみたいなものを作らせて本に添付することで価値を上げていました。可愛い小さい版画で絵本を見てるようで面白い構成でした。

<万国博覧会><これが戦争だ!>は、人々の行いを皮肉っている作品で、画家がそれぞれの出来事をどのように感じたかがみることができます。

特別関連展示

展示の最後に、三菱一号館美術館の姉妹館提携/アルビ・ロートレック美術館開館100周年の特別関連展示ということで、「ヴァロットンとロートレック女性たちへの眼差し」が見れました。

2人の出身の違い、デザインの違いを女性たちへのことなる眼差しに注目した展示です。昔、ロートレックの展示も見たことはありますが、ヴァロットンと比較することでロートレックがどのような作品を描いてきたかわかる気がしました。

気に入った作品

美しい夕暮れなどの風景木版

「ブラインドホルン」
おそらく草原からアルプスや雲を描いた木版です。基本的に僕は風景画が好きです。この作品では、手前に草原、背景に山と空と雲という好きな構造をしていました。特に、雲のもくもく感は木版とは思えない柔らかさをしており、見ていて和やかな気持ちになりました。

「マッターホルン」
これも「ブラインドホルン」と同じ構図ですが、山がさらに尖っていて、険しさを感じます。山の面積は少ないのに存在感があり、山の影がミステリアスな感じを漂わせています。雲は、巻貝のように可愛く、どことなくファンタジーさを感じるようになっており、黒と白なのにカラーの情景が浮かんでくるようです。

「ユングフラウ」1番お気に入り
三日月がある夜の山の景色です。黒と白は夜景と相性がいいなと思いました。見ていてコーヒーを飲みながら眺めたくなる美しさをしており、ポストカードを買って黒い額をつけて家に飾ったほど気に入りました。近くにある「美しい夕暮れ」や「モンブラン」という作品も良かったですが、一番惹かれたのはこの作品でした!

「愛書家」
この作品は、本棚の前に立った男性が描かれています。顔の部分はランプで隠れており、ランプマンが本棚から本を取っているように見えます。愛書家という通り、本が好きで、好きすぎて、夜も読めるようランプが顔になってしまったかと思うような描かれ方をしています。現代風にいうと、Kindleが好きすぎて顔がスマホになったかのようですね。

「怠惰」
ベットに横たわる裸婦がベットに手をつき立っている猫と戯れています。怠惰というタイトルがしっくりくる戯れがなぜか微笑ましく感じました。クッションやベットのシーツも丸だったり、四角だったり、色々な模様があり、オリエンタルな感じが出ています。木版だからでるリアルな装飾が魅力的です。

アンティミテから

希少性を崩さないために版画の一部を切り取り出版社に提出していた。

「嘘」
ソファーで抱き合う男女。横には台がありカップや瓶が置いてある。後ろの壁紙が縦の柄になっており、男女を浮き出している。ホテルの一室なのだろうか。人目を憚らず抱き合う2人。久しぶりに会ったのか女性は男性にもたれ掛かり、男性は優しい顔で見守っている。幸せな感じが伝わってくる作品になっています。

「もっともな理由」
男性の書斎だろう、男性は机を前に座り近くにいる女性にキスをしています。恐らく女性は秘書かお手伝いさんなのでしょうか。タイトルから女性が机に何かを置き、その刹那キスをしたのだと思います。女性は机に書類を置くことを理由に、男性は受け取ることを理由に秘密の恋を楽しんでいたのだろうか・・・

「5時」
朝の5時なのか夕方の5時なのかわかりませんが、僕は服の脱ぎ方や雰囲気から夕方の5時だと思いました。仕事を終わって急いで会いに行きそのまま愛し合うというドラマだと思いました。5時=仕事終わりと考えた僕は社畜かもしれませんが、そういう捉え方をしました!笑 皆さんはどうでしょうか。

「お金」
3分の2が真っ暗な作品で、女性の白いドレスと肌が際立つ作品です。エレガントな作品で、男性は言い訳をし、女性は凛とした表情で遠くを見ており、「言い訳」というタイトルだと思いましたが、お金でした。なぜお金なのか想像しても答えが出てこないですが、画面を大胆に使った綺麗な作品です。

作品の技法

ここでは、展示で出てきた技法について簡単に備忘録程度に書いておきます。

ドライポイント

銅版画の技法の一つで、銅板に彫る彫刻凹版技法です!ドライとポイントという技法を合わせた名前で、それぞれ以下のような名前みたいです。
「ドライ」   :腐蝕液を使わない。
「ポイント」:先の尖った銅版を削るキリみたいな道具

この言葉を合わせて「ドライポイント」という

エッチング

銅などの金属に、酸などの化学薬品を使用して腐食させる凹版技術の一つ。

リトグラフ

リトグラフ派、石版画という意味です。調べても説明が難しいですが、削るのではなく、描いて、水と油の性質をうまく使って作品を作るようです!これは、動画見た方が早いかもです・・・すみません。

ジンコグラフ

亜鉛版印刷とも言われ、亜鉛版を掘って印刷する。やっぱり技術はよくわからないですが、はっきりと綺麗な線が描けるようです。

お土産が可愛い

ポストカードのフレーム。こういうの欲しかった!
ヴァロットンの作品が映える!
表紙も白と黒でいい感じ!
気に入ったポストカードを購入!コレクションに!

展示概要

●期間:2022.10.29~2023.1.29
●展示場所:三菱一号館美術館
●学芸担当:村上菜穂子さん(三菱一号館美術館主任学芸員)
●開館時間は曜日によって変更があるのでホームページで確認してください。
●公式ホームページ「https://mimt.jp/vallotton2/」
●アクセス

いつ見ても素敵な煉瓦造りと街灯

ランチするなら

近くのA16というイタリアン料理すごい美味しいのでぜひ行ってください!
あと、ロブションのランチも美味しいのでリンクしておきます!

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