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ハマかぶれ日記252〜転ぶ

 老いとは、こういうことなのだろう。先日、作家の黒井千次さんが読売新聞で月に1回、連載しているコラムで最近、よく転ぶと嘆いていた。今朝、それを実体験した。
 朝、いつもの散歩コースの善福寺公園を歩いていて、上の池の地畔を巡るコンクリートの遊歩道でつまずき、前のめりにうつ伏せ状態で派手に転がったのだ。右手に愛犬・千のリードを持っていて、それを放さなかったものだから、顔の右側と体の左側面で主に衝撃を受け止めたようで、右目の下と右口蓋、唇の右下、左掌、左胸、両膝に擦過傷、打撲傷ができた。
 パートナーは以前、一緒に山梨の小山をトレッキングしていた時に筆者が脳貧血を起こして倒れたことがあったのを思い出し、そちらを心配したようで「すぐに引き換えそう」「また貧血じゃない?」と、転んだ本人以上に気遣ってくれた。おかげで早々に引き上げ、シャワーで傷口を洗い、薬で消毒することができた。転んで4時間後、これを書いている今、朝9時の時点でまだ傷口はヒリヒリし、大きく腫れた右膝はズキズキするが、生活に支障があるほどではない。予定通り、約束した昼飲みの会にまもなく出かけるつもりだ。
 それにしても、黒井さんは92歳、当方は69歳。しかもつまずいた所は、打設のコンクリートが道を横切り、わずか1センチ程度くびれて固まって出来た、ごく小さな段差だ。「今からこれじゃあ、老い先が思いやられるなあ」と、なんとなく気分が沈む。体の傷より、心の傷の方が重くのしかかりそうだ。
 だがよくしたもので、1時間ほど前、「そういえば、きょうの大谷選手の試合は日本時間の早朝開始だったなあ」と思い出して、大リーグ・ドジャースとマリーンズが対戦するテレビ中継にチャンネルを合わせたら、ちょうど9回表2死1、2塁の好機で大谷が6度目の打席に立ったところだった。なんとそれまで5打数5安打7打点2盗塁の大活躍で、1シーズンの本塁打と盗塁がともに50を超える大リーグ史上初の50ー50(フィフティーフィフティー)を達成したという。
 その時点で14対3の大差。相手チームはもう試合を捨て、きちんとした投手を使うのを惜しんで野手にマウンドを任せていた。バッティング練習のような球しか投げないから、中継のアナウンサーが「もう1発、あるかもしれませんね」と期待していたら、その通り高めの直球を振り抜き、右翼スタンド上段に放り込んだ。これで6打数6安打10打点。もう、口をあんぐり開けるしかない驚異的なパフォーマンスだった。
 気持ちがいい。テレビとはいえ、歴史に残る試合に立ち会えた爽快感は、野球ファン冥利につきる。アクシデントで受けたダメージを十分にケアしてもらった。
 わが横浜ベイスターズは昨夜の巨人とのナイターを6対0で落とした。ゲーム差6・5。残り14試合とあっては、流石に優勝の2文字を掲げ続けるのはおこがましいだろう。あれも野球なら、これも野球。転落や高揚、ドラマの種はあちこちに転がっている。転がり方次第では、とても痛いけれど。
 
 
 

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