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ハマかぶれ日記261〜カプセルホテル連泊記

 大分から福岡を巡る3泊4日の旅から昨日、杉並に帰ってきた。ちょうど帰宅時間に始まったセ・リーグCS第1ステージの、わが横浜ベイスターズ対阪神タイガースの一戦に慌ただしくテレビチャンネルを合わせたら、阪神の中軸・森下の本塁打で開始早々に失った1点のアヘッドを引っくり返し、結局、10対3の大差で寄り切った。これで第2ステージへの進出が決定、16日、東京ドームへ乗り込んで日本シリーズ進出をかけて戦う。
 ローマの大将軍、ジュリアス・シーザーことユリウス・カエサル(紀元前100〜44年)の故事に従えば、「帰った、見た、勝った」といったところか。気分を良くしたお陰で、昨夜は久しぶりにぐっすり眠れた。トイレにも行かず連続7時間とは、最近ではあまり記憶のない爆眠だった。
 深い眠りの理由は、もう一つある。11日、12日、福岡の2泊を人生初のカプセルタイプのホテルで過ごすことになった。睡眠時間がかなり削られたのだ。
 今回の旅はもともと、前回の日記に書いたように、生前お世話になった大分の故人の3回忌の仏前に手を合わせるためで、福岡は付け足しだった。時間的な余裕がなかったのと3連休にかかっていたために、連絡を取った定宿は満室。しかも、代わりに探したどのホテルも普段よりうんと値が張る。コスパ中心に選んだら、「寝室共用タイプ、バス、トイレも共用」などと書かれていた案内を迂闊にも読み飛ばしていた。
 福岡の初日、特急で博多入りし、すぐに荷物だけでも預かってもらおうとホテルに足を運んだら、文字通りのペンシルビルで「こりゃ、部屋は狭いな」と思った。狭いどころか、フロントで占有部分はベッドだけのカプセルタイプと知らされるや、にわかに冷や汗が浮かんできた。「寝るときに無呼吸症候群用のCパップという器具を装着する必要がありますが、枕元の電源は大丈夫ですか」と訊くと、「あリます」と言う。そう言いながら、小生の顔色が変わったのを見てなんだか不安になったのだろう。中年の大人しそうなフロントマンは「大丈夫ですか?」と心配そうに聞いてきた。
 「ちょっと時間をください」と断って、いったん外に出、心当たりのホテルに電話をかけるも、どこも満室、あるいは1泊は用意できても素泊まりで2万円近くする。カプセルタイプは1泊8000円、簡単な朝食も付いているという。それを捨ててまで別のところに乗り換えるのでは、コスパを意識した当初のホテル選びと首尾一貫しない。結局、諦めてフロントに再登場してチェックインした。「どうぞ、これを」。手続き後、気の毒そうなフロントマンに渡されたのは、周囲のイビキがうるさくて眠れない時用の耳栓だった。
 それから2日。ただでさえ眠るのが得意ではないのが、カーテンで入り口を閉ざすだけの2段ベットの下段では、なかなか眠りに入れない。それぞれの夜、会合があり、お酒を飲んで宿に引き上げた。深夜、人気のない別の階のシャワールームに忍んで行き、体を綺麗にし温めて、増したアルコールの勢いで睡魔を呼び起こそうとするが、なかなか応じてくれない。最終的に各日、3時間もうとうとできただろうか。
 それでも、客の多くが若い女性やバックパッカー、外国人観光客らで存外、礼儀正しく静かで助かった。懸念されたイビキの音も2日目、真上の段のベッドに入った若い日本人男性が酒を飲んでいたのか、時々、結構なオクターブで不協和音を奏でただけで、耳栓を入れて悶々とするほどの悲惨な事態には至らなかった。
 朝食も、用意のメニューは食パン、ロールパンとコーンフレーク、オレンジジュース、ヨーグルト、コーヒー、インスタントスープ(オニオンとコーンの粉末)だけではあるものの、食べ放題、飲み放題で、のんびりできるのがいい。お皿にパンとバターを山盛りにしてパクつく20歳代の男の子など、目にしているだけで活力をもらえた。
 「座って半畳、寝て一畳」とは、古の人々の、栄耀栄華も所詮、一人の人間の分には限りがあるという箴言。過ごしてみれば、温かい寝床を与えてくれ、貴重な体験ができた、ありがたい一畳の宿だった。
 と思うことにしたら、昨夜はストンと眠れたのだ。そんな話を今朝の散歩中にパートナーにすると、「そうか、あなたの眠りにはストレスを溜めるのが一番ってなわけね」と納得したように言う。何を考えているのか、怖い話ではある。
 

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