バルコニーの手すり高さの違法性

◆判決が出た

本日の毎日新聞の記事によれば、2019年8月に、アパホテル大阪肥後橋駅前店22階の、柵の高さ72センチのバルコニー(客室の床から73センチの高さにある腰高窓の先)から誤って落下して亡くなった男性の訴訟に対して、大嶋洋志裁判長は、バルコニーの柵の高さは建築基準法上、違法な状態だったと認定し「転落を防ぐための安全性を欠いていた」と指摘した。また、「転落防止の必要があることは非常時も通常時も変わらない」とした。

◆判決について

私個人としては妥当な判決と考えます。その根拠について述べていきます。


◆法律ではどのような記載となっているか

■建築基準法施行令第126条第1項(施行:昭和34年12月23日)-①
屋上広場又は2階以上の階にあるバルコニーその他これに類するものの周囲には、安全上必要な高さが 1.1m以上の手すり壁、さく又は金網を設けなければならない。

◆バルコニーと記載されている

昔からある法律です。法律ではバルコニーと記載されています。ただし、バルコニー全てに手すりを設けなければいけない訳ではありません。そもそも建築基準法に「バルコニー」は定義されていません。例えば、単なる室外機置場などもバルコニーと云うことがありますが、そこにいく人は点検時の設備屋さんくらいでしょう。なので、そこの手すりは1.1m以上なくても法律違反ではありません。もちろん危ないので1.1m以上あった方がいいでしょう。

◆避難上有効なバルコニー

前文で「バルコニー」は定義されていないと記載しましたが、「避難上有効なバルコニー」は定義されています。ただ、今回のバルコニーが「避難上有効なバルコニー」であれば、ここまで裁判が長引かないと思いますので、ここではそうではないバルコニーと考えることにします。

◆困った時の「防火避難規定の解説」

建築基準法は最低限の基準です。なので、全国の建築行政や民間確認検査機関などの専門家が法律を解説した書籍があります。それによると、このように記載されています。(注)販売されている書籍なので、文章のみ記載

■防火避難規定の解説:22 屋上広場等-②
令第126条第 l項に規定する「バルコニーその他これに類するもの」とは、主として 避難施設及び避難経路の部分である階段の踊場及び吹抜きに面した廊下等を対象とする ものであり 、2階以上のすべての部分に適用されるものではない。 なお、共同住宅や不特定多数の人が利用する特殊建築物では、転落防止のために下図 を参考に手すりを設置することが望ましい。

◆「バルコニーその他これに類するもの」=「主として・・避難施設及び避難経路・・等」

これらのことから、今回のバルコニーが「避難経路」であったかどうかが論点になると思われます。毎日新聞を含めて各新聞の記事には「避難経路」と記載されています。なので、当該部は令第126条第 l項に規定する「バルコニーその他これに類するもの」と判断されたものと思われます。

◆忘れてはいけない 特定行政庁=大阪市 の取扱い

建築基準法において、特定行政庁=大阪市の取扱いは重要です。なぜなら、裁判等ではない平常時、違法であることを決めることが出来るのは特定行政庁=大阪市だからです。

■大阪市建築基準法取扱い-③
2-32 高さ 1.1m 以上の手すり等を要するバルコニー等の 適用範囲
令第 126 条第 1 項の「バルコニーその他これに類するもの」とは、屋外階段の踊場、廊 下、屋上、劇場・観覧場の客席等である。ただし、安全上の処置を施せばこの限りでな い。 また、高さに関する詳細は、『建築基準法及び同大阪府条例質疑応答集[改訂 7 版] / 大阪 府内建築行政連絡協議会』2-40 によるものとする。

◆「大阪市の取扱い」は「防火避難規定の解説」と文言が異なる

大阪市の「バルコニーその他これに類するもの」とは、屋外階段の踊場、廊 下、屋上、劇場・観覧場の客席等である。ことから、屋外階段が強調されています。そして、文の最後に等とあります。今回のバルコニーを大阪市がどのように判断しているのか気になります。


◆①~③から判断する

■建築基準法施行令第126条第1項(施行:昭和34年12月23日)-①
■防火避難規定の解説:22 屋上広場等-②
■大阪市建築基準法取扱い-③
大阪市の取扱いについての詳細は分かりませんが、記事の通りバルコニーが避難経路であるならば、非常時には人が通行します。非常時に危ない場所となってはいけません。なので、手すり高さは1.1m以上必要であったと考えます。

◆アパホテルは控訴するとのこと

アパホテル側は控訴を予定しているとのことで、最終的な司法の判断を見届けたいと思います。それによって、ホテルの管理者のアパホテルだけでなく、ホテルを設計した設計者及びホテルの検査済証を交付した確認検査機関も罪に問われます。






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