
OpenAIがSTARGATEとOPERATORを発表!加速するアメリカ合衆国へようこそ!
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どうもみなさん、ここ3日間は人工知能界隈が本当にエキサイティングでした。Project Stargate が発表され、OpenAI の Operator がローンチし、さらにドナルド・トランプによる複数の大統領令や大統領のアクションが飛び交いました。中には見逃した方もいるかもしれませんので、ここで一通りまとめてお話しします。
まずはProject Stargate の概要から。ご存知ない方のために簡単に説明すると、テキサス州に10か所、もしかしたら20か所ものデータセンターを建設するという計画が発表されました。総投資額は今後4年ほどの間に最大5000億ドルになるとも言われています。これはいくつかの大手テック企業やSoftBankとの連合体によるものですが、さらに私たちが後ほど詳しく話すように、国家による後押しも入っていて、単なる民間の動きにとどまらないという点が非常に大きいです。こうした官民一体の大規模プロジェクトは、第二次世界大戦中のマンハッタン計画以来ほとんどなかったほどです。歴史的規模という意味でも、Project Stargate とマンハッタン計画には多くの類似点があります。
まず第一に、桁外れのスケール感です。こんな額は今まで見たことがないですし、まさに一世代に一度あるかないかの巨大プロジェクトと言えます。マンハッタン計画やアポロ計画と同列に語られるような規模ですね。「10年以内に人類を月に送り無事地球に帰還させる」というアポロ計画に対して、今回は「4年以内にスーパーインテリジェンスを実現する」というような感じです。とんでもない話ですが、なぜか世間はまだ大騒ぎしていないですね。
さらに、非常事態宣言や大統領令の組み合わせによって、さまざまな障壁が取り払われています。ここ4年ほど、みんなが最も懸念していたのは、規制が厳しくなりすぎてAIの進歩が遅れることでした。欧州連合(EU)は「とにかく規制だ、さらに規制だ、スローダウンしよう」という方向に舵を切り続けて、自ら足を引っ張っている状態です。そのため、この15年間でEUのGDPはアメリカの半分程度の伸びにとどまっています。もちろんEUには優れた民主的制度もあるでしょうが、世界的地位の面では失速している。ここで私が言いたいのは、世界全体を巻き込んで共倒れするような状況に陥る可能性もあるということです。EUが採っているような規制路線は、国力も生活水準も下げかねず、しかも地政学的なパワーを弱めるだけになりかねません。それが私の持論です。
一方で、今回のプロジェクトは民間企業と政府が強力に連携し、インフラ整備やエネルギー確保のための支援も受けながら推進されようとしています。これほど大規模に連携が進むのは本当に珍しいことです。特にデータセンターの電力供給問題は非常に大きいですが、こうした障壁も一気にクリアにされつつある。何しろこれらのデータセンターは、それぞれ5ギガワットもの電力を消費する見込みなんです。原子力発電所5基分に相当するエネルギー量ですよ。
次に、もう一つ大きなニュースとして、OpenAI が Operator をローンチしました。これは彼らがCUA、つまり “Computer Using Agent” と呼んでいるものです。技術的な観点で最も重要なのは、コンピューターを使うエージェントというアイデアは、要するにユニバーサルなAPI、ユニバーサルなユーザーインターフェースだという点です。Salesforce に統合するにも、別のシステムに統合するにも、いちいち個別のAPIを作る必要がなくなる。そもそもマウスとキーボードがあれば人間があらゆる操作をしているわけですよね。実は10年くらい前に私がCiscoにいた頃、隣のチームでも似たような研究をしていたんです。要は「人間が使っているウェブサイトやマウス・キーボードを、そのまま機械に使わせればいいじゃん」という発想です。そうすればあらゆるシステムを横断的に操作できるわけです。
ここで注目すべきもう一つのポイントは、これがなぜヒューマノイド・ロボットの動向とも並行して進んでいるかという点です。人間が使うために最適化された世界──ドアの高さやドアノブの位置、車の操作形態など──そういう環境をそっくりそのままロボットに使わせられれば、既存のインフラを変えずにすむ。いわゆる「ドロップイン技術」というやつですね。ロボットが肉体労働を代行するにも、人間を前提とした道具や機械をそのまま使えるのは大きい。ただ長期的には、ロボットならではの形状や能力を活かせる新しい製品やインフラも登場するとは思います。でもそこに至るまでには、現行の人間用環境をそのままロボットも使えるようにしておくほうが圧倒的にスムーズなんです。
同じことが、今回のOperatorのようなソフトウェアの世界にも言えます。現在存在するあらゆるプログラムがマウス・キーボード・モニタという三種の神器で操作できるのだから、これをロボットの手でもAIのエージェントでも使えるようにしてしまえばいい。最終的には、それらが24時間365日、しかも博士号レベルの知能で働くようになる。そういうビジョンがここではっきり見えてきているわけです。
さらに言えば、こうした半自律型のAIを商用レベルで大規模にリリースしたのはこれが初めてと言っていいでしょう。今までも自律型AIや半自律型AIの研究はありましたが、「普通の木曜日か金曜日にスマホ新機種でも出すかのようにさらっとリリース」してしまったのは初めて。iPhoneが登場したときと同じレベルの衝撃なのに、みんなそこまで気づいていないように思います。
また、注目すべきはすでにDoorDashやUberと連携している点です。つまり、商業的なユーザーから「こんなことができると助かる」「ここが使いづらい」といったフィードバックが即座にOpenAIにフィードバックされ、その結果、非常に短いサイクルで改良・進化していく可能性が高いわけです。しかも現時点ではGPT 4o Visionだけを使っているようですが、一部では「o1を統合する動きもあるらしい」と言われています。多分もっと賢いモデルをバックエンドに階層化して組み合わせるんじゃないかと思いますが、そこはまだはっきり分かりません。
もちろん競合相手も必ず出てきます。中国や他国が01モデルをコピーするのに数か月しかかからなかったように、GoogleやMeta、そして中国のDeepSeekなどもすぐにOperatorに対抗する技術を出してくるでしょう。こうした激しい競争は良いことで、後でまた触れますが、イノベーションを加速させる大きな要因になります。
さて、本題に戻る前にちょっと宣伝させてください。私の活動やリンクをすべてLinktreeにまとめています。概要欄にもリンクを置いていますし、私のYouTubeチャンネルのホーム画面にも情報を載せてあります。興味ある方はぜひLinktreeをチェックしてみてください。勉強用コミュニティやDiscord、Patreon、Substack、Twitter、YouTubeチャンネルなど、実はいろいろやっているので。「Leaders of AI」というポッドキャストも運営しています。興味があればのぞいてみてください。では話を続けましょう。
ここからは政府サイドの動きについてです。少しでも面白くお話しできるように頑張ります。まず第一に、私がこれを知ったのが昨晩遅くなんですが、実は20日に出ていたニュースで、すでに4日ほど経っている情報です。何かというと、トランプが非常事態法のようなものを出して「AIの需要に対応するために電力が必要だ」という宣言をしたんです。具体的には、10万件の雇用を創出し、石油やガス、原子力、そして再生可能エネルギー(太陽光や風力)を大幅に増強するというもの。これだけのインフラを整備するなら当然雇用は増えますよね。
でもここで最も重要なのは「エネルギーの豊富さ」を実現するという点です。これは経済全体にも波及効果があるんです。経済学には「ジュボンズのパラドックス(Jevon's Paradox)」という概念があります。何かのコストが安くなると、その需要が逆に跳ね上がり、結果的に消費が増えるという現象です。テック業界では「潜在的な需要」あるいは「未充足の需要」とも呼びます。あるものが10倍安くなったら、今まで使えなかった場面でも一気に使えるようになる。そうすると需要がそれ以上に高まるんです。
AI はとてつもなく電力を消費しますから、もし火力発電に頼るだけだと持続可能性の面で問題が大きい。そのため原子力や太陽光、風力といったクリーンエネルギーを爆発的に増やすことが求められる。そしてProject Stargate が核融合の研究にも拍車をかければ、将来的には太陽光発電すら不要になるかもしれません。そもそも太陽光だって、何百万マイルも離れたところで起きている核融合のエネルギーを使っているわけですから、それを地球上で直接やってしまおうというわけです。一方で、素材工学の進歩によって、太陽光パネルが1000倍安くなる可能性だってある。そうなれば核融合のメリットよりも太陽光のほうが有利、というケースも出てくるかもしれません。いずれにせよ、「AIのための電力確保」という名目でエネルギー・インフラ全般が一気に整備されるのは面白い動きです。
続いて、トランプはAIの規制を撤廃(デレギュレーション)しようとしています。これはかなり物議をかもすと思います。何しろバイデンが出したAIに関する大統領令は、アメリカ史上最も長い大統領令だったのですが、それをトランプが丸ごと「無かったこと」にしたわけで、皮肉と言うか何と言うか。
ただ、いくつか注目すべきポイントがあります。まず「不必要に過度な要求を取り除く」という方針を打ち出していて、要は「好きに作れ」というデレギュレーションです。次に、「イデオロギー的に中立であること」というのも強調されています。政府が企業に対して、「こんな思想に合わせろ」とか「こういう社会的アジェンダを推進しろ」といった介入をしないという姿勢です。これは中国の方針と真逆ですね。中国は公式方針として「AIは共産党の理念を最優先に守らねばならない」としていますが、アメリカは「真実探求やイノベーションを優先する」という方向に舵を切った。
さらに言うと、AIの安全性について悲観論を唱えていた人たちが恐れていた「AIが勝手に暴走する」といったことは、今のところ実際に起きていません。もちろん「証拠がないだけで、そのうちやらかすかもしれない」という意見もありますが、現時点ではそれを裏付ける科学的論文やコンセンサスが見当たらない。むしろAIが正しく動作し、望まない挙動を防ぐための新しい研究は山のように出ています。「AIが勝手に自分を再プログラムした」というような話も、実は人間側が「何が何でもこれを達成しろ」という命令を与えた結果だったりするので、AIが本質的に邪悪だという根拠とは言い難い。そういう意味では、悲観論者が提示すべき証拠が全然出てこないので、彼らは隅に追いやられている状況です。
そしてもう一つ、トランプは暗号通貨(クリプト)の規制緩和にも踏み切りました。長期的に見るとこれはアメリカにとって非常に有利になるでしょう。暗号通貨やブロックチェーンは金融分野にとって歴史上最高の技術革新とも言えるもので、特に今回目立ったのが「CBDC(中央銀行デジタル通貨)の禁止」です。私はこれには正直驚きました。「FRBが自前のコインを発行すべき」とか「中央銀行は暗号通貨を取り入れるべき」という声もあった中で、それを完全に排除したわけです。
この流れは『The Bitcoin Standard』という本で指摘されているような理念に通じるもので、要するに初めて普通の市民が通貨をコントロールできる時代が到来するかもしれない。政府による通貨発行に頼らない形で市場が動くなら、今まで政府や中央銀行がやっていたマネーサプライの操作がなくなる。そうすると民主主義にとって非常に大きな変革につながるんです。歴史的に見ても、今回の大統領令は「民主的なルールの再構築」の始まりとして教科書に載るだろうと、私は強く思っています。
ここで「クリエイティブ・ディストラクション(創造的破壊)」という経済学の概念に話を移します。これは新しい技術やパラダイムが古いものを根こそぎ置き換えるというプロセスですが、今回はまさに政府がその創造的破壊を全面的に後押ししているといえる。私自身はリベラル寄り(プログレッシブ)な人間ですけど、今回のような局面では民主党が政権を握っていたらここまでの大胆な舵取りはできなかったかもしれないと思っています。民主党は往々にして、現状維持やステークホルダーの既得権益に配慮しがちです。トランプ政権は、労働組合が「AIで仕事が奪われる」と反対しても「いや、それが狙いなんだ」と言わんばかりに、まさに破壊的に突き進んでいる印象があります。バイデン政権からトランプ政権へと移って、トーンがガラリと変わったのは本当に顕著です。
また、「文化戦争(Culture Wars)の終焉」という話も、AIとどう関係があるのかと思うかもしれませんが、実は大いに関係があります。中国はイデオロギーを重視する方向に舵を切っていますが、アメリカは「産業振興とイノベーション優先」に大きく転換した。これは「国家主権重視」という政策姿勢の表れでもあります。ある人がネットで指摘していたのですが、今までアメリカは社会的・文化的なイシュー(LGBTの権利だとか、中絶だとか)にかまけて、肝心の技術や経済政策を見失っていた部分があった。でもトランプ政権はそういう「煙幕」を払って、「とにかく世界をリードする技術を作ろうじゃないか」という方向へ一気に走っている。そこが中国と真っ向勝負になるわけです。
ここで『Tragedy of Great Power Politics(大国政治の悲劇)』という本や、『Why Nations Fail(国家はなぜ衰退するのか)』も引き合いに出したいのですが、今回のトランプ政権の動きは、これらの本の理論通りに進んでいるように見えます。大国同士が競う時代には、官民一体で巨額の投資を行い、規制を大胆に緩和してイノベーションを全力で推し進める必要がある。中国がEVやロボットで台頭しているなら、アメリカもそれを上回る勢いで技術革新を進めなければならないわけで、それを実現するために私たちはここ数十年の眠りから目覚めなければならないというわけです。例えばGoogleは「Attention is all you need(Transformer論文)」を自ら世に出しておきながら、社内でいまいち本腰を入れなかった。まさにそこが「緩み」と言われる部分で、トランプ政権はそこを壊そうとしているのでしょう。
つまり、イーロン・マスクとサム・アルトマンの対立をどう見るか、という話もよく聞かれますけど、私は「どちらのチームでもなく、競争そのものを歓迎する」という立場です。競争こそが大きなイノベーションを生むわけです。そして、AIと暗号通貨のデレギュレーションによって引き起こされる競争は、アメリカの民主主義システムを根本的に作り変える可能性がある。どういうことかと言うと、まずAIによって「認知資源」が爆発的に増え、人類の知能がボトルネックにならなくなる。さらにブロックチェーンが進化すれば、DAO(分散型自律組織)のような新しい意思決定の仕組みが普及し、あらゆる財産権の透明化が進む。そうなると民主政治の根本が変わるんです。結果として、アメリカが今後50年の世界覇権をほぼ確実なものにする可能性も出てきた。ただしこれは「スタートを切った」だけであって、これでレースに勝利が確定したわけではありません。ここから先も色々と間違いを犯す可能性はあるので、油断は禁物です。
最終的には「Civilizational Operating System Upgrade(文明のOSアップグレード)」と言えるような事態が起きるだろう、と私は考えています。AI、暗号通貨、ロボット、そういった技術の組み合わせによって、世界はさらに小さくなる。インターネットで国境の意義が薄れたのと同様に、ロボットやAIの時代には国境の意味合いがいっそう希薄になるでしょう。カナダとアメリカの国境など、すでに経済的にはあまり機能していないから統合したほうが合理的かもしれない。欧州連合もそうやって統合してきたわけですが、EUの場合は規制が厳しすぎて失速気味なのが残念。とにかく、これからは「ポスト労働経済」の資本主義と、ブロックチェーンによる民主主義(あるいはアルゴリズム的民主主義)へと移行する時代になるのではないか。私はそう睨んでいます。
以上が今回の話のまとめです。最後までご覧いただきありがとうございました。では、乾杯。